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町の北門に大勢の人が集まっている。門番達の会話から鉱山都市が陥落し、逃げてきた人達が町に入れてくれと騒いでいるのが聞こえた。
何でだよ・・・これからだってのに・・・・・何でこんな―――
「ほ、本当ですか?鉱山都市が陥落したって・・・・・」
北門付近に居る‶俺〟に集中していた俺をライザの声が引き戻した。そうだ、余計な事を考えてる暇はない。
「ああ、本当だ。今、北門が開いて鉱山都市から避難してきた人達が中央の役場に移動し始めた」
「そ、そんな・・・・・」
街中を兵士が駆け回り、役場の職員達の家に声を掛けて回っている。あ、ザイツェンさんにもだ。冒険者達にも協力を要請するみたいだ。
「・・・・・どうやら領都に避難指示が出るみたいだ。明日の朝に荷物を纏めて荷車に積んで町を出よう。子供達の足で間に合うか解らないけど、馬車を持ってる人に頼み込んででも間に合わせないと」
「す、直ぐに用意して出た方が―――」
「いや、寝不足の方が子供達の体力が持たないと思う。急ぐのは当然だけど慌てれば助かるものも・・・誰だ?こんな時に」
玄関を叩く音が、ライザを呼ぶ声が聞こえる。食堂のおじさんか?
「ライザ!俺だ!サイラスだ!!起きてくれ!!」
「嘘・・・・・・」
扉を叩く男の名を聞いたライザが椅子を倒しながら立ち上がり玄関へと駆け出した。俺はその後を追って玄関に向かうと、そこには―――
「良かった・・・無事で良かった・・・・・」
涙を流しながら、今まで見た事の無い笑顔をしたライザと―――
「ごめん・・・なかなか連絡が取れなくて・・・でも、君が無事で本当に良かった」
彼女を優しく抱きしめる男が居た―――
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正直、その時何を話したのか良く覚えていない。今夜はもう遅いからと二人を二階へと見送り、闇の中一人で呆然としていた。
「・・・・・あぁ・・・そう言う事か・・・・・」
ライザの、あの寂し気な笑顔の理由が解った。借金や生活の不安を取り除いても消せない訳だ。ライザに必要だったのは金でも俺でも無く、サイラスと言う彼だったのだから。
椅子から立ち上がり家を出て北へ向かった。食堂のテーブルに食パンを一斤残して―――
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「ブレッドさん、おはよ・・・う・・・・・」
「ブレッドおはよ~・・・え?かみさま・・・・・」
朝が来て子供達がライザとサイラスと共に食堂に入って来た。テーブルに置かれた俺を見て皆が驚きの表情をして足を止めた。
「ブレッド・・・ブレッドはどこ!かみさま!ブレッドはどこにいるの?!」
おはよう皆。今朝食を出してやるからな―――
「かみさま!ブレッドは?!ごはんなんていらないからブレッドをかえしてよ!!」
ジャンとフェイはカツサンド、ミラはコロッケパン、クリスは野菜サンド、ケイトはハムサンド、アンナはホットドッグ。ああ、ライザもハムサンドだったな。サイラスはやっぱりカツサンドかな―――
「なんで・・・・・」
「ブレッドさん!ブレッドさんなんだろ?!如何して!何が有ったって言うんだよ!!」
ライザが、子供達が泣き崩れて行く・・・サイラス、後の事は頼んだ。早く支度をして避難してくれよ・・・・・皆、元気で―――
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夜の街道を北へと駆ける。睡眠の必要も、疲労も無いこの身体が役に立った。
移動しながら兵士達からの情報収集は怠らなかったが、領都から兵士が送られてくるかは微妙だ。元々派兵していたと言うのも有るが、領都で籠城戦をした方が消耗が少なく、王国軍の到着まで粘れば助かる可能性が高いし、反撃して領地を奪還する事も可能かもしれないからだ。
一晩中走り続け、朝になり、昼前には子供達が避難を始めた。ギルドには大勢の冒険者達が集まっていて兵士達と連携を組み、避難民の護衛と殿を務める事が決まった。ザイツェンさん、アルバさん、皆を宜しくお願いします。
昼食にホットドックを大量に出した。もう隠すのは止めだ。他の避難民達にも配ってくれと言わんばかりに、周囲の目を憚る事も無く全員に行き渡るように出し続け―――気を失って道端に転がった。
ここまで読んで頂き有難う御座います。