プロローグ
初投稿です。
ドラゴン好きの方に、楽しく読んでいただけたら嬉しいです。
目に染みる青い空。濃厚な緑と白茶けた岩壁が、ハイコントラストを描く。切り立った崖の上から、昨日の朝方降った雨が、滝になって落ちている。
吹き抜ける風はからりと涼しく、両手を空に突き上げ、思い切り息を吸いこんだ。
「いい天気ですね!」
振り仰いだ先の長身は、普段通り、黒に見える藍色をまとっている。
「当然だ」
にこにこしていいんだよー。お手本の顔をして見せる。
「約束された晴天だな」
よく通る声に顔を向ける。
木のてっぺんに、あぐらをかいた人影。胴に掛けた革帯の、小さな丸い縁飾りが、風にちらちらと輝いている。
――大げさなことだ。
くるりと身体を巡らせて、首を倒し、めいいっぱい上を向いた。
ブラキオサウルスのような長い首が、にゅうっとそびえている。横顔は鼻梁の長い犬に少し似ているかも。ゆったりした動きにつれて、鼻の頭から額、首から背に、きらきら光がこぼれる。鱗が作る構造色だ。
洞では茶色に見えていた身体は、日の光を受けて濃い青に輝く。
感極まった涙を、瞬きしてこらえた。
たてがみは細くて軽い毛で、風を含んでまるで白い炎だ。
木の根がちぎれるような音。驚いて見上げた先は、肩の辺り。折りたたまれていた羽がぐいーっと伸ばされる。
伸ばしきった羽の先端が邸に当たり、派手な音を立てて崩れた。
輝く金の瞳が、ちろりと邸を振り返る。
――ふむ。距離感を忘れた。
「二,七六五日ぶりのご飛行です。祝辞のひとつも申したかったのでしょう」
「どうせ朽ちるもの、竜さまの手になれば本願です」
右も左も恭しい。その真ん中で、私はぽかんと口を開けている。
二つの羽を合わせた長さは、体長とほぼ同じくらい。尻尾がかなりの長さを占めるから、首と胴体の長さイコール両羽の長さくらい。それを、打ち振るう。
風圧で周囲の木がしなる。滝が浮いて、水しぶきの虹が散った。
――耐えた!
両足を踏ん張って、その場に立ち続けられた。嬉しくて、右と左を確認する。頷いた二人を見て、遙か頭上に視線を戻す。
柔らかな風が、ふわりと前髪をなでていった。
二,七六五日――ざっくり、七年七カ月。
当然の快晴。
今日は、竜が空に戻る日なのだから。
――少しばかり、腹を満たしてくるとしよう。
声が聞こえた途端、垂直に爆風が落ちてきて、ぺたんと足を折った。
上昇気流など使わない。物理法則を超えて、すでに千メートル単位の上空にある。
尾をくねらせ、羽を動かすシルエットは、あこがれ続けたドラゴンの姿そのものだ。
かっこいいなぁぁー。
きっと空も、竜が戻ってきて嬉しいに違いない。
山の上空を旋回した竜が、ホバリングに切り替わる。
あー、スマホを持っていたら、ずっと連写しているな。羽が上向きになっても、下向きになっても、どこを切り取ってもかっこいい。
竜が首を持ち上げ……。
「――っ! エーヴェ!」
咆哮が届いた瞬間、私の意識は刈り取られた。
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