表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

103/300

16.一口ずつかみしめる

遅くなりました。

 エステルに卵を渡すと、ルピタはすっかり気が抜けたみたい。

「よかったねー、タタン」

「うん、よかったー!」

 カゴを頭にのせて、ゆらゆら歩いている。

 プラシドの所に行くのは、ほとんど消化試合。

「はーい、プラシド。ワニの卵だよ!」

「え?! ルピタ、そんな物取ってきたの? 俺のために?」

「エステルのためだけど、プラシドの分も取ったよ」

 プラシドは嬉しそうだ。

「そうか、エステルのためか! ルピタはえらいなー。危ないことなかった? まさか自分でワニの巣に行ってないよね?」

 手招きされて、プラシドの寝台の端に腰掛ける。エステルのときに比べて、ルピタは平熱だ。

「マノリトが一緒に来てくれたよ。カジョたちがワニの注意を引いてくれたから、エーヴェちゃんと一緒に卵を持って来たんだ」

「エーヴェも! 勇敢だなぁ!」

 ほめ言葉のおこぼれに、背筋を伸ばす。

「さっき卵、食べました! おいしいから、プラシドもきっと元気になるね!」

「ありがとうー。ルピタとエーヴェの気持ちだけで、俺、すごく元気になるよー!」

 にこにこしながら、卵を()こうとするので慌てて止めた。

「中身とろとろです! お皿がいるよ!」

「ほら、使え」

 ナシオがプラシドに皿を渡す。プラシドの様子を眺めながら、腕組みして口を開いた。

「スベンザは取れたか?」

「うん、取れたー!」

 無言で頷くナシオの横で、プラシドが驚く。

「え? スベンザを狩りに行ったの? 俺の好物だからでしょー! みんな優しいなぁ」

「プラシド、うるさい! ワニの卵食べて!」

 でれでれするプラシドの顔を、ルピタはぺちぺち叩く。叩かれてるけど、プラシドはまったく気にしてない。匙で卵を口に運んで幸せそうにしている。

「プラシド、足は大丈夫ですか?」

 まだぐるぐる巻きの足を()す。薄茶色の目が光を含んだように笑った。

「明日には腫れが引くってニーノちゃんが言ってたよ。そしたら、足の曲げ伸ばしから練習するんだってさ」

「作り物の関節を入れているから、馴染むか心配していた」

 ナシオは重々しい。

 作り物の関節なんて、どうやって手に入れたのかな、ニーノ。

「まぁ、ニーノちゃんはすごいから大丈夫だよー」

 会ったときとは別人の顔で、プラシドが楽観的なことを言った。


 プラシドが卵を食べ終わるくらいに、ドミティラが昼ご飯を持ってやって来た。

「二人も食堂に行きなー。豪勢なご飯が待ってるよ!」

「分かったー!」

 ルピタと一緒に食堂に急ぐ。

「あ! ニーノ!!」

 食堂の入口の側で後ろ手に立っているニーノを見つけて、駆け寄る。

「ただいま戻りました!」

「ああ。――危ない真似はしなかったか」

 冷ややかな声に、自信を持って頷く。

「危ないことしてない。草……セリ! も取りました」

「よし」

「ニーノさんもお昼ご飯食べるの?」

 隣でルピタもニーノを見上げる。

「ああ。獲物が多かったからと招かれた」

 ルピタが真面目な顔をして手を差し出した。

「ニーノさん、エステルとプラシドの手術してくれて、ありがとうございました!」

「――いや。頼られたことを光栄に思う」

 ニーノはルピタの手を握る。

 うわー! 握手だ!

 ルピタがほっとしたように、にっこりした。

「ふふふー」

 ニーノの隣でぴょんぴょんする。

「なんだ?」

 冷たい目で見られるけど、またぴょんぴょんする。

 何だろうな? なんだか嬉しい気持ちだ。


 食堂の中は、良い匂いでいっぱいだった。

 お膳にほかほかご飯が置かれていて、具だくさんなスープが出される。

 白いスープだ。ふわりとセリの匂いがあるけど、全体的には味噌みたいな香り。肉団子と、丸くて赤みがかった灰色の物体が入っている。

 バーベキューみたいな焼き肉を想像していたけど、そういえば、体調が悪い人もいるんだもんね。

「大きな肉の塊は、塩をしてしばらく置いたほうがおいしいからな。今日のは、頭や足から出た小さい肉をたたいたんだよ」

 カジョが教えてくれる。

 腕が四本もあるから、料理が上手に違いない。

「ニーノ、スベンザだよ。狩りするところ、エーヴェ見ました」

 隣に座っているニーノを見上げる。

「ニーノはお肉食べられますか?」

「食べられる。心配するな」

 ニーノが白いスープを口にするのを見守って、自分も器を持ち上げる。

 スープは白味噌みたいな味で、セリが本当に合っている。肉団子はぎゅっと固かったけど、噛む度、力強い味が口に広がった。

 円い物体は、弾力のある豆腐みたい。血なまぐささは全然ない。スープを吸っていて、おいしい。

 ぶわっと涙が出て来た。

 涙をぬぐって、しっかり噛む。

 うー、スベンザの味がします。

「――うまいな」

 声を見上げた。いつも通り冷ややかな顔で、ニーノがスープを味わっている。

「……うん!」

 強く頷いて、鼻をすすった。

感情が乱高下です。


評価・いいね・感想等いただけると大変励みになります。

是非、よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] プラシドは快活で、いるだけでその場の空気を明るくしますね。沈着冷静なエステルもその明るさに支えられたり、助けられたりしているんだろうなと思います。 欠けていい人なんかいない。ニーノの言う通…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ