21.前の日
ルピタがやって来たのは、まだ薄暗い時間だった。
「エーヴェちゃん、来て、来て」
「おお……、タタン……、まだ暗いですよ?」
むにゃむにゃしながら、寝台から出る。
迎えに来ると言ってたけど、こんなに朝早いとは思わなかった。
「朝早くないと、ダメなんだよ」
暗い道をルピタと一緒に歩く。
朝日が近い空が見上げた。湿り気と、起き始めた水鳥の気配に、特別な感じがする時間だ。
「あれ? タタンどこに行きますか?」
お泥さまに会うはずなのに、水辺に近づかない。
「ちょっと待ってね……」
ルピタは竹林を気にしている。急に、ぴんと背が伸びた。
「エーヴェちゃん! こっちこっち!」
呼ばれた先をのぞき込む。
「お! キノコです!」
笠が青いキノコだ。とっても珍しい。形はエリンギに似ているかな? 竹の近くに、あちらこちらと顔を出していた。
「かわいいね!」
「食べられないんだけどね。かわいいよね! 日が出ると、しぼんじゃうんだよ」
二人でキノコをのぞき込む。
「あのね、このキノコね、エーヴェちゃんの目の色に似てるんだよ」
「なんと!」
改めて青い笠を見る。
みずみずしくてきれいな青だ。
「エーヴェの目の色はきれいですね!」
「そうだよー!」
ルピタにほめられて、ますます嬉しい。
「教えてくれてありがとう、タタン!」
うぉほっほすると、ルピタも一緒に踊る。
ルピタのうぉほっほは、高く弾んで蝶みたい。
「タタンはうぉほっほが上手です!」
「えっへっへー! タタンタンタンタン!」
「タタンタンタンタン」
ルピタと一緒にリズムを取った。
竹林の中に朝日が射しこんで来たので、水辺に向かう。
朝日が照らす水の中、しばらく泳いでいると、大きな影がゆったり近づいてきた。
「竜さまー!」
「おどろさまー!」
立ち泳ぎの足下に影が来る。ルピタは水音もさせずに、潜った。
――ルピタ、エーヴェ、朝、早い。ご飯食べたか?
「食べてないです」
答えると、すうっと流れが通り過ぎる。
ちょっと離れたところに、ルピタが浮かんだ。
「竜さまー!」
――ご飯、大事。
「あれ? おどろさま、帰っちゃう」
お泥さまの後を追って泳いだけど、当然追いつけない。
「んー、じゃ、エーヴェちゃん、朝ご飯に戻ろうか?」
「そうします」
水から上がった身体はちょっと重いけど、ルピタと走ると座まではあっという間なのだ。
朝ご飯の後は、荷物の片付けと家の掃除。今日まで住んだ家を、ニーノと一緒にきれいにする。ルピタも手伝ってくれて、嬉しい。
「ニーノさん、ちょっといいですか」
ハスキーな声。カンデだ。
ニーノは余った薬をカンデにあげるつもりだったみたい。代わりに、カンデは薬草を持って来たらしい。
「何か効能が分かれば知らせよう」
ニーノの言葉に顔を上げた。
「ニーノ、どうやって知らせますか?」
昨日もプラシドに言ってたけど、手紙でも書くのかな?
でも、文字も郵便制度もないな、この世界。
「竜さまとお泥さまは、互いにお話ができる。私たちもそこに加えていただく」
あ、そうか。ここに来る前にニーノが竜さまと洞にいた。
あのとき、そうやってお泥さまの座の人と話してたのか。
「じゃあ、エーヴェもタタンとお話しできますか?」
振り返った黒曜石の瞳も、きらきらしている。
「……まだ直接はできないが、成長すれば可能だろう」
「おお!」
成長したら、いつでもルピタと連絡が取れるようになるかもしれない。
掃除が終わって昼ご飯も済んでから、お泥さまに挨拶に行く。
水脈にいたお泥さまは、珍しく浅瀬に身体を乗り上げていた。
顎の下やお腹の赤が見える。
「お泥さま。明朝、こちらを発ちますので、ご挨拶にまいりました」
お泥さまの真ん前に着いた筏の上で、ニーノが頭を下げる。
――ニーノ。皆、とても助かった。
「ありがとうございます。お泥さまの座は穏やかな気配が満ちていて、役目に集中することができました」
ニーノは座の方角に顔を向ける。
「エステルもプラシドも、まだ回復の途上ですが、お泥さまの庇護があれば程なく快癒するでしょう」
また、視線をお泥さまに戻す。
「今後もお泥さまの座が安逸であるよう、願っております」
お泥さまはゆったりまばたきする。
次の瞬間、ぱくっとニーノの頭をくわえた。
「わ?!」
声を上げたのは私だけだ。
ふわっと光ったお泥さまはニーノの頭を放す。
――ニーノ、また、おいで。
「……ありがとうございます」
あ、ニーノが微笑ってます!
「エーヴェ、貴様もご挨拶しろ」
振り向いたときには、笑顔は消えている。
ぴょんぴょん前に出た。水から出たお泥さまは、近づくとやっぱり大きい。
「おどろさま、エーヴェ、おどろさまに会えて、とってもこーえーです! お泥さまの座は人がいっぱいいます! みんな面白くて、優しいです。タタンといちばん仲良くなれて、エーヴェはとっても満足!」
お泥さまはゆったり瞬きしてる。
「おどろさまと遊ぶのとっても楽しいです。ありがとうございました!」
おどろさまがふわふわ光った。
顔に影が差す。はむ、と頭を噛まれた感じがした。
――エーヴェ、また、おいで。
お? エーヴェも頭をくわえられたのかな?
「――はい!」
ぴょんぴょん跳ねると、お泥さまがまた、ふわっと光った。
じわじわしか進みません。
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