08
夕食後、今日の出来事をライザに話し、売り上げを渡した。俺に必要な物が出来たら言うから預かっておいてくれと言って。
「そう言う訳だから、暫くは一定の収入が得られると思う。差し当たってどれくらい必要なんだ?」
「そ、その・・・じゅ、十八万程になります・・・・・」
二年程前に俺の今着ている服の持ち主が金を稼ぎに行くと言って出て行き、暫くは仕送りが有ったが、一年近く音沙汰が無いのだそうだ。ライザは今の食堂にその頃から働き始めているそうだが、給仕と言うのは給金が低いのだそうで・・・家賃を払えずに身体を売るしかなくなったと。尤もその決心がついたのが俺が来た事で子供達の食事の心配が無くなったからと言うのは皮肉だが。
「家賃ってのは何処に払うんだ?期限とか有るのか?」
「支払いは役場の方に、期限は有りませんが・・・その、半年近く溜めているので、何時出て行けと言われてもおかしく無いんです・・・・・」
「ん?半年って・・・相場が解らないんだけど、ここの広さで月三万って安いんじゃないのか?あ、年十二ヶ月じゃないとかか?」
「は?月って何でしょうか?」
異世界だってのを忘れたってのも有るけど、常識が違い過ぎる。ライザの話だと一年四百日、半年二百日、四半期百日だそうで、四半期は新期、緑期、紅期、終期となっていると。今は紅期に入った所で、年明けの新期分と緑期分の二回分の内、少し払っているので十八万程残っていると言う事らしい。百日で十万、三ヶ月ちょっとでと考えるとやはり安い気がする。尤も日本人の感覚で、だが。
「以前は孤児院として正式な責任者の方が領主様から派遣されていたのですが・・・・・その・・・戦争でその余裕も無くなりまして・・・・・あ、それでもお家賃の方は安くして下さっているんです。責任者の方も優しい方でしたし・・・・・」
「悪い領主ではない・・・か・・・・・」
なるほどね。近くに鉱山都市が有るのに鉄製品が少ないのはおかしいと思っていたけど戦争で使ってるからか。それで、ここは正式には元孤児院って事か。
「まぁ領主とか戦争の事は良いや。所でライザの給金って幾らなんだ?返済計画立てなきゃならないし、教えて貰えるか?」
「は、はい・・・その、一日千ゴーンになります・・・・・」
「ブッ!安っ!いくら何でも安過ぎじゃないか?!」
「い、いえ!おじさまが気を使って下さって他より良い位なんです!決して騙されてるとかそう言う事は有りませんから!」
何でも普通は住み込みで、仕込みから片付けまで手伝って八百ゴーン位だそうで、あの食堂のおじさんが子供達の世話をしているライザに気を使ってくれているのだそうだ。まぁ、俺もそんなに稼げてる訳じゃないし、偉そうな事は言えんか。
にしてもだ、百日十万って事は一日千だろ・・・・・ハァ・・・こりゃ前途多難だな・・・・・
今の稼ぎじゃ完済するのに百八十日。それも俺が一日最低千ゴーン稼いだ上に、全て支払いに回しての話だ。下手すりゃ強制退去させられちまう。
「そ、その・・・言い難いのですけれど・・・・・終期の前に冬支度をしないと・・・・・」
マジで頭いてぇ・・・ライザに冬支度とは何かと聞けば、この辺りは雪が積もる程寒くなるので最低でも百日分の薪と保存食が必要なんだそうで・・・・・まぁ、食料の心配は無いけど薪かぁ・・・・・出来れば子供達に防寒着なんかも買ってやりたいよなぁ・・・ハァ・・・・・・マジで溜息しか出ねぇ。
何にしても今は紅期で百日もしない内に冬が来る。何か手っ取り早く稼ぐ方法を考えないとな。
取り合えず今夜はお開きにして、ライザは二階へと上がって行った。ああ、俺は眠らないから部屋は要らないと言ってある。ってか、この食堂が俺の部屋みたいなもんだな。
一晩中打開策を模索している内に朝が来た。皆が起きてくる前にベンゾさんに渡すコッペパンを木箱二つに入れて荷車に積んでおいた。
朝食後にライザと出掛ける。やや俯き歩く彼女の横顔は暗い。昨夜の会話内容じゃ行き先が不安なのは当然だ。一日も早く彼女の不安を取り除けるよう頑張ろうと荷車を引く腕に力が入った。
ここまで読んで頂き有難う御座います。