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鉱山を上る事二日。山頂を超え山の北側に辿り着いた。目の前に広がる景色は依然変わらず土と岩の転がる大地と山々だ。
ここまで来る間にも何度か戦闘が有った。お互い隠れる所なんて碌にありゃしない。視認されると同時に問答無用で襲われたが、全て返り討ちにした。
この不毛な景色を見れば魔王軍が攻めて来た理由も解る。言葉を理解出来そうにない魔物は別にしても、言葉を解する魔族との和解は出来なかったのだろうか?魔族側も食料支援を頼むとかやりようは有ったのではないだろうか?
現状、人を喰らう以上は放って置く訳にはいかない。このまま戦い続ければ、彼らは滅ぶ以外に道は無い。と、なるとやはり頭を、魔王を押さえるしかないか。
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避難民が領都に着いた。高さ5mは有る防壁に付けられた巨大な門を潜り中へと入り、兵士達の案内で練兵場へと連れて行かれた。暫くはここで過ごす事になるらしい。
アルバさん達が立ててくれたテントの中に子供達と一緒に入れられた。皆、良くここまで頑張ったな。
ジャムパン、アンパン、クリームパン。チョココロネにフルーツサンド。甘い物は疲労回復に良いからな。
「わぁ・・・ありがとうブレッド」
「おとうさん、おかあさん、あまくておいしいね!」
「そうね・・・ブレッドさん、何時も済みません」
ライザ・・・そんな顔するなよ・・・・・俺はそんな顔が見たくてパンを出してる訳じゃないんだ。サイラスと二人で支え合って幸せになってくれよ。
半ば自棄になって飛び出したけど、今ではこれが正解だったと思う。所詮俺はパンであって人ではないのだから。
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二つ目の山を登り始めた頃、雪がちらつき始めた。北へ向かっているのだ、冬の訪れが早いのも仕方がない。尤も俺には寒暖差など感じはしないが。
魔物を、魔族を倒し前へと進む。時には対話を試みるが結果は変わらなかった。
「何故だ!何故人を襲う事を止めない!食料が必要ならば俺が用意すると言っているだろう!無駄に争い合う事で犠牲が増え続けていると何故解らない!!」
「ここまで同胞を殺し続けてきた貴様がそれを言うか!!人の欲望は尽きる事は無い!どれ程特殊な力を持とうと所詮貴様も‶人〟だ!!我ら魔族を脅かす人である以上、狩るか狩られるか・・・それが我等の宿命よ!!」
三つ目の山の山頂手前で出会った悪魔のような出で立ちの魔族と対話を試みたが、やはり今までと同じだった。彼らの住む山脈付近に人間の生息域が伸びて来た事が戦争の原因だった。鉱山の麓を開拓し鉱脈を堀尽くした時、更に北へと手を伸ばすだろう事を彼らは許せなかったのだ。
「このっ!解らずやがあああぁぁぁぁ!!」
「グハッ!」
殴り飛ばして気絶させた悪魔を担いで山を登る。山頂から見下ろした景色は酷い物だった。山に囲まれた何もない平坦な土地の中央に有る大きな屋敷と、それを囲むように建てられた粗末な小屋と畑が点在するだけの小さな寒村。ここが魔族最大の、魔王の住む街だったと聞いた時、俺は驚きを隠せなかった。
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避難民に夕食を出して行く。アルバさん主導で皆に俺が配られて行った。ここへ来て数日経つが、王国軍が到着したと言う知らせは未だ無い。
「貴様ら退け!道を開けろ!!」
夕食を配り終える頃、大勢の兵士が子供達の居るテントへと詰め掛けてきた。とうとう来たか。
「領主様の命によりそのパンを徴収する!大人しく差し出せ!!」
「そ、そんな・・・・・」
「ブレッドをつれて行かないで!!」
「待って下さい!そんな事をしなくても食料なら出してくれますから!!」
アルバさんが兵士と子供達の間に割って入った。アルバさん、大丈夫だから無茶しないでくれ。
「・・・すまん・・・領主様の命令なのだ・・・悪い事は言わん、従って欲しい・・・・・」
「クッ!・・・・・ごめん皆・・・従わなければ皆に危険が及ぶ・・・それはブレッドさんも望んでいない筈だ」
サイラスが俺を持ち上げた。そうだ、それで良い。大丈夫、俺は皆の傍を離れはしないさ。
サイラスが持ち上げた俺から乾パンがころころとテントの中を転がって行く。兵士が俺を受け取りテントから出て行くと子供達の啜り泣く声がテントの中に響いた。
ほら、何時までも泣いてないで良く見てごらん。俺はここに居るだろ、だから何時もの笑顔を見せてくれよ。
テントに転がった乾パンの俺が食パンに変わる。
「ブレッド!良かった!!いなくならないで良かったああぁぁぁ・・・・・」
笑顔で涙を流す子供達に抱かれて一晩過ごした。一人一斤の食パンを抱いて眠る子供って・・・・・ちょっとどうかと思うぞ。
ここまで読んで頂き有難う御座います。