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04

 何が何だか訳が解らない内に夕方になり母親が帰って来た。子供達は興奮して昼に有った出来事を口々に報告していたが、母親は何を言っているのか理解出来ないと言った表情をしていた。まぁ、幼い子供達が興奮してたら何言ってるか解らないよな。いや、そうでなくても理解不能な出来事だけど。


「かみさま、おひるのやつをおかあさんにもたべさせてあげたいので、おかあさんのぶんだけでいいからだしてください」


「「「「「おねがいします」」」」」


 ええ子達や・・・自分達は昼に沢山食べたからと、母親の分だけで良いからなんて言われて出さない訳がない。ハムサンドなんてケチな事言わねぇ、カツだ!カツサンドに野菜サンドにフルーツサンドもだ!!うおおおぉぉぉぉぉ!!


 俺の身体が眩い光を放つ。今やらんで何時やると言うのだ!ここで全力を出さなきゃ男が廃るってもんだ!!


 テーブルの上に次々とサンドイッチが現れる。子供達が、母親が目を見開き驚きの表情を浮かべ、次の瞬間に子供達が歓喜の声を上げた。


「うわああぁぁぁ!すごいすごい!!かみさまありがとう!!」


 ああ・・・よかった・・・頑張った甲斐が有った・・・・・さぁ・・・お腹一杯食べるんだ・・・ぞ・・・・・


 視界が闇に閉ざされて行く。燥ぐ子供達と母親の祈りの言葉を聞きながら俺は意識を手放した。


*


*


*


 俺がここに来てから十日が経った。相変わらず理解不能な現象ばかりだが、俺の意思で様々な‶パン〟を出せると言う事実は変わらない。時折身体が勝手に光る事も有るが特に何かが起こる事も無く時が過ぎた。


 子供達は好き嫌いも無く俺の出したパンを食べ続けているお陰か血色も良くなり、少しふっくらとしてきた。母親が時折見せる寂し気な笑顔が如何にも気になるが。


 そうそう、この十日で子供達の名前が解った。ジャンとフェイが男の子でミラ、クリス、ケイト、アンナが女の子だ。年齢は年長のジャンが十歳位で他は五歳から八歳位だろうか?正直どの子も身長が殆ど変わらないので判別しにくい。


 ああ、母親の事は皆がお母さんと呼んでいるために名前は解らないが、おそらく年齢は二十代半ばから後半位だと思われる。


 皆の日常会話から得られる情報はとても少ない。母親以外は敷地から出る事が殆ど無いためだろう。俺を買って来たジャンとミラ以外は外に出た事が無いのかもしれない。


 唯一連日外に出掛けている母親は多くを語らない。解っているのは食堂で給仕をしているらしい事だけだ。彼女一人の収入では生活が厳しいのも納得だ。俺が食料を出す分楽にはなっただろうが、この先子供達が大きくなれば服とか靴に金が掛かる。その事を、未来の事を考えて、彼女はあんな笑顔を見せるのかもしれない。




 そして更に数日が経った有る夜。皆が寝静まった頃に足音が聞こえ食堂の扉が開いた。そして、俺に掛けられた布が取り払われるとそこには母親が居た。こんな時間に小腹でも減ったか?


「・・・・・神様・・・貴方様のお陰でとても助かりました・・・心からお礼申し上げます・・・・・」


 膝をついて頭を下げ礼を言う彼女の声が震えていた。なんだ?あらたまって。礼なら何時も言ってるじゃないか―――


「・・・その・・・これからも皆の事を宜しくお願い致します」


 頭を上げ、立ち上がった彼女は涙を流していた。嫌な予感がする。待て!何処に行く気だ!


 布が掛けられ視界が闇に閉ざされた。足音が遠ざかり扉が閉まる音が―――


 何処へ行く気かは解らないが今行かせちゃだめだと無い腕を伸ばし、有る筈の無い足を踏み出し、彼女を引き留めようと出ない筈の声を上げた。




 そしてまた、奇跡が起こった―――




 扉を開けて外に出た。驚きの表情で振り返った彼女の肩を掴んで引き寄せ、真っ直ぐに彼女の瞳を見下ろした。


「行くな!あの子達にはあんたが必要なんだ!だからここに居ろ!金なら俺が何とかしてやるから!!だから・・・だからもう良いんだ・・・今までよく頑張ったな。後は俺に任せて、ここで子供達と幸せに暮らすんだ」


「ぅ・・・あああぁぁぁああぁぁぁ・・・・・!」


「大丈夫・・・もう大丈夫だ・・・・・」


 泣き出した彼女を強く抱きしめた。もう何も心配する事は無いと。自分が犠牲になる必要は無いのだと。


「さあ、家に入ろう」


 暫くして泣き止んだ彼女に優しく声を掛ける。俯いていた彼女が俺に背を向けた。


「・・・あ、あの・・・神様・・・ですよね?その・・・服を着て頂けないでしょうか」


「あ・・・す、すまん!」


 彼女を引き留める事しか頭になかったから気が付かなかった俺は慌てて家に駆け込んだ。だって食パンだったし、服とか着てる訳ないじゃん。緊急事態だったし許してね。

ここまで読んで頂き有難う御座います。

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