おまけ モモまつり
遅くなりました。
ごおっという音の圧力に、ぺちゃんこになりそう。
エレメントの床にへばりついてたら、ふっと軽くなって顔を上げた。
ニーノが無表情に右手を差し出している。
……あ、これは!
「大丈夫か?」
お手で声が聞こえる。また防音してくれたんだ。
「はい! ニーノ、魔法かけました!」
急いでエレメントの床に張りついた。
今は、下に広がる緑が竹林だと分かる。
お泥さまの座は、もう遠くなってしまった。
最初は十三人もいて、覚えられるか自信がなかったのに、今はそれぞれの顔が思い浮かぶ。
最初にお泥さまにもらった花のことを思い出して、すこし泣いた。
お泥さまの「またおいで」を思い出して、背筋が伸びて、明日一緒に泳げないことに、また寂しくなる。
ルピタからもらった竹とんぼをにぎって、鼻をすすっていたら、ニーノが傍に来た。
「食事にしよう」
渡されたのは、昨日の夜に出たご飯のおにぎりだった。
うるうるしながら食べたから、昨日よりもしょっぱく感じる。
「……ニーノ。おどろさまの座、楽しかったです」
「そうか。――どんなことがあった?」
聞かれて、ちょっと驚く。
「お! ニーノ! ニーノはおどろさまが好きな食べ物、知ってますか?」
「水底の泥を口になさると聞いたが」
これは、ニーノは知らないぞ。
「タタンがね、おどろさまはモモが好きって言ったよ。だからね、エーヴェ、おどろさまに、モモが好きですかって聞きました」
お泥さまの泡の上に乗って、お泥さまに聞いたら、ルピタが慌てた。
「ダメだよ! エーヴェちゃん! それ内緒!」
「内緒?」
ぷわっと明るくなったような気がした次の瞬間、むわっとお泥さまが水面に顔を出した。
――モモ? わしはモモが好き。モモ、ある?
声が聞こえる間にも、お泥さまはくるーっと泳ぐ。
「竜さま、竜さまの好きなもの聞いただけなんだよ。今はないよ」
「――あ、エーヴェが言ったから?」
周囲を丹念に見て回って、お泥さまの泳ぐスピードはだんだん遅くなった。
――モモ、ない。前、食べたから、まだ熟していない。
お泥さまの頭に乗ってた水草が、色が暗くなって滑り落ちる。
うわぁあああ! お泥さま、がっかりしてる! とってもがっかりしてる!
「ごめんなさい、おどろさま! エーヴェ、ただ聞きたかっただけです!」
お泥さまが悲しそうで、とってもショックだ。
水中に顔を隠してしばらく、お泥さまの声が聞こえた。
――大丈夫。熟したら、皆運んでくる。
心を修めるためなのか、その日はお泥さまは顔を見せてくれなかった。
「座のみんなは、モモが実ったときに、モモをたっくさんカゴに入れて、おどろさまにあげるんだって! その日はみんなでモモ食べて、ぷわっと光るおどろさまを見て、曲をして、とっても楽しいんだって!」
座に着いたときは、モモまつりは終わった後だったらしい。最初の夜にもらったモモは、残った数個のうちの一つ。
「エーヴェ、見たかった! おどろさま、モモを食べると、金色にぷわっと光るんだって! とっても素敵」
「そうだな」
「残念です。エーヴェたち、ちょっとだけ遅かった」
間に合っていたら、お泥さまに内緒の質問をして、がっかりさせることもなかったのに。
「――次の機会がある」
ニーノの言葉に、青白磁の目を見つめた。
カンデが大きくなるまで全然お泥さまの座に行かなかった話が、ちょっと頭をかすめる。
「どうした?」
「――エーヴェ、次はりゅーさまと行くもんね!」
両手を上げて宣言する。
竜さまとモモまつり参加です!
しばらくぴょんぴょん飛び回って、ニーノの所に戻った。
「ニーノはおどろさまと何のお話しましたか?」
エレメントの旅は長い。
お泥さまとみんなのことをたくさん話せる。
次より新章です。
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