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気が付くと夕暮れ時だった。立ち上がって移動を再開しつつ避難民の様子を探る。やはり夜中の移動は無しか。
子供達が俺を背に囲んでいる。その周囲をライザとサイラスが、ベンゾさんにザイツェンさんとアルバさん達が取り囲んでいた。なんだ?一体何が有った?
「どいつもこいつも血迷いやがって!!昼に助けて貰った恩を忘れたのか!この馬鹿共が!!」
ザイツェンさんが周囲を取り囲む避難民に吼えた。迂闊だった、昼に大量にホットドッグを出したせいで俺が狙われているんだ。
仕方ないかと、周囲に散らばる乾パンの‶俺達〟から大量に乾パンを出してやった。あちこちから溢れ出した乾パンに目を白黒させる避難民と警戒を解かないザイツェンさん達。
「な、なにが―――」
「お前等はそれでも食ってろって事なんだろ!!こいつは・・・ブレッドはこの子達のもんだ!!こいつ等に手ぇ出す奴には他の食いもんは渡さねぇってよ!!」
有難うベンゾさん。お陰で俺が姿を現さずに済みそうだ。
夜になり周囲が静まり返ってもザイツェンさん達は警戒を解かなかった。交代で仮眠を取り、子供達から離れる事は決してなかった。皆、有難う。
町を出て丸一日走り続けて広い草原に出た。ここで迎え撃とうと草原を歩き回り、罠を仕掛けて敵が、『魔王軍』が来るのを待ち続けた。
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二日後の早朝。草原の入り口に魔王軍が現れた。避難民に朝食を配っている時だった。先頭は犬か狼の魔物、その後ろには槍を持った二足歩行の蟻。更にその後ろには角の生えた人型の兵士達が剣と槍を携えていた。
俺は魔王軍が草原の中央に差し掛かった時に立ち上がり前に進んだ。
「何だ貴様、たった一人で英雄気取りか?」
敵集団の中央に居た背の高い一つ目の鬼が俺に問い掛けると、周囲から笑い声が上がる。
「そんなつもりじゃねぇ・・・でもな・・・ここを通す訳にゃいかねぇんだよ!!」
「フン・・・殺れ」
俺に向かって狼のような魔物が襲い掛かる。腕を、足を食い千切られ、腹や喉に牙が食い込んだ。
「何だ口程にも無い。単なる自殺志願者か?手間を掛けさせおって」
「クックックッ・・・ハハハハハ!!良いぞもっとだ!もっと俺を喰らえ!!どうだ、俺は旨いだろう?腹一杯喰らうが良い!!」
「気が触れたか・・・全く、何なのだこいつは?・・・・・は?」
食われている俺の身体が光を放ち全身が修復されて行く。この二日間、唯のんびり過ごして居た訳じゃない。俺の能力を検証していたのだ。
「ギャイン!!」
俺に噛みついていた魔物を殴り飛ばして立ち上がる。
「ふうううぅぅぅ・・・さて、お遊びはここまでだ。完全回復した事だし、本気で行かせて貰うぜ!!」
‶祝福〟と呼ばれる発光現象、これは所謂レベルアップと同様の現象だ。ゲーム等では敵を倒す事で経験値が得られ、一定に達するとレベルが上がりHPとMPが回復するが、俺の場合は少し違う。パンである俺は調理されたり食べられる事が経験値となるのだ。即ち、今日までに子供達や町の住民達に食われ続けた俺はかなりの高レベルになっていると言う事だ。そして俺の出した俺は全てが俺であり同一の力を保持していると言う訳だ。
さあ、反撃の狼煙を上げろ!立ち上がれ俺達!!
ここに来た初日に仕掛けた罠を発動させた。草原の至る所から次々と‶俺〟が敵陣の中と外から現れる。草原全体にばらまいた乾パンの俺達全てが人型に変わり敵へと向かって行く。
『『『『『喰らえ!堅パアアァァァンチ!!』』』』』
「グハッ!」「グアアアァァ・・・」
俺はパンであれば姿を自在に変えられる。今の俺はあの『鉄板』とまで言われたハードタックに全身を変えている。肌の色は白から茶色に、そしてボディビルダーのような筋肉に包まれていた。
疲労も痛覚も無く、食われても、敵を倒しても経験値が増えて行く。戦闘を続けている以上、奴らに勝ち目等有る筈も無い。数千に及ぶ敵は良い経験値となり、俺を更に強くしてくれた。
やがて最後の一人を倒し終えた俺達は―――
『『『『『さあ、行こうか』』』』』
顔を上げ、口を添えて北に見える鉱山を目指し歩き始めた。
ここまで読んで頂き有難う御座います。




