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鉱山都市から物資を積んだ荷車が出発してから十日、漸く魔族の村に先発の荷車が二台到着した。
「うわああぁぁぁ・・・パンのお兄ちゃんがいっぱい居る・・・・・」
朝食と荷車に積んで来た薪と炭を受け取りに来た家族に付いてきた子供達が俺達を見て驚きの声を・・・いや、大人達も驚いてるな。一応事前に伝えては有ったけど、いきなり二十人も増えたらそりゃ驚くか。
「取り合えず並んで下さい。明日も、明後日も、まだまだ荷物は届くから慌てなくても大丈夫です。バルダークさん、朝食と一緒にさっさと配っちゃいましょう」
「あ、ああ、そうだな。皆も手伝ってくれるか?」
「も、勿論よ・・・・・話には聞いてたけど、実際見るとちょっと怖いわね」
「・・・・・全員ブレッド君なのよね・・・・・一人貰えないかしら・・・・・」
「ちょっとミレーヌ!何言ってるのよ!!」
「え~・・・だって、凄く強いし、幾らでもご飯出してくれるのよ?一家に一人は欲しいじゃない」
そんな家電みたいなノリで言われても・・・いや、ミレーヌさん可愛いし、一人位は行っても・・・・・いやいや、そんな事になったら冗談抜きで全ての家庭に一人行く事になりかねないだろ・・・って、あれ?でも問題無いかな?あ・・・・・
「そうだ!態々取りに来て貰わなくても良いんだ!皆さん!!今日配る食パンは食べずにとって置いて下さい!!これから食事はそのパンが出しますから!!」
最初に元に戻った‶俺〟にばかり意識を集中してたせいか、全て‶俺〟だと言う意識が低くなっていた。オリジナルの‶俺〟が他の俺を操っていると言う勘違いをしていたが、‶俺〟の出したパンは全て‶俺〟だった。
薄っすらと雪の積もった村の中を物資を抱えた村人達が家へと帰って行く。皆半信半疑と言った微妙な顔付きだけど、家に帰れば直ぐに解る。雪の降る中、毎食ごとに態々外に出なくて済むのだから喜ぶだろう。
拘束も解かれ、村に入る事も許されたが、問題は未だに数人が俺を嫌っている事だろう。彼等の所にはバルダークさん達が物資を持って行ってくれる事にはなっているが、このまま孤立してしまわないか心配だ。
「・・・う~ん・・・こう言う事じゃなかったんだけど・・・解り難かったかなぁ・・・・・」
ミレーヌさんがブツブツと溢しながら食パンの俺を抱えて家に帰って行った。あれ?何か間違えたかな?
『『『『『それじゃ、俺達は残りの物資を取りに戻るからこれで』』』』』
「あ、ああ、ご苦労様・・・・・こ、これで冬の間の心配も減ったな。後はブレッドの家も用意しなくては」
「いえ、別に家なんていりません。そんな事よりもやっておきたい事・・・と言うか、試してみたい事が有るんですけど、良いですか?」
「何だ?余程の事で無ければ協力は惜しまないが・・・・・」
空になった荷車を猛スピードで押して帰って行く俺達を、呆れ顔で見ていたバルダークさんに頼み事をした。
「あそこに助けを求めている人がいますよね?お姫様を助けたいと思っているんですが、先ずは皆さんの賛同が必要だと思うんですよ。バルダークさん、力を貸して貰えませんか?」
「なっ!」
村の入り口に座っている間、ずっと考えていた。どうしたらお姫様を救えるのかと。生まれてから一度も部屋を出る事も無く、食事すら摂らずに生き続けるだけの彼女をその呪縛から解き放ってあげたい。もし俺の予想が当たっていたら、俺ならば救ってあげられるのではないかと。
「お前とて近寄れば消えてしまうかもしれんのだぞ!!それでも試したいと言うのか!!」
「やだなぁ、たった今見たじゃないですか、複数の俺を。幾らでも増える俺なら一人二人消えた所で何も問題有りません。寧ろ俺の予想通りなら、呪いを解く事が出来なくても効果を緩和する事が出来る筈です。だから試させて下さい!お願いします!!」
「クッ!・・・解った・・・皆に話はしてみる・・・が、期待はするなよ」
「有難う御座います!!」
渋々頷いてくれたバルダークさんが食パンの俺を抱えて家に帰って行く。俺はその背中に深々と頭を下げた。
ここまで読んで頂き有難う御座います。




