14.お土産いっぱい帰り道
遅くなりました。
カジョが途中で竜さまの鱗を返してくれた。
鱗でルピタの話し声を聞いて、回り込んで助けてくれたらしい。
それであんなにスムーズだったのか。
「しかし、今日中に座に戻るのは難しくなったな」
「どこかで夜を明かそう」
淡々としたカンデの言葉に、カジョが辺りを見渡す。小高い丘に生えたハーサの下に来て、マノリトやドミティラが周囲を確かめた。
「よし、ここにしよう。カジョ、火を頼むね」
カジョが火をおこし始める。
カンデは編み縄のやり方でスベンザの肉をまとめて、木の枝につるした。
「おおー! これで遠くから見えません」
「匂いでコヨーテが取りに来ても、これなら大丈夫だ」
「この辺りは、ヒョウは出ないはずだしな」
カジョが小さな火に枝をくべて、大きな火を作っていく。
「スベンザ食べますか?」
「穀物を少し持ってきているから、夕食はそっち。お腹空いた?」
「はい。お腹空いたよ」
ルピタはカンデと何か準備している。ロープを木の枝に放り投げた。
「何してるの、タタン?」
「寝る準備だよ! エーヴェちゃんは木の上で寝たことある?」
「太い枝の上で寝たことあるよ」
手で太さを示すと、ルピタの目が丸くなる。
「すごいね! そんなに大きな枝、見たことないよ。ここでは網を使うんだ」
「あみ」
気根の間にたれる物を見て、ピンときた。
ハンモックだ!
「おお! 楽しそう!」
「見張りがいるから大人は下で寝るけど、二人はゆっくり眠るんだよ」
「はい!」
寝るのが楽しみになってきた。
カンデの杖の先がぼんやり明るく見えている。
カジョが作っている料理が煮立ってきた頃、ドミティラとマノリトが戻ってきた。水の中に生えているのを見かけた丸い葉っぱと、キクラゲみたいな何かを持っている。
「これで夕飯が豊かになるよ」
適当な大きさに刻んで、カジョは鍋に放り込む。さらに、何か黒い粒を取り出して加えた。
「今の黒いのなんですか?」
「発酵させた豆だよ。風味が良くなる。ちょっとかじってみるかな?」
ほんの一欠片を掌に落としてくれた。
甘納豆みたいに真っ黒な豆だ。鼻を近づけると、微かに香ばしい。
口に入れてみた。
「んー!」
しょっぱい!
思わず吐き出しそうになったけど、慎重に飲み込んで水筒を引き寄せた。
とっても濃い醤油かな? でも、ちょっと酸味もある。
「しょっぱいよ!」
「スープにするとおいしいから、安心しな」
できあがった雑炊を、竹の器によそって食べる。
ドミティラたちが取ってきた葉っぱは、シャキシャキしてすっきりした香り。キクラゲに似た物は、熱で中がとろっと溶けて調味料のしょっぱさと合ってる。
「ホントだ! おいしくなった!」
お腹があったかくなって、気持ちもゆったりだ。
火から目をそらすと、草に切り取られた水面にたくさん星が浮かんでいる。もちろん、空も星でいっぱいだ。
「きれいだね」
「流れ星見えるかなぁ?」
ぱちゃんと水音がして、星の映った水面がゆらゆら揺れた。
ハンモックに寝るのは初めてだ。
網の目が大きくて腕が外に出せるので、しばらくルピタと遊んでいた。
「ねーなーさーい!」
ハーサの下で布にくるまったドミティラに怒られる。
自分の形にぴったりの、ゆらゆらする寝床はなかなか面白い。
生い茂った葉と垂れ下がった気根の間で、揺れる。
木の実になったみたい。
風でざわめく葉の音とカエルや虫の声、ときどき波立つ水の音。
目を閉じていろんな音を聞きながら、眠りに落ちた。
翌朝、起きてしばらくハンモックを揺らして遊んでから、木を降りた。
ハーサの気根はしっかりしてるので、出動する消防隊員みたいな勢いで下に降りる。
「おはよー! あ! 鳥さん?」
ドミティラとマノリトの荷物に、尾の白い水鳥がくくりつけられている。
死んでるのかな? 動かない。
「こ、これ、ハクビガン」
「今朝、夜が明ける頃に取ってきたよ」
「おお」
太陽を見ると、たしかにもう地平線よりは高いけど、みんな早起きだ。
「ド、ドミティラは、すぐに獲物拾えてた、助かる」
矢で射た獲物を、ドミティラはどこでもさっと拾いに行けるらしい。
軽くなれるのって、思いのほか便利だ。
ルピタもあくびをしながら降りてきて、朝ご飯になった。
朝ご飯を食べて、それぞれ荷物を持って座へ向かう。
行きは眠っていて見なかった景色だ。草の丈が低かったり、土手沿いに歩けると、遠くの鳥や生き物が見えて楽しかった。
形も色も様々なトンボや虫が飛んでいる。水の中には小さな魚の群れや水生昆虫や貝がいて、触ってみたい。きれいで珍しい花がいっぱいで、持って帰りたい。
「水の近くは、良いものがいっぱいあって大変です!」
「持って帰るなら、食べられるものにしよう」
カンデが途中で、食べられる草を教えてくれたので、たくさん摘んでカゴに入れた。
「――あ、竹が見えるよ!」
「もうすぐだね!」
今は隣に並んでいるルピタと顔を見合わせてにっこりする。
スベンザに、ワニの卵に、ハクビガンに、草!
良いものをいっぱい持って帰るのは、とっても嬉しい。
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