16.一口ずつかみしめる
遅くなりました。
エステルに卵を渡すと、ルピタはすっかり気が抜けたみたい。
「よかったねー、タタン」
「うん、よかったー!」
カゴを頭にのせて、ゆらゆら歩いている。
プラシドの所に行くのは、ほとんど消化試合。
「はーい、プラシド。ワニの卵だよ!」
「え?! ルピタ、そんな物取ってきたの? 俺のために?」
「エステルのためだけど、プラシドの分も取ったよ」
プラシドは嬉しそうだ。
「そうか、エステルのためか! ルピタはえらいなー。危ないことなかった? まさか自分でワニの巣に行ってないよね?」
手招きされて、プラシドの寝台の端に腰掛ける。エステルのときに比べて、ルピタは平熱だ。
「マノリトが一緒に来てくれたよ。カジョたちがワニの注意を引いてくれたから、エーヴェちゃんと一緒に卵を持って来たんだ」
「エーヴェも! 勇敢だなぁ!」
ほめ言葉のおこぼれに、背筋を伸ばす。
「さっき卵、食べました! おいしいから、プラシドもきっと元気になるね!」
「ありがとうー。ルピタとエーヴェの気持ちだけで、俺、すごく元気になるよー!」
にこにこしながら、卵を剥こうとするので慌てて止めた。
「中身とろとろです! お皿がいるよ!」
「ほら、使え」
ナシオがプラシドに皿を渡す。プラシドの様子を眺めながら、腕組みして口を開いた。
「スベンザは取れたか?」
「うん、取れたー!」
無言で頷くナシオの横で、プラシドが驚く。
「え? スベンザを狩りに行ったの? 俺の好物だからでしょー! みんな優しいなぁ」
「プラシド、うるさい! ワニの卵食べて!」
でれでれするプラシドの顔を、ルピタはぺちぺち叩く。叩かれてるけど、プラシドはまったく気にしてない。匙で卵を口に運んで幸せそうにしている。
「プラシド、足は大丈夫ですか?」
まだぐるぐる巻きの足を指す。薄茶色の目が光を含んだように笑った。
「明日には腫れが引くってニーノちゃんが言ってたよ。そしたら、足の曲げ伸ばしから練習するんだってさ」
「作り物の関節を入れているから、馴染むか心配していた」
ナシオは重々しい。
作り物の関節なんて、どうやって手に入れたのかな、ニーノ。
「まぁ、ニーノちゃんはすごいから大丈夫だよー」
会ったときとは別人の顔で、プラシドが楽観的なことを言った。
プラシドが卵を食べ終わるくらいに、ドミティラが昼ご飯を持ってやって来た。
「二人も食堂に行きなー。豪勢なご飯が待ってるよ!」
「分かったー!」
ルピタと一緒に食堂に急ぐ。
「あ! ニーノ!!」
食堂の入口の側で後ろ手に立っているニーノを見つけて、駆け寄る。
「ただいま戻りました!」
「ああ。――危ない真似はしなかったか」
冷ややかな声に、自信を持って頷く。
「危ないことしてない。草……セリ! も取りました」
「よし」
「ニーノさんもお昼ご飯食べるの?」
隣でルピタもニーノを見上げる。
「ああ。獲物が多かったからと招かれた」
ルピタが真面目な顔をして手を差し出した。
「ニーノさん、エステルとプラシドの手術してくれて、ありがとうございました!」
「――いや。頼られたことを光栄に思う」
ニーノはルピタの手を握る。
うわー! 握手だ!
ルピタがほっとしたように、にっこりした。
「ふふふー」
ニーノの隣でぴょんぴょんする。
「なんだ?」
冷たい目で見られるけど、またぴょんぴょんする。
何だろうな? なんだか嬉しい気持ちだ。
食堂の中は、良い匂いでいっぱいだった。
お膳にほかほかご飯が置かれていて、具だくさんなスープが出される。
白いスープだ。ふわりとセリの匂いがあるけど、全体的には味噌みたいな香り。肉団子と、丸くて赤みがかった灰色の物体が入っている。
バーベキューみたいな焼き肉を想像していたけど、そういえば、体調が悪い人もいるんだもんね。
「大きな肉の塊は、塩をしてしばらく置いたほうがおいしいからな。今日のは、頭や足から出た小さい肉をたたいたんだよ」
カジョが教えてくれる。
腕が四本もあるから、料理が上手に違いない。
「ニーノ、スベンザだよ。狩りするところ、エーヴェ見ました」
隣に座っているニーノを見上げる。
「ニーノはお肉食べられますか?」
「食べられる。心配するな」
ニーノが白いスープを口にするのを見守って、自分も器を持ち上げる。
スープは白味噌みたいな味で、セリが本当に合っている。肉団子はぎゅっと固かったけど、噛む度、力強い味が口に広がった。
円い物体は、弾力のある豆腐みたい。血なまぐささは全然ない。スープを吸っていて、おいしい。
ぶわっと涙が出て来た。
涙をぬぐって、しっかり噛む。
うー、スベンザの味がします。
「――うまいな」
声を見上げた。いつも通り冷ややかな顔で、ニーノがスープを味わっている。
「……うん!」
強く頷いて、鼻をすすった。
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