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ヘルガさんからきつい忠告を受けてから五年の月日が流れ建国から十年が経った。
ヘルガさんに言われたからと言う訳では無いが、ウェイスランドとキュリスタの動きに注視していたが特に何か行動を起こすような動きは全く無かった。
都市国家アデルの方は光神教を追い出してからは中立を保ち、何処かの国と組むとかそう言う事も無く、至って平穏である。
ゼルゲルを訪れた貴族や商人や冒険者達から魔族の事が他の国にも徐々に認知されて行き、光神教の教義もウェイスランド以外の人々から忘れられて行った。
人族と魔族との婚姻や出産も徐々に増えて行き、べアリュール王国とその周辺では見た目から来る差別などは無くなっていた。
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ただいま母さん。あ、お客様でしたか―――
お帰りニコラ。この方は貴方の御祖母様に当たるお方ですよ―――
え?僕にお婆ちゃんが居たなんて知らなかった―――
力の発現は未だのようですね―――
え?なんですか?―――
良いですかニコラ、貴方は今日からこの方に付いて行くのですよ―――
母さん何を言って―――
貴方は今日からニコラでは無く、アデルの名を継ぎ、我が光神教の教祖となるのです。エリザ、今日までご苦労様でした―――
いえ、これで思い残す事無くあの方の元へと逝く事が出来ます。ニコラ・・・いえ、アデル、貴方の父と祖父の仇を取るのですよ―――
母さん!何で・・・どうしてこんな―――
行きますよアデル。先ずは北へ向かうのです。そこに貴方の父と祖父の仇、魔王とその家族が居ます―――
母さん―――
立ちなさい。立って北へ向かうのです。全ての元凶である魔王を『飽食の王』を討つのです―――
違う―――
何も違いません。さあ、行きますよ―――
お前だ―――
え?―――
お前さえ来なければ!!
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更に五年の月日が流れた春の事だった。
何事も無く、順調に、ゆっくりと俺の、俺達の理想が大陸中に浸透していたからだろうか、俺はその可能性に気が付く事も無かったんだ。
「今年はエミリーが成人か。時の経つのは早いって言うけど本当だな」
夕食の席でそんな事を言って、お祝いには何が欲しい?とか、そんな他愛ない話しをしていた時だった。
「ははははは・・・え?・・・・・ぁ・・・な、何が・・・・・ハッ!総員警戒態勢!!監視班は僅かな変化も見逃すな!!」
「キャ!きゅ、急に如何したの?ブレッド」
突然の叫び声に驚いた皆に俺は焦りを隠そうともしないで慌ただしく席を立った。
「あ、ああ、済まない皆。少し席を外す」
「ちょっと!何が有ったのかだけでも教えて行ってよ!」
俺だけになろうと書斎へ向かおうとした俺達に、ミレーヌが掛けた問に少し躊躇した後、俺は―――
「・・・フゥ・・・・・ウェイスランドの王都が・・・消滅した・・・・・」
とだけ答えて部屋を出た。
夜の闇の中突然の閃光と爆発。何の予兆も無かったし、街中に潜んで居た俺達ですら何も見る事も無く、消し飛ばされるか吹き飛ばされた。何が起こったのか、これから何が起こるのか、状況を正確に把握する事も出来ずに俺は唯困惑していた。
部屋に入り、先ずは落ち着こうと椅子に座り一つ息を吐いた。今は兎に角情報が欲しいと瓦礫と化した元王都へと続く街道沿いに潜伏している俺達に集中した。
ここまで読んで頂き有難う御座います。