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兵士に抱えられて街中を進む。領民に危機感は無く、いたって普通に過ごして居るように見えた。おそらく偵察からの報告が伝わっているんだと思う。酒場で騒いでるおっさん達も居るし。
大通りの突き当りに有る一際大きないかにも領主館と言った屋敷の門を潜って行く。噴水の有るだだっ広い庭を抜け、屋敷の入り口で執事の持つ銀のトレイに乗せられて屋敷の奥へと運ばれた。どうせならそっちのメイドさんに運んで欲しいな~。
あ~、あいつが領主か?後は奥さんと息子が二人に娘が一人か。いや、一番若そうな娘でも二十歳位だから子って歳でも無いけど。
やたら長いテーブルの有る部屋へと運ばれた。おそらくは食堂なのだろう。テーブルの一番奥に領主一家と思しき人達が座っていた。
「ほう、それが変わったパンを出すと言う食パンか?」
「はい、兵士長からそう聞いております」
「で、どのようにして出すのだ?」
「何でも食事時になると勝手に出すそうですが、噂では人の言葉を解するとか」
テーブルの上、領主一家の中間にトレイごと置かれた。領主一家だけじゃなく、周囲の使用人達も俺に注目していた。
「ふむ・・・では、何でも良い、取り合えず出してみよ」
真顔で食パンに話しかけるおっさんとか正気を疑う絵面だな。にしてもだ、無理やり連れて来られてはいそうですかって出すと思ってんのかね?あ、何でも良いのか・・・じゃあ乾パンで。
「・・・・・なんだ、これは?」
「なんでしょう?お菓子かしら?」
テーブルの上に転がる乾パンの俺を見て首を傾げる領主一家。いや、娘さん以外にやられても可愛くねぇから。
「だとしてもたった一つとは・・・・・この私を馬鹿にしているのか!」
『そうだよ、馬鹿にしてんだよ。つーか頭に来てんだよ。権力を笠に着て弱い者を虐げ、奪って行くだけの奴なんざ馬鹿にされて当然だろうが』
「ヒッ!」
「こ、言葉を話せるのか・・・・・」
日々進化し続ける俺は、遂に人型でなくても話せるようになったのだ。
『話す事も出来るし理解もしてる。お前が人を使って幼い子供からパンを奪うクズ野郎だって事もな』
「貴様あああぁぁぁぁ!!」
領主が俺をテーブルから叩き落とした。俺は転がりながら辺りに乾パンをばら撒いた。
『いい歳してみっともなく喚き散らしやがって。今お前がやらなきゃいけない事は何だ?子供達を泣かせる事か?違うだろうが!!』
「たかが食料の分際で生意気な!!誰か、それを焼き捨ててこい!!」
「は、はい!直ちに!」
俺を運んで来た執事が慌てて床に転がる食パンの俺を拾い、部屋を出ようと扉へと歩いて行く。はっはっはっ・・・あんた警戒心が足りてないぞ。
『あ~残念だ~少しは話の解る奴ならって期待してたんだけどな~・・・あ、怪我したくなかったら抵抗はしないようにね、主に女性陣』
いや、勿論期待してたとか嘘だし、端っから許す気も無いですよ。うちの子達泣かしてんだし。
「は?」
「何を言って・・・・・うわあああぁぁぁぁ!!」
「キャアアアァァァァ!!」
「グアアァァァ!」
執事の間抜けな声と共に、ばら撒いた乾パンの俺達が一斉に人型へと変わる。悲鳴が飛び交う中、全身にハードタックを纏ったマッチョな俺達が領主一家を床に組み伏せた。
「イヤアアアァァァ!!助けてえええぇぇぇ!!」
「は、放せ!この変態が!!」
「お嬢様と奥様を放せ!この変態め!!」
『『『『『あ・・・そういや服着て無いんだった・・・はは・・・ははははは・・・・・』』』』』
ずっと魔族以外に人の居ない所で人型になってたからすっかり忘れてたわ・・・女性の皆様マジでご免なさい。あ、そこの執事さん、服か布持って来てー!!
ここまで読んで頂き有難う御座います。