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結局ヘルガさんは結納にもその半年後に行われた結婚式にも参加しなかった。エリステルさんはちょっと落ち込んでたけど、リュシアンさんが慰めてあげるだろう。
転移で無理やり連れて行く事も考えたんだけど、本人が祝う気も無いのに連れて行くのはなんか違うしと諦めて、関係者って事で俺が出て体面を保つ形にした。
で、連れて行けないなら連れてくればいいじゃないって事で、新婚旅行的な感じで二人はゼルゲルの迎賓館に三日程滞在する事になった。その内一日はヘルガさんと会わせる事に。
「御祖母様、お久しぶりです」
「お久しぶりですヘルガ様、お元気そうで何よりです」
「一応結婚おめでとうと言っておくわ。ですが私の事を祖母と呼ばないように。私は〝家〟を捨てたのよ。いい事、実の息子を、〝家〟を裏切った私は貴方達アルバゴーンの貴族家からすれば敵になるのですから」
再開の挨拶をするエリステルさんとリュシアンさんに素っ気ない態度のヘルガさん。無関係所か敵だとか言っちゃったよこの人。
「そんな!それでも私にとって御祖母様に変わりは有りません!」
「そうです!アルバゴーンの貴族達だって誰もヘルガ様と敵対する気など―――」
「それは私とブレッド様の〝力〟を恐れての事でしょう?先代様からアーサーが〝家〟を賜った時、他の貴族が何と言っていたか知らないのですか?」
薄汚い野良犬
暴力でしか物事を解決出来ない野蛮人
高貴な血など流れていない偽貴族
「常々陰でそう言われて来たのですよ私達は。自分達では護る事の出来なかった国を救ってくれた恩人に対して取って良い態度で有った事など無かったと記憶しています。それでも先代様は良くして下さいましたし、先代様との約定が有ったからこそアーサー亡き後もあの国を護りました。ですが、ロドリゲスから破棄したのですから私はあの国とは無関係です。寧ろ裏切り者のロドリゲスが生きている事に感謝して貰いたい位だわ」
「あ、あの・・・その約定とは・・・聞いても?」
「戴した事じゃないわ。『アーサーよ其方等がこの国の剣となりこの国を護り続けてくれると言うのならば、我等王家は規範となり、貴族家を纏めて民を護って行こう』って、当たり前の事だったわ。ロドリゲスはそれさえも守れなかったようですけど」
ヘルガさんが言葉を発する度に瞳から徐々に光が消えて行く。
「「「・・・・・・・・・・」」」
俺達はヘルガさんの発する殺意とは違った覇気の様なモノに気圧されて、言い返す事が出来なくなっていた。
「なんて言ったかしらね、あの木っ端貴族。教会や商会と癒着して得た不正な利益の一部を国が、王家が受け取っていたんでしょう?それは命を賭けて国を護り続けたアーサーに対する裏切りに他なりません。ブレッド様、今各国の貴族達が大人しくしているのは貴方の持つ〝力〟に対する〝恐怖〟からです。全てとは言いませんが彼等貴族は平気で約束を破る私達とは違った生き物だと覚えておいて下さい」
背筋が凍る程の底冷えのする光を失った瞳で俺を見るヘルガさんにそう言われ、俺は
「あ・・・ああ・・・・・」
と、そう一言返す事しか出来なかった。
ヘルガさんの貴族に対する不信感は相当根深い気がする。元々平民だし、今まで何度も理不尽な目に有って来たのかもしれないなぁ。
って言うか、デュランさんの言ってた『可能性』って奴の一端を見せられた気がしたよ。分身達じゃ一対一では勝てない気がする・・・オリジナルでも勝てるかどうか・・・マジで怖かったよ・・・・・
ここまで読んで頂き有難う御座います。