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北を目指して歩く俺達は、街道を行く部隊と周囲の森や雑木林の中を散策するチームに分かれて移動し、一定間隔で乾パンに姿を変えて身を潜めた。これで魔物や魔族が放った斥候等がいても止められるだろう。
東側の部隊が野生動物を狩る魔物の集団を発見しこれを殲滅。魔王軍がどれ程の規模なのかは解らないが兵糧は現地調達をしなくてはやっていけないのかもしれない。
そして歩く事丸一日。鉱山都市の防壁が見える頃には周囲の木々は無くなり、土と岩だらけの景色に変わっていた。その先にある鉱山も疎らに木々が生えているだけで殆ど岩山だった。なるほど、もう直ぐ冬が来る。これじゃあ狩りや採取も期待出来そうにないし、魔王軍の食糧事情は厳しいのだろう。
遠目には魔族の姿は確認出来ないが街の中から煙が上がっているのが幾つか見える。襲撃時に上がった火の手が今だに燻っているとは思えない。時刻は昼前だし、昼食でも作っているのだろう。俺も皆の食事を出さないとな。
一人で防壁へと近づいて行く。破壊された門から街中の様子が見えた。目に見える範囲で無事な建造物は無く、壊れた建物の近くで肉を焼いている魔族の姿を見た時、こいつ等とは相容れる事は出来無いかもしれないと嘆息した。そいつ等が焼いていたのは人の腕や足だったからだ。
近付いてきた俺に気が付いた魔族達が立ち上がり、雄叫びを上げ、牙を剥いて襲い掛かって来た。
「お前等腹ぁ減ってんだろ?俺を喰らいたいんだろ?幾らでも喰らうがいいさ・・・死ぬほど喰らわせてやるからよお!喰らえ!バゲットランス!!」
両手から出したバゲットを全力で投げつけた。突然現れたバゲットを魔族達は交わす事も出来ずに喰らい倒れていく。そして、突き刺さったバゲットが‶俺〟へと変化していく。
先の戦いで手に入れた俺の新しい力だ。身体を変化させるだけでなく、出したパン自体の性質も変化させる事が出来るようになった。
全身にハードタックを纏ったマッチョな俺達が街中を掛けまわり、増殖しては魔族達を蹂躙していく。鉱山都市を魔族から奪還するのに然程時間は掛からなかった。
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昼食を出しながら皆の様子を探った。まだ俺を狙う輩は居ないだろうか?
「アルバ、ザイツェンさん、偵察に出ていた兵士達が戻って来たみたいだぜ。どうやら魔王軍はロイドの町にまだ来ていないらしい」
「そうか・・・思ったより進軍が遅いな。お陰で領都への避難は間に合いそうだが」
「問題は王国軍が間に合うか・・・ですよね?まぁ籠城戦になっても食料の心配が無いのは救いですけど・・・・・」
昼食を出し続ける俺をアルバさんがちらりと見た。
「そうとは限らないじゃない・・・ブレッド君が一万人規模の都市の食料を全部賄えるとは思えないんだけど・・・・・」
アルバさんのパーティの女性が不安気に俺を見た。心配はいらないよ、出せる量は増え続けてるからさ。皆が‶俺〟を食べ続けてくれれば永久に出し続ける事も不可能じゃない筈さ。
俺が出した俺を兵士達が避難民に配って行く。手渡された俺を避難民達が口にし、俺の身体が光を放った。
ほらな、数百人でこれだ。一万人規模の都市なら今より早いペースで力が増していく筈さ。だから・・・だから全てが終わるまで領都に避難しててくれよ。
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兵士達の協力も有って避難民の暴動を心配する必要も無さそうだと、敵の本拠地目指して北へと進んだ。街中に乾パンに変化した俺を残して。
本拠地が何処に有るのかなんて知らないが、魔王軍が進軍してきた足跡を辿り鉱山へと足を踏み入れた。周囲に乾パンを撒きながら。
ここまで読んで頂き有難う御座います。