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俺の出したパンを男達が近隣住民に配って行く様を眺めながらスラムを纏めている女性と話をした。
「先ずは御礼を。食料の御提供感謝致します、魔王様。私の事はヘルガとお呼び下さい」
「俺の事はブレッドと呼んでくれ。流石に人族の街中で魔王を連呼されるのは拙いし。ああ、別に礼が欲しくてやってる訳じゃない。俺は俺の都合でやってるだけだし」
「それでもです。年々ここに来る者は増える一方で、私の力では真面に食事を摂らせてやる事も出来ませんでしたから」
「やっぱり戦のせい?それに託けて領主が不正に金を溜め込んでたのがばれて領地は王家直轄になったから、これからは多少は改善されて行くと思うけど戦は終わらない。俺は性別も種族も関係ない国を創りたくて行動してる。勿論身分もだ。現状ロイドの町の二日圏内から北方が俺の勢力圏だけど、春には王国軍が攻めてくる。それに合わせて魔族も鉱山都市に拠点を移す事が決まった。明後日には五百名の兵士が避難民の迎えに来るから、可能な限りここの住人を連れて行きたいんだ」
「・・・・・それは、王国軍と戦うための戦力としてと言う事ですか?でしたらお断り致しますが・・・・・」
「いや、戦うのは俺だけだ。連れて行く者達には鉱山都市の復興に手を貸して貰いたい。魔族だけじゃ手が足りないんだ。魔族と共に働き、手を取り合って生活をする。ゆくゆくはロイドの町と交易をして、異種族間の架け橋になれればと思ってる」
「人と魔族が手を取り合ってですか・・・それが困難な道程でも、ですか?」
「ああ。そもそも『魔族』って呼び名は『魔物を従える者』って言う人族が付けた蔑称だった。初代『飽食の王』はそれまでバラバラだった種族を一纏めにし、人族とも交流を図ったが、人族は彼等を見た目で差別した事から争いが始まった。長い年月が経って人族でその経緯を知っている人が居なくなったか、人族に都合が悪くて無かった事にしているか、魔族に伝わっている話が偽りなのかは解らないけどね」
魔族の歴史と言うか初代『飽食の王』に詳しい人に話を聞いて色々知った。流石に当事者じゃないから真偽の程は定かじゃないけどね。それに魔物を従えると言っても、彼等にとって魔物は人族で言う家畜と同じなんだけど・・・俺が全員倒しちゃったからもう居ないんだよなぁ・・・・・
「それが真実か如何かは今は良いでしょう。明後日までに移住を希望する者が居れば避難民の元へ送ればよいのですね?」
「ああ、そうしてくれると助かる。道中の安全は保障するよ。それと、商人を一人紹介して貰えないか?」
「・・・・・余り人にお勧め出来ない方で良ければ紹介出来ますが・・・・・」
「ああ、人身売買さえやって無けりゃ多少の事は目を瞑るよ。って言うか、非合法な事なんてやらなくても済む位には稼がせてやるし」
「そうですか・・・解りました、付いて来て下さい」
取り巻き八人に囲まれたヘルガさんの後に付いてスラムの奥へと進んで行く。十分程して着いた建物は看板も無く、凡そ商売をやっているとは思えない大きな倉庫のような建物だった。
「貴方達、ロレンツは居ますか?」
搬出入口と思われる大きな扉の前で焚火を炊いて屯していた五人の男達にヘルガさんが声を掛けた。
「おや、ヘルガさんじゃないですか。お頭でしたら居りやすが、何用で?」
お頭って・・・ヘルガさんの敵対勢力とかじゃないよね?ちゃんと・・・はしてなさそうだけど、商人なんだよね?
「こちらの方に商人を紹介して欲しいと頼まれましてね」
「へぇ・・・それでお頭をねぇ・・・・・失礼ですが、お名前は?」
「ブレッドだ。居るんなら取り次いで貰いたいんだが?」
「ふぅ~ん、ブレッドさんね・・・まぁヘルガさんの紹介じゃ断れねぇでしょうが、お頭に聞いて来ますんで少し待ってて下せぇ」
態々紹介して貰ったってのも有るけど、どんな奴かなんて会って見なけりゃ解らないし、今は時間が惜しいからここに掛けるしかないと、焦る気持ちを抑えつつ中に入って行った男が戻って来るのを待った。
ここまで読んで頂き有難う御座います。