123
「なぁ、頼むから用意した家に住んでくれよ」
「陛下の命でもそれだけは聞けませぬ。いざと言う時に御傍に居らずに如何対応しろと言うのですか」
「いや、俺の能力教えたよね?俺はこの町・・・いや、この大陸中に散らばってるし、殆どの国とも同盟結んでるから戦は勿論暗殺なんかも心配ないんだって」
「だが、我を止める事は出来なかった。違いますかな?」
「そ、そりゃそうだけどさ、デュランさん並みに強い奴なんて先ず現れないって。って言うか、そんな奴が現れたらこの国に入る前に発見出来るからね?」
「陛下、何故そう言い切れるのです?万が一ですら有ってはならないと言う我が間違っていると?陛下にはもっと御自身と御家族の重要性を正しく理解して頂きたい」
「あ~もう!解った!解ったから庭で寝るのだけは止めてくれよ。うちがデュランさんを虐げているみたいに見えるからさ」
「では、門の横にでも小屋を建てて下され。さすれば其方にて休みます故」
うちの屋敷に住むのは恐れ多いとか言うし、用意した家だって遠い訳じゃないってのに庭の真ん中に座ったまま寝てんだよ、この人。
仕方ないので門の横に家を建てる事になったんだけど・・・・・
「で、何で頼んだ物より小さくなってんだよ・・・・・」
建て始めた基礎の部分が明らかに小さい。って言うか物置位のサイズしか無いんだけど。
「いや、なんでも眠る以外に使わないのだからベッドが置ければそれで良いとか、王家の敷地をお借りするのだからこれでも広い位だとか言われて・・・・・」
「・・・・・ハァ・・・デュランさん、冗談抜きでうちが虐げてる様にしか見えませんから普通の家に住んで下さい!良いですね!!」
「むぅ・・・そこまできつく言われては仕方ないか・・・・・」
この人頭の中が五千年前で止まってんだよ。初代様に命を助けられたのかもしれないけど、それは今を生きる俺達に返す恩じゃないんだって解ってくれないんだよなぁ。
で、大勢の職人を投入して突貫工事で家を仕上げてデュランさんはうちの庭に住み始めた。冬前に仕上がって本当に良かったよ。
まぁデュランさんの事は好きにさせとこう。そのうち何かやりたい事でも見つかるかもしれないし。
*
*
*
「態々来て貰って済まんな」
「いや、別にいいけど何の用だ?孫にはこの間会ったばかりだろ?」
「いや、それとは別件だ。近い内に伯母上、ヘルガ様に渡りを付けて貰いたいのだ。その、息子のリュシアンとエリステル嬢の婚約が決まったのでな」
「おお、そいつは目出たいな。ヘルガさんには知らせとくよ」
「それでだ、可能であるなら結婚式だけでなく結納にも参加して欲しいと伝えて貰いたいのだ。今現在エリステル嬢の家族で所在が分かっているのは母のイザベルとヘルガ様だけなのでな」
父親のヘンドリクスと兄のウスタルは二年前に刑期を終え、その後は貴族家を回って支援を求めたが誰にも相手にされずに冒険者登録した所までは俺も知っている。が、その後依頼を受けた様子も無いし、姿も見せないから何処で何をしているのかさっぱり解らないんだよなぁ。
「そりゃ構わないけど・・・来るかなぁ・・・・・貴族の体面とか嫌ってるし、家名を捨てた時点で家族じゃないとか言ってたし」
普段の様子からするととてもそんな事言う人には見えないんだけど、実子や孫よりも弟子の方を大切にしてんだよね。オスカーさんの子供はめちゃくちゃ甘やかしてるし。
「まぁ、取り合えず話はしてみるよ」
「其方以外にヘルガ様を動かせる者は居らんのだ。宜しく頼む」
珍しく頭を下げたフォスターの元を辞去してヘルガさんの所に話をしに行ったんだけど
「嫌よめんどくさい。どうせ参加する親族が少ないとブラッドリー家の体面が~とかそんな所でしょ?もうグランバート家は無くなって貴族じゃないんだから、実母のイザベルだけで十分よ」
と、素気無く断られた。
「いや、そうかもしれないけどさ、血を分けた家族なんだし考えといてよ」
「私にとって家族とはアーサーとその技を伝授した弟子達だけです。血より濃いモノが有る事はブレッド様ならお解り頂けるのではありませんか?」
「じゃ、じゃあフォスターは?あいつはヘルガさんの弟子なんでしょ?だったら―――」
「違います」
「え?」
「彼は勝手に二代目総帥を名乗った元騎士団長の手が足りないがために、病に伏したアーサーの代わりに私がロドリゲスに請われて指導した新兵三十名の内の一人に過ぎません。彼が一閃流を名乗る事はこの私が許しませんから」
「そ、そうなんだ・・・ま、まぁ今直ぐの事じゃないんだし少しで良いから考えといてよ」
「ブレッド様のお言葉ですから考えるだけは考えます。ですが、私が出向く事は有りませんから」
う~ん・・・意固地になってる訳じゃないんだよなぁ。なんて言うか無関心?本当に興味が無いって感じだから困る。ロドリゲスとアルバさんみたいに時が解決してくれるって事は無さそうなんだよなぁ。
ここまで読んで頂き有難う御座います。