14.ガラスの家
なかなか時間通りといきません。
システーナと遊んでいるうちに、いつの間にか、竜さまの洞に着いていた。
「りゅーさまー! 大風が来るよー!」
後肢を見ていた竜さまが、こちらに首を向ける。
――うむ。シス、これを降ろせるか?
竜さまが鼻で上を示した。
「はい!」
いい返事で、システーナはぴょーんと跳躍し、鍾乳石の出っ張りに手を掛けつつ、鳴り竹を取る。
――風で壊れては事じゃ。大風の間は、邸に置こう。
「分かりました。――これって、鳴り竹ですかー?」
「おおおお!」
竜さまが鳴り竹を大事にしている!
嬉しさで身体がびりびりする。
「エーヴェが作ったの! りゅーさまへのお土産!」
「ああ――、そっか」
全部分かった笑顔で、システーナが頭をわしゃわしゃなでる。
「りゅーさまは、大風の間どうしますか?」
竜さまは金色の目をぱちぱちした。
――強さにもよるが、すこし遊ぶ。
少し羽をふくらませる竜さまに、わくわくがこみ上げた。
「飛びますか!?」
竜さまが鼻息をもらす。
――さてな。
りゅーさま、余裕綽々です!
「おお、りゅーさまかっこいい! あ! エレメント、雷嬉しそうでした。りゅーさま雷好きですか?」
ひょーんと鳴いてたエレメントを思い出す。
――うむ。雷は面白い。空中では厄介じゃが、地上だとぴりぴりする。
「ぴりぴり!」
竜さまにとって、雷はちょっと刺激的、くらいなのかな?
それにしても、大風で竜さまがぶわっと飛ぶなら、絶対見たい!
「ばっさばっさー!」
手が羽になったつもりで、その辺りを駆け回る。
後肢に来たところで、水玉を発見した。
きれいな球体になってて、見るからにリラックスしてる。
「水玉、りゅーさまの足のぼったりしないのですか?」
近くに寄っても、とくに怖がる感じはない。
やっぱりニーノが特別怖いのかな? それともまだ寝てる?
――どうやら、わしの体は熱すぎるようじゃ。爪くらいが心地いいのだろう。
「ほー」
「こいつは大風でぶっ飛びそーですよ、竜さま」
のしのし歩いてきたシステーナが、しゃがみ込んで様子を見る。
――ふむ。確かに。
「じゃあ、ひなんさせないと」
システーナを見上げる。
「んー、でもこいつ、捕まえたら、ぎゅーってすっからさー。触りたくねーよ」
「りゅーさまが話したら、分かりますか?」
竜さまが鼻先を後肢に近づける。
しばらくして、首を傾けた。
――こやつにとっては、ここがいちばん居心地がよい。安全な場所など知らぬ赤子も同じ。
「赤子――ロペとおんなじ」
「ロペ?」
「お泥さまの座で最近生まれた子どもだよ」
確かに、ここは危ないから逃げなさいと言われても、ロペは何もできない。
強い風の音に洞の入口を振り返る。
だんだん風が強くなっている。
「竜さま、お邪魔します」
明るい声は、ジュスタだ。
「ジュスタ!」
見ると、髪はポニーテールで、顔はすすけてる。
「エーヴェ、シスさん。鍛錬から戻ったんですね」
髪型も珍しいけど、持ってる物がもっと珍しい。
「ジュスタ、それ、なんですか? ガラス!」
シンプルな鉢形のガラスだ。結構大きい。
「うん。いろいろ無茶やって、さっき仕上げたんだ。竜さまのよだれの子はいるかい?」
竜さまのよだれの子! とても良い言い回しです。
「ここだよ!」
「今、こいつをどうやって避難させるか話してんだ」
ジュスタがやって来て、ガラス器を置く。
おや? 水玉とサイズがぴったりだぞ。
「竜さまの鱗が好きなんだから、竜さまに関係するなら安心するかなと思って」
「あー、そういやガラスって、竜さまのうんこだっけ?」
「材料の一つですね」
ガラス器でつんつんすると、水玉はぷるんと震えて、ガラスを覆い始める。
薄くなって、全部を覆ったあと、へこんでる形に気がついたみたい。徐々に、鉢に収まっていった。
……なんだかちょっと、ネコみたい。
でも、見た目は水がぎりぎりまで入ってる鉢。
竜さまを見上げる。
「水玉、これ、気に入った?」
――うむ。気に入っておるぞ。
「おおお!」
「うん。これで、持ち上げられる」
ジュスタが鉢ごと水玉を持ち上げる。
「かんぺきです!」
「朝から、これ作ってたのかー。すげーな」
「へへ」
ジュスタがにっこりする。
竜さまが空を見上げた。
――風が強まる前に、皆、邸に戻るがいい。
「エーヴェ、ひなーんひなーん!」
「避難、避難!」
システーナとぴょんぴょんしながら、竜さまに挨拶して邸に戻った。
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