6.洞の鳴り竹
遅くなりました。
だいたい四十日ぶりの鍛錬の森。ジュスタと一緒に歩き回る。
見慣れたものと再会して、楽しい。
変わっているところを探してジュスタに指し示す。
枝が折れたり、芽が出たり、花が咲いたり、実がついたり。
木に登って石の上を伝い渡る。昼ご飯は高い木の上で、葉包み焼き。香ばしさが久しぶり。
早めに邸に帰って、部屋にお土産を取りにいって、竜さまの洞に向かう。
「かんぺきです!」
「何がだい?」
隣を歩くジュスタを見上げる。
「遺跡に行ったときより、素晴らしい感じがします!」
遺跡から帰ったときはくたびれて竜さまの側で寝ちゃった。次の日は、わがままを言って竜さまの所にずっといて、ニーノに心配かけた。
でも、今回はちゃんと部屋で寝て、鍛錬に行った。
ふっふっふ。
「エーヴェ、成長してます!」
宣言すると、あっはっはとジュスタは明るく笑う。
「そうだな。毎日、エーヴェは成長しているね」
優しく頭をなでられて、にこにこする。
「りゅーさまー! ただいまー!」
洞の入口から走って、竜さまに飛びつく。
――エーヴェ。帰ったか。
「はい! りゅーさまにお土産だよ!」
黒の鳴り竹を高く掲げる。からからといい音が鳴った。
――ほう。音が鳴るのか。
「鳴り竹です。お泥さまの座で、みんなの家にかかってます。みんながいるよーっておどろさまに知らせるのです」
――ふむ。
洞に吹き抜ける風で、鳴り竹が鳴る。
――よい音色じゃ。
竜さまの気に入ったのかな? 大成功だ!
「この鳴り竹はエーヴェが作りました! エーヴェ、ここにいるよー、りゅーさまー!」
ぴょんぴょんすると、鳴り竹もからんからん鳴る。
――鳴り竹がなくとも、エーヴェがどこにいるかは、すぐに分かるぞ。
「おおー! りゅーさまは偉大!」
うっふっふーと笑って、踊る。
「エーヴェはここにーいるのですー」
ジュスタが笑いながら、しゃがみ込んだ。
「エーヴェ、鳴り竹どこにかけようか」
「風が吹くところがいいよ!」
洞をくるっと見回して、固まる。
自然石の洞には、何かを掛ける手がかりがない。奥の方は天井の位置が少し低いけど、ひっきりなしに風が通り過ぎるから、鳴り竹がずっと鳴ってしまう。
「おおお。いいところがありません」
――ジュスタ、ここに縄のかかる岩の裂け目がある。
竜さまが洞の高いところを指す。
ジュスタが位置を確認し、縄を投げて、鳴り竹を設置してくれたけど、竜さまの目線の高さなので、床からはよく見えない。
竜さまとしばらく待ってみたけど、外からの鳥の声や洞に吹き込む風の音しかしない。
「鳴らないね」
「風がないのかな?」
――大事ない。
竜さまが鼻を寄せ、ゆっくり息をかけた。
カラカラカラ
「いい音!」
音が止まると、竜さまがまた息を吹きかける。
――なかなか愉快じゃ。
何度か音を鳴らして、竜さまは満足そうだ。
お泥さまの座とは全然使い方が違うけど、竜さまが鳴らしてくれる鳴り竹もとっても素敵。
「――竜さま、ニーノさんはまだ目が覚めませんか?」
ジュスタの声に、はっと気がつく。
「そーだ、ニーノまだ寝てますか!」
竜さまの背中によじ登ると、ふわふわたてがみに埋もれてニーノが眠っている。
近づいてもあんまり寝息が聞こえないけど、顔色は昨日よりもいい気がする。
――あと一日といったところか。
なんだか、電力零のバッテリーみたい。
「ニーノ、いっぱい寝ます」
――起こすでないぞ、エーヴェ。
「分かりました!」
答えて、竜さまの首を登る。ふわふわで、でも強いたてがみの感触に、うきうきする。
竜さまの頭の上に着くと、天井に下げられた鳴り竹がよく見えた。
――なかなかよい土産である。
竜さまがゆったり鼻息をかけて、鳴り竹がカラカラ鳴った。
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