20.帰りじたく
遅くなりました。
エステルの家に行った日から、ニーノは帰ることを考え始めたのかもしれない。
ある日、ニーノはカンデと一緒に座の外に出た。一緒に行きたいと主張したけど、時間がないからと断られた。
帰って来たカンデに聞いたら、薬草の知識を交換したらしい。
「とっても面白そうです!」
「ああ。ためになった」
カンデは嬉しそうだ。
むー、連れて行ってくれればよかったのに。
一方の私は、毎日ルピタと遊んで、鳴り竹作り。
竜さまへのお土産だから、ちゃんと仕上げたい。
物作りのときは姿をくらませてたルピタが、最近は一緒にいてくれる。
ナシオの手拍子で踊ってたときは、マノリトがハラハラしてた。
「き、気が散るから二人とも止めよう?」
三人が面白くて、けらけら笑っちゃう。
鳴り竹ができあがる頃には、プラシドが杖をついて、歩く練習を始めた。足というよりは腕力で歩いてる感じだけど。
ニーノは、ほとんどあきれてる。
痛いって情けない声を出すけど、プラシドは頑張り屋さんです。
それでも何か言いたげだったけど、ニーノは溜め息だけついた。
「――そろそろ、問題ないか」
「うん。三十日を越えたよね。長居させた」
室内を杖をつきながら歩いたプラシドは、寝台に腰を下ろして頭を下げる。
「状況を見て、明日――いや、明後日には帰ろうと思う」
「えー! ニーノは泥人間にならなくていいのですか?」
思わず上げた声に、ニーノが冷たい目で見てくる。
「私はお泥さまとゆっくりお話しした。十分だ」
「なんと! いつ?」
あー! ニーノは空を飛べるから、知らないうちにお泥さまと遊んでいたのか!?
プラシドも目を丸くしている。
「俺もいつ話してたのか知りたーい。んー、しかし、お山さまのところから、あんまり借りてちゃ悪いのかな? ……けど、俺たちが感謝を示す時間とか、ないよね?」
「要らない。歌も踊りも食事も知識も、十分もらった。おどろさまにご挨拶だけしたい」
確かに、スベンザの狩りの後に豪華な食事があった。何度も甘露が必要だったので、歌も踊りも見た。ルピタに泳ぎを教えてもらって、鳴り竹も作ってる。
でも、心の準備が必要だよ!
「まぁ、ニーノちゃんらしいけど。どうだろ、竜さまの前で演奏するってことで」
挨拶のときに、ついでに演奏を見て行ってってことかな?
「――貴様とエステルが完全に回復したときに、演奏するのがいいだろう」
一瞬驚いた顔をしたプラシドが、眉を下げる。
「もー――ニーノちゃんだなぁ。そーだねー、道中の準備があるから、あさってがいちばん早いってところか」
「明日、お泥さまにご挨拶して、明後日の朝にでも」
話は決まってしまった。
なんてことだ。ニーノと泥人間になって、お泥さまと遊びたかったのに。
立ち上がりかけて、ニーノはプラシドに視線を向けた。
「プラシド、無理をするなよ。――私で役に立つなら、いつでも呼び立てて構わない」
プラシドがゆったり、にんまり笑う。
「うん。回復したら、ニーノちゃんにも知らせるね」
ニーノは無言で頷いた。
帰る日が決まって、またみんな忙しくなる。
「どれくらいの水と食事がいるんだっけ?」
「三日ほど」
「そろそろかとは思ってたけど、急すぎないかぁ?」
カジョとハスミンとドミティラが、食事のことであれこれ相談しだす。
「エーヴェは鳴り竹を仕上げなくては」
ナシオが声をかけてくれた。
「はい! そうだよ」
もう部品はそろったけど、組み上げが残っている。
ナシオとマノリトが、もう今日中に作ってしまおうと二人の部屋に呼んでくれた。
黒い竹で作った部品を、竹を丸く形作った輪につるす。部品がついた大中小の輪を、縄でつなぐ。輪は二人が作ってくれたけど、他は全部手作りだ。部品はみがいたから、つやつやしてる。
「できました!」
持ち上げると、からからといい音が鳴った。
「と、とてもいい音。よかったね」
にんまりしたところで、竹の床を走る足音が聞こえた。
「エーヴェちゃん! 明後日帰っちゃうってホント?」
勢いよく飛び込んできたのは、ルピタだ。
「はい。ニーノとプラシドが決めたよ」
立ち上がって、できあがったばかりの鳴り竹を見せる。
「タタン見て! りゅーさまへのお土産もできました!」
「ほ? ……わー! すごい! 上手だね!」
ルピタが拍手してくれたので、誇らしい。
「あ、じゃあね、明日、竜さまと泳ごうね! 朝から行こうね!!」
「はい! あ、でも、ニーノに聞いてみます」
たぶん、ダメとは言われないけど。
「分かった! 明日の朝、迎えに行くね!」
元気いっぱい叫んで、ルピタがまた駆け出していった。
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