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ロイドの町の北門が見えてきた。甲冑以外の姿でここへ来るのは久しぶりだなと苦笑いをした。
門の上で兵士達が俺を指さして叫んでいる。あれ?今更誰かなんて言わなくても解ると思うんだけど・・・・・
「ブレッドさんですね?今ここをお開けしますので少々お待ちを」
良かった。拒否られたら如何しようかと思ったよ・・・マジ泣きするかもしれんな・・・・・
「そうなんだけど、別に畏まらなくても良いから。俺はそう言うのも含めて無くしたいんだ。それと、要件は言わなくても解ってるでしょ?街道の雪も殆ど無くなったし、住民達の答えを聞きに来たんだ、二代目『飽食の王』として」
「は、はぁ・・・どうぞお通り下さい?」
困惑する門番の開けてくれた門を潜りロイドの町へと足を踏み入れた。あの日、この町を出た時の格好そのままで。
「いや、冗談抜きでこう言うのやめて下さい。俺は種族も身分も関係ない国を創りたいんですよ。出迎えとか要りませんから」
門の中では衛兵達が整列していた。マジで恥ずかしいから止めてくれ。
「我々の恩人であり、王となるお方を出迎えない訳には・・・・・」
「その辺も含めて無くしたいって言ったでしょ?案内とかも要りませんから皆さんは仕事に戻って下さい」
「その・・・・・仕事の事なのですが、我々の居る意味は有るのでしょうか?町の周辺に魔物は居なくなりましたし、襲って来る野盗も居ない町に兵士は必要ないのではないでしょうか・・・・・」
「町が平和ならそれで良いじゃないですか。ああ、職を失う心配をしてるんですか?その心配は有りませんよ。これからは町の外よりも中の警備を強化して貰いますから」
「町の中の方も平和なのですが・・・・・」
「今はそうかもしれませんが、今後は解らないでしょう?余所から来た者が悪さするかもしれませんし。皆さんには町の隅々まで見回って貰って、住民達の不満とかも聞いて貰おうと思っているんです。俺の目の届かない所を見て回って住民達の話を聞いて回る。言わば俺の目と耳の代わりになるんです」
「お、俺達が・・・王の目と耳・・・・・」
「そんな大役を俺達が・・・・・」
何か皆が感極まって泣き出しちゃったよ・・・もう良いや、ほっとこう・・・・・
衛士達を置いて町の中央へと向かった。ら、途中で突然衛士達が叫び出してビクッとした。喜んでるみたいで何より・・・と言う事にしておこう。
中央広場を半周回ってベンゾさんの屋台に顔を出した。役場なんて後回しだ。
「お久しぶりです。ベンゾさん」
「おう、漸く顔を出しやがったな。ザイツェンの奴が慣れない仕事でヒーヒー言ってるから、早く行ってやれ」
「夜中に遊び歩く余裕も有るみたいですし大丈夫ですよ。それよりも、残ってくれて有難う御座います。俺としてはこの町からベンゾさんの屋台が無くなるのは寂しいですから」
「よせよせ、世話になってんのはこっちの方だろうが。これから王様になろうって奴が簡単に頭下げんじゃねぇよ」
「ハハハ・・・それじゃ、また顔を出しに来ますね」
「おう、待ってるぜ。何時でも顔見せに来い」
以前と変わらぬ話し方をしてくれたベンゾさんと笑顔で別れた。彼は『待ってるぜ』と言った。俺はその言葉に答えるためにも、これから創る国を彼が、彼等が住み易い良い物にしなくてはならない。ガルさん達も言っていた。『お前が動かしたんだ』と。だから止まる事も逃げる事も許されない。俺はこの命尽きる時まで進み続けなくてはいけないのだ。
決意を新たに胸に刻み、ザイツェンさんの待つ役場へと足を運んだ。先ずは『昨夜はお楽しみでしたね』と揶揄ってやろう。
ここまで読んで頂き有難う御座います。




