03
朝が来たらしい。俺がパンに生まれ変わって三日目の朝だ。昨夜は布を掛けてくれたお陰でGの襲撃に怯える事はなかったが、周囲の状況が視認出来ないと言うのはそれはそれで恐ろしい物だった。
現状俺には視覚と聴覚しかないために視覚が制限される事で聴覚が鋭敏になり、ほんの僅かな音にさえ怯える夜を過ごしたのだ。
二階から声が聞こえてきた。子供達が起きたようだ。
足音が近付いてくる。扉の開く音と子供達の燥ぐ声が聞こえた。
俺は布を掛けられたまま乗せられた皿ごと運ばれた。何処へ?と思ったが、直ぐに降ろされ布が取り払われた。テーブルの上だ。俺を囲んで座る子供達が胸の前で手を組んでいた。
「パンの神様、私達に生きる糧をお与え下さい」
「「「「「おあたえください」」」」」
母親が、子供達が俺に祈りを捧げた。え?パンの神様って俺?いや、この子達のためにパンを出すのは吝かではないけど、神様じゃないと思うぞ・・・多分。
口が無いから神では無いと否定も反論も出来ないが、ここで増やさなければ俺本体?が食べられて無くなるし、子供達の落胆する顔も見たくない。と言う訳で、取り合えず昨日の感覚を思い出しながら二斤出した。
「「「「「パンのかみさま、ありがとうございます!!」」」」」
ああ・・・やっぱり子供は笑顔が一番だ・・・・・
母親と年長の男の子が手分けして俺を調理していく。
「かみさまぁ・・・かみさまはいつまでここにいてくれますか?」
テーブルに乗せられたままの俺に一人の女の子が不安気に聞いてきた。その言葉に全員が一斉に俺を見た。いや、怖えーし。そんな目で見つめられても答えられないし?何より足が無いから何処かに行くとか出来ないし。まぁ、出来るだけご期待に沿えるようにするつもりだけど。
食事が始まった。相変わらず具の少ないスープと俺だけか・・・・・主食の俺が増えただけでもましか・・・一人一切れだった物が一枚とか一枚半になってるし。
食事の後半に差し掛かると俺の身体が光った。が、一斤のままで増えた訳じゃない。如何言う事だ?自分の身体だと言うのに何が起こっているのか解らない。
「もう・・・ふえないのかな・・・・・」
一人の男の子がぼそりと溢した一言に、子供達が今にも泣き出しそうな顔で俺を見た。止めろ!今出してやるから!そんな顔で俺を見るな!マジで心に刺さるから!
追加で一斤出してやると子供達に笑顔が戻った。泣かれなくて良かった・・・あれ?昨日は確か三斤出して気を失ったよな?なんでだ?
困惑する俺を余所に、母親が俺の出した俺を運んでいく。なんて言うか微妙な笑顔でだ。この人は何故こんな寂し気な笑顔をするのだろう。
朝食が終わり、母親が昨日と同じように出掛け子供達が見送る。少し遠くから喧騒が聞こえてきた。子供達が遊んでいるのだろう、楽しそうな笑い声も聞こえる。
昼を告げる鐘がなり、子供達が部屋に入って来た。年長の男の子が竈に火を入れ鍋を温めだした。
しかし何だな、経済状況が悪いのは解るが、これじゃ栄養が足りて無いんじゃないか?せめてハムでも有れば俺を使ってハムサンドを作るとか、切った耳を揚げて砂糖を塗しておやつにするとか出来るだろうに―――
最早訳が解らなかった。いや、今までも解らない事ばかり起こっていたが、これは全く意味不明だ。俺の身体が光ると、テーブルの上に大量のハムサンドと油で揚げて砂糖を塗した耳が現れたのだから。
「うわああぁぁぁ・・・なにこれ?すごくおいしそう」
「かみさま、これたべてもいいの?」
「おにくだ!こっちはおにくがはさまってるよ!」
「おいしい!おにいちゃん!これおいしいよ!」
「こっちはあまいよ!すごくあまくておいしい!!」
いやいや、ねーだろ。パンが出て来るのはまだいい。俺自身がパンなんだから、それも有りだ。でも、ハムとか砂糖は違うだろ!百歩譲って砂糖は植物繋がりで良いとしても肉は違うだろ、肉は!意味解かんねぇよ!!お前等も何の疑いも無く食べてんじゃねぇよ!!
何の警戒心も無く笑顔で俺を食べる子供達を眺めながら呆れつつも理解不能な事態に困惑する俺だった。はぁ・・・取り合えず腹一杯食うと良いさ。
ここまで読んで頂き有難う御座います。