12.大風のしらせ
邸に着くと、システーナは大きなあくびをした。
「ニーノのこと笑ったけどよ、あたしもねみーんだ。ちょっと寝るよ」
「え、シスとおしゃべりしたい」
「後でなー」
頭をぐしゃぐしゃにして、システーナは自分の部屋に入っていく。
「ニーノ!」
「――あの場所からここに戻るのに、短くて二日だ。寝ずに走ったのだろう」
システーナの意見が優先、という目だ。
むー。ニーノが言うなら仕方ない。
「じゃあ、エーヴェ、荷物のしまつするよ!」
ジュスタとニーノが、作業台にカゴの中身を空けていく。
「ガラスがあるから、エーヴェはニーノさんを手伝ってな」
落下で壊れたのは、ガラスだけじゃなかった。ひび割れて、中身がこぼれた竹筒があったみたい。
「薬草が濡れるのは困る。エーヴェ、そちらに布を広げるから、薬草を並べていけ」
「はい!」
手渡される薬草を、布に並べていく。薬草はからからに乾いていて、押し花を並べてる気分だ。
「――え? 持って行った薬は全部使ったんですか?」
「あちらに治療ができる者がいたから、使い方を説明して全て預けた」
「ああ……、じゃあ、これはそのお返しですか」
ジュスタとニーノが作業しながら話している。
「カンデだよ! 杖の先が光ってて、声がかっこいいのです」
「へえ」
「手許を見ないと、貴様も指を切るぞ、ジュスタ」
「あ、注意します」
ニーノから渡される薬草が止まったので、ジュスタの手許をのぞく。
「割れたの、どうしますか? 修理?」
ジュスタは手を止めて、こっちを見る。
「ガラスはとっても優秀でね。修理は難しいけど、溶かして新しく作り直せるんだよ」
「おお!」
リサイクルだ!
ジュスタは本当にいろいろ知っている。
「割れてしまって残念だ。ガラス器はどれも役に立った」
「それはよかったです。また作りましょう」
割れたけど、ジュスタはなんだか嬉しそう。壊れたことより、役に立ったことが嬉しいのかな?
ジュスタはガラス片が入ったカゴを、まとめて抱え上げる。
「俺は、これ、工房に持って行きますね」
「エーヴェも行くー!」
ニーノは頷いた。
「そのまま、鍛錬に行きなさい」
「はい!」
急いでジュスタの後を追う。
「ジュスター! それで、また、ニーノの道具を作りますか?」
ジュスタは歩調をゆるめて、にかっと歯を見せる。
「ニーノさんの道具は、新しいのでやるよ。実は、ちょっと考えがあるんだ」
「考え!」
ジュスタの雰囲気はウキウキしてる。
きっと、いい考えです!
鍛錬に行って、戻って、竜さまとの夕陽を見たあと、邸に帰る。(水玉は後肢に移動してて、ぱっと見つからなかった。)
「あー、おきたー」
私が日課をこなしたところで、システーナはようやくお目覚めだ。
「シス、いっぱい寝ました!」
「ふぁー。いっぱい寝たー!」
まだあくび交じりで、ニーノが作る晩ご飯をだらだら待ってる。
「そんなに一生懸命走るなんて、どうしたんですか?」
食卓を整えながら、ジュスタが聞いた。
だらだらシステーナの横で、私は足をぷらぷらする。
「あー、そうそう。大風が来そうなんだよ! だから、邸に戻ろうと思ってさー!」
「大風ですか?」
「貴様、それを早く伝えろ」
葉包み焼きがのった皿を運ぶニーノが、眉をひそめる。
「大風ってなーに?」
「大風っつーのは嵐のすげーやつ。砂漠で生まれてやってくんだよ。普通の嵐は、座の端っこのでけー森で弱まるんだけどさ、ときどき逆に強くなるやつがいんの」
「ほー!」
暴風雨か! 台風かな?
「大風の中、森にいると、すんげーしょんぼりすっからさー! 邸はいーぜ!」
台風の森の中で、びしょびしょになってしょげてるシステーナを想像してみる。
……あんまり想像できない。
「大風ならば、窓の補強をすべきか」
「工房が心配だな。どのくらいの規模ですか?」
真面目な問いに、システーナは首をひねる。
「かなり、やばそうな気ぃするな。お泥さまの座から、大風の前に帰って来てよかったなーおちび」
にやっと笑顔を向けられる。
よかったとは思うけど、システーナの表現じゃよく分かんない。
ニーノも同じ感想みたい。
「貴様に聞いても、らちがあかない。竜さまにお聞きしよう。時期は?」
「明後日くらいじゃねーかな」
「分かった。――それで、貴様ら、手は洗ったか」
システーナと顔を見合わせて、一緒に手を洗いに走った。
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