13.珍しいことふたつ
大変遅くなりました。
翌朝、食堂に行くと、具だくさんスープをニーノが持ってきてくれる。
「おはよー、ニーノ!」
システーナも皿を持って、テーブルについた。
「今日はシスと鍛錬に行ってこい」
「あれ、ジュスタは?」
食卓にはジュスタがいない。
きょろきょろ周りを見る。
「工房だ。何か作りたい物があるらしい」
「大風と関係ありますか?」
「何を作るかまでは聞いていない」
あのガラスで何か作ってるのかな?
でも、朝ご飯食べないなんて、とっても珍しい。
「今日、鍛錬行っていいですか?」
「竜さまによると、夜には大風が吹く。昼前には帰りなさい」
「すぐだね!」
「じゃあ、さっと行って来なくちゃな」
システーナは、具だくさんスープを幸せそうにかみ砕いてる。
「エーヴェ、ジュスタにご飯持って行く!」
お腹がすいたら、元気が出ません。
ニーノが首を振った。
「軽食を持たせた。心配ない」
「おお! よかった」
「さすがニーノだな」
にやっとシステーナが笑う。
ごちそうさまと同時に、二人で邸から駆け出した。
システーナの軽いジャンプは、私が六歩走ると地面に落ちてくるペース。
軽々飛び上がるシステーナは、何度見ても楽しい。
「シス、雨が降るとしょんぼりしますか?」
「んー?」
すたっと地面に戻ってきて、システーナは歩き始める。
「雨くらいじゃしょんぼりしねーよ。ざーざー降ったら、ずぶぬれの木とか鳥とか見るのもおもしれー」
「大風だとしょんぼり?」
システーナはにやっとする。
「大風はつえーから、飛び上がるわけにもいかねーし、飛んでくる物よけてじーっとしてなきゃいけねーし、やっぱりしょんぼりするぜ」
すごく堂々としたしょんぼりする宣言だ。なんかやっぱり想像できない。
大きな木を登りながら、おしゃべりを続ける。
「シスは竜さま好きなのに、いつもどこか行くの、さみしくないですか?」
「はっはぁ? お泥さまの座でさみしかったか?」
「みんないたから、さみしくないよ! でも、りゅーさまには会いたかったです」
反論すると、システーナはからから笑う。
「さみしいけど、竜さまはここにいてくれっから。やりてえよーに、やればいいんだよ。前も言ったけど、あたしは鉱石を掘ってる。森を歩くだけでも大事なんだ」
「森を歩く?」
「お泥さまの座から戻ってきたとき、変わってるとこ、あっただろ?」
「あったよー!」
花が咲いたり、実がなったりを説明する。
システーナが目をキラキラさせた。
「よく気がついた! えらいなー。そーやって森は変わるんだ。新しいものが増えたり、古いものが消えたりする」
木のてっぺんまで来て、システーナは西の空を指す。
「ほら、すげー雲だ」
思わず、息をのんだ。
生クリームみたいになめらかな雲が、幾重にも連なっている。
「あれが大風の端っこだ」
「夕方に来るのに、もうあるの?」
「もうあるな。びっくりだな」
「シス、怖くない?」
システーナはにやにやしている。
「大風はめったに来ねーんだ。珍しい空がいっぱい見られるぜー」
わくわくしてる顔を見て、もう一度、西の空を見る。
低い雲は灰色生クリームだけど、近くの空は光をいっぱいに含んだ深い青。
対照的で、目がちかちかする。
生ぬるい風がふわっと髪をなでていった。
「ニーノは邸でいろんな知恵や知識を積み重ねてっけど、外のことも気にしてんだぜ。だから、新しいものがあれば、知らせてやる」
いつの間にか、話が戻ってる。
「それで、シスはムカデのことも知ってます!」
「そーゆーことだな」
システーナとニーノとジュスタ、とってもバランスが取れていると思う。
急に抱えられて、木のてっぺんから地面まで落ちる。
「うひゃー!」
なめらかな雲は一瞬で見えなくなった。
「早く行くぞ! 昼前に鍛錬終わんなきゃな」
「はーい!」
システーナとの鍛錬は、やっぱり楽しい。
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