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兎に角信じて欲しい一心で様々なパンを出したり、人型に変化して複数の俺を見せたりと、自分自身で把握している能力をバルダークさんに話して聞かせた。
「今現在、複数の俺が鉱山都市から物資を運び出してここへ向かってる。もう直ぐこの辺りは雪で閉ざされちまうんじゃないか?そうなったらあの村人達に被害が出るかもしれない。最優先で薪や炭を運び出しているけど到着まではどうしても時間が掛かっちまう。だから、せめて到着した時に何事も無く村人達に物資を分けられるようにしときたいんだ!頼む!」
「・・・お前が本気なのは解った・・・だが、受け入れられるかは解らんぞ。それで良いなら連れてってやる。どの道お前のそのふざけた能力の前では我々など無力だしな」
「それも重々承知してる。物資を配り終えて、春が来て食料の心配が無くなったら出て行ってもいい。今は冬を無事に越す事だけを考えよう。あ、筋を通したいから魔王様にも会いたいんだけど、何処にいる?もっと北にでも王都が有るのか?」
「・・・・・魔王様は・・・今は居ない・・・お世継ぎの姫様はいらっしゃるが、生まれてから百五十年間一度も部屋から・・・いや、ベッドから出た事すら無い」
バルダークさんが悲痛な面持ちで話した内容の意味が俺には良く解らなかった。
「は?居ない?世継って事は亡くなってるって事か?百五十年間ベッドから出た事が無いってなんなんだよ・・・・・」
「・・・余り人に話すべき事では無いのだが・・・・・あそこに見えるお屋敷が先代魔王様のお屋敷なのだ、話は姫様がお生まれになられた時に遡る・・・尤もそれ以前、王妃様と魔王様、そして側室との確執が原因なのだが・・・・・」
バルダークさんが王家に起こった悲劇を語り始めた。先代魔王と王妃は子供を授かる事が無かったために、後継ぎを生ませるために側室を娶り、暫くして側室が懐妊。魔王は喜び、王妃は妬みーと、まぁ良くある話だなと黙って聞いていた。が、ここからはちょっと違った。俺は王妃が側室に嫌がらせをして~みたいな話だと思ったのだが、王妃は特に何かする事もなく時は流れ、子供が生まれたその日、魔王と側室が、周囲の側近達が喜び、生まれて来た姫を祝福する中に現れて・・・自らの心臓にナイフを突き立て姫に呪いをかけたのだそうだ。
「そして・・・姫様の授かった能力が呪いを受けて変異し暴走して・・・・・その場に居た者達は全て消えた・・・・・以来近付く者は全て消え、姫様は名を授かる事も無く、ベッドの上から動く事も無く過ごされている」
「・・・・・消えたって何だよ・・・忽然と人が消るって事か?」
「いや、一定の距離まで近付くと身体の自由を奪われ、光の粒子に変わり姫様に吸い込まれて行くのだ。王妃様の掛けた呪いを解除出来ればと、呪術や魔術に長けた者が幾度となく試したが・・・それも叶わなかった。そして呪いの影響はそれだけではない・・・この周辺が緑豊かな土地だったと言って信じられるか?」
「ぅ・・・嘘だろ・・・あ、いや、信じるよ・・・普通に考えたらこんな何も無い所で真面な生活なんて出来っこないし、移住しない理由も解る。姫様一人置いて何て行けないもんな」
それにしても山三つ分に影響が出る程の呪いってなんだよ。
「そう言う事だ。姫様は物心ついた時からご自身を責め続けている。自分が生まれて来なければとな・・・そんな姫様を置いては行けぬ。だから我々は人族の脅威に立ち向かって来たのだ」
「その話を聞いて益々やる気が出て来たぜ。明日の朝一で村に案内してくれ。姫様の事も含めて力になりたいんだ、頼むバルダークさん」
自分の両親も、近付く者も全て飲み込み消し去ってしまう・・・さぞ辛かっただろうし、苦しかっただろう。死ぬ事さえ出来ずに誰とも接する事無く唯生きて来ただけの彼女を救う事は出来ずとも、ほんの僅かでも安らぎを与えてやりたいと、握る拳に力が籠った。
ここまで読んで頂き有難う御座います。