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「・・・はぁ・・・ダメだな・・・俺は・・・・・」
「ははははは!何を仰っておいでですか、陛下の何がダメだと言うのです?初代様・・・いえ、この世の誰にも成し得ぬ事を今現在も成し続けて御出でではありませんか」
「いや、別に続けて来た訳じゃないだろ。基盤は作ったけど、その後は勝手に広がっただけだし」
「やれやれ・・・良いですか陛下、陛下の思想が世に広まったのは陛下が生きて居られるからです。これは以前にも言いましたが、陛下が存在し続ける事がどれだけ重要か理解して頂きたいものですな」
「存在し続ける事・・・・・」
「左様。人の心とは移ろい易く流され易い物に御座います。故に時が経てばどれ程の栄華を誇る国でも衰退してしまう。陛下はもうお気付きなのでは?御自身が我と同じように永劫の時を生きる事の出来る存在だと。ならば陛下が変わらぬ限りこの世の平静は保たれるかと」
薄々気付いていた。人化した時の俺の見た目は最初の時と変わっていない事。そして、本体は人では無くパンだって事から寿命は無いんじゃないかと。
「これから先、幾度もの困難が待ち受けているでしょう。ですが、陛下は我が御守り致します。同じ永劫の時を生きる者として陛下の御身と御心を守り通す事が、この理想の世界その物を護る事に繋がるかと存じます」
「・・・デュランさんは強いな・・・・・俺も貴方のように成れるだろうか・・・いや、成らなきゃダメなんだよな・・・・・」
己の信念を貫き通す、か。何処まで行けるか解らないけど、彼が居てくれれば成せそうな気がした。
「ブレッド様、メアリー様が着替えを置いて行かれましたが」
「ああ、そう言えばパンのままだったっけ。後で着替えるからそこに置いといて貰えるかな、アゼリアさん」
アゼリアさんにはニコラの事は伏せておこう。曾孫が居たなんて知らなかっただろうし、余計な事を言って悲しませる事も無い。
「はい。それと、動けるようでしたら歩いて帰って来るようにとも仰っておりました。大変だったのですよ、朝起きたらブレッド様が居ないと町中で騒ぎになりましたから」
そう言や、オリジナル以外全員消し飛ばされたんだった・・・・・
「・・・・・えっと・・・俺ってどれ位寝てたの?」
「もう直昼になりますな。ゼルゲルの者達には『陛下はお疲れだ!飯位偶には自分達で用意しろ!!』と言っておきましたので気にせずお休み下さい」
出ない筈の汗が無い筈の額から流れた気がした。デュランさんは休むように言ってくれたけど、のんびりなんてしてられない。ゼルゲルはそれで良いかもしれないけど、ロイドとか他の町では何が起こったのかすら解らないのだから。
俺は人化もせずに分身を出しては各家庭に転移させて行き、街道沿いの監視や各施設に分身達を送って行った。こう言った面でも俺が居ないだけで混乱が起こるんだなと、改めて自分のしてきた事を再認識した。
一息ついて人化をし、服を着てデュランさんと歩いて自宅へと向かう。道行く人が俺とデュランさんに感謝の言葉を掛けて来る。普段食の面で俺に頼りきりだった事を反省しているような口ぶりだった。
ゴーン・・・ゴーン・・・ゴーン・・・・・
「・・・・・あ、そうだ・・・帰る前にやらなきゃいけない事が有るんだけど・・・デュランさん、付いて来てくれるかい?」
「勿論、何処へなりともお供させて頂きます」
昼を告げる鐘が鳴り響く中、デュランさんを連れてウェイスランドの王都跡地へと転移した。
「ここは・・・フッ・・・やはり陛下はお優しいですな。我には思いもよらない選択でした」
「甘いって言って構わないよ。自覚してるし、今回の件で身に染みた。後、もう一ヶ所付き合ってくれ」
「ハッ!」
更に転移で移動した先は山の中だ。
「ここは?」
「この石の下に彼の、ニコラの父親と祖父が眠ってるんだ・・・出来れば母親も一緒に埋葬してやりたいんだけど見た事も無いし、王都と一緒に消し飛んじまっただろうしなぁ・・・・・」
鉱山で働いている俺にスコップを転送して貰い、ニコラの亡骸を埋葬した。あの世で家族と仲良くやってくれるだろうか?それとも俺のように何処かに転生するのだろうか?
「・・・・・付き合ってくれて有難う、デュランさん。その・・・これからも俺が間違ったり窮地に陥るような事が有れば助けて欲しい。その代わり決して道を違える事は無いと、貴方の忠誠に誓うよ」
「勿体無きお言葉に御座います。我、デュラン・ドラゴニスはこれからも貴方様とその理想を護り続けて行く事を改めてここに誓いましょう」
「さて、帰ろうか。皆が待ってる」
「ハッ!」
永劫の時を生きる王と竜人が護る理想郷。それが幻想や夢物語では無く、この世界では当たり前の景色となるのはもう少し先の話だ。
ここまで読んで頂き有難う御座います。
今回で本編最終話となります。
今後は後日談的な物を不定期で投稿する予定となっております。
何時になるかは解りませんがその際は宜しくお願いします。