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「・・・ぁ・・・デュラン・・・さん・・・・・」
「生きて居られるようで何より。陛下はそのまま大人しくして居て下され。さて・・・小僧、我が主君に手を上げた罪、その身で購って貰うぞ!!我が名はデュラン・ドラゴニス!べアリュール王家を守護する者なり!!」
「邪魔すんなあああぁぁぁ!!」
雄叫びを上げてニコラがデュランさんへと向かって行く。デュランさんは俺を背に彼を迎え撃った。
速い・・・回復しきっていないせいもあるのだろうが、二人の戦闘を目で追う事が出来ない。これが戦闘職同士の本当の戦いか・・・・・
何が起こっているのか、どちらが優勢なのか全く解からないまま時が過ぎて行く。
「如何した小僧!その程度で陛下の御命を取ろうなど不可能だと知れ!!」
「クソがああぁぁぁ!『ライトニンググハッ!!」
「馬鹿か貴様は!近接戦において隙の多い技など使わせるものか!!」
ニコラがスキルを放とうとした瞬間、デュランさんの攻撃が当たってニコラが吹き飛んだ・・・んだと思う。
「・・・ガ・・・ぉ・・・・・」
「立て、引導を渡してやる・・・『ドラゴントゥース』!!」
腹を押さえて蹲るニコラを見下ろすデュランさんの手に剣が現れた。
凄げぇ・・・身長190cmは有るデュランさんと変わらない刀身の片刃の大剣を片手で掲げるって・・・やべぇよこの人・・・・・・
よくよく見てみればデュランさんはバトルスーツも着ていないし、スキル所か武器も使っていなかった。これが五千年間鍛え続けた男の〝力〟か・・・俺には・・・いや、普通の人には決して到達出来ない領域に思えた。
「・・・や、止めて・・・くれ・・・・・」
これだけの力量差が有ればニコラを取り押さえる事が出来る筈だと声を振り絞った。だがデュランさんは振り向きもせずに掲げた大剣を肩に乗せるように構えた。
「おあああぁぁあぁぁぁ!!」
立ち上がったニコラがデュランさんへと向かって行く。
「やめろおおぉぉぉ!!」
「ヌンッ!!」
俺の叫びも虚しくデュランさんの振り下ろした大剣がニコラを大鎌ごと切り裂いた。
「・・・ぁ・・・ゴフッ!・・・・・」
「小僧、言い残す事は有るか」
「・・・・・ぁ・・・か、母さん・・・ごめん・・・・・」
「・・・・・そうか、ならば愛する者の元へ逝くがよい!!」
「ガハッ!」
デュランさんは血を吐き仰向けで倒れたニコラの胸に大剣を突き刺し、その短い人生を終わらせた。
「・・・なんで・・・何故、殺した・・・・・」
「小言でしたら後で幾らでもお聞きします。今は先ず治療と、ご家族への報告をしませんと」
あれだけの実力差が有れば殺す必要は無かった筈だと問う俺に答えず、デュランさんは細切れになった俺達を集めて着ていた上着に包んで翼を広げた。
「直ぐにアゼリア殿の元へお送り致しますので暫しの我慢を」
極度の緊張から解放された俺は、包まれた上着の中で何時の間にか意識を失っていた。
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「・・・・・ぅ・・・ここは・・・・・」
「気が付かれましたか。ここは治療院に御座います。御家族には報告を済ませておりますのでそのままお休み下され」
「そうか・・・済まなかった・・・・・」
「いえ、我は我の役目を果たしただけの事。陛下がその事に対して気に病む事など何一つ御座いません」
嘗て命を救われ忠誠を誓った彼に、命を救われた俺は何をしてあげればいいのだろうか。おそらく彼は俺に何も望まないだろう事は解っている。それでも俺は―――
「・・・そう言えば、『何故』と問われておりましたな」
「え?あ、ああ」
そうだ、確かに俺はあの時俺を救いに来てくれた彼に『何故殺した』なんて聞いてしまった。喩え圧倒的な実力差が有ったとしても、そんな事は言っていい訳はなかった。
「彼と手を合わせて直ぐに気が付きました・・・彼が『死』を望んでいると」
「望んでいた?彼が?」
「左様。おかしいとは思いませんでしたか?あれ程の大都市を破壊する〝力〟を持つ彼が、何故陛下に止めを刺す事が出来なかったのか。陛下も他に何か覚えは御座いませんか?」
「・・・そ、そう言えば戦う前に『俺を嵌める準備は出来たか?態々ゆっくり来てやったんだ、がっかりさせんじゃねぇぞ』って・・・あれは・・・・・」
他にも敵討ちとか如何でも良いって・・・・・
「おそらくは通常とは逆の意味かと」
そうだ、俺と戦っていた時、彼はデュランさんとの時のように目で追えない程の早さじゃなかった。がっかりさせるなってのは自分を倒せる力を持っているんだろうなって意味だったのか。
それに、彼の残した最後の言葉『母さん・・・ごめん』って言うのは仇が討てなくて『ごめん』と言う意味じゃなくて、その気が無かった、自ら死を選んだ事に対する謝罪だったとすればデュランさんの言う事にも納得出来る。
「彼はおそらく戦いとは無縁の生活を送っていたのでしょう。それ故に強大な力を持ってしまった自分を倒せるであろう相手、陛下の元へと向かった。そんな所ではないでしょうか。真偽の程は定かではありませんが、彼は一度たりとも逃げの姿勢を取りませんでした・・・敵わぬ相手と知りながらです。だから我は手を抜くのを止め、彼の望み通りの結末を与えたのです」
戦士としての自分に出来る最良の答えを出した。と答えた彼に、俺は自分の未熟さを恥じ入るばかりだった。
ここまで読んで頂き有難う御座います。