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「へいらっしゃい!何にしやしょ!!」
「あ、あの~ここって何のお店ですか?いや、テーブルと椅子が有るから飲食店なのは解るんですけど」
「表の看板に書いてある通り『麵屋』ですが?」
「いや、その『麺』ってのが何なのか解らないんですよ。そこのメニューに書いてある物も何が何だかさっぱりなんですけど・・・・・」
「まぁ解りやすく言うとパスタの一種ですかね。パスタとの違いは―――」
「ちわ~っす!」
「デルタさんいつもの・・・おっと、先客が居たのか、こりゃ失礼した」
「へい毎度ぉ!こちらさんは初見さんなんで説明が有るから兄さん等のを先に受けても大丈夫だけど・・・本っ当にいつもので良いのかい?」
「お、って事は新作でも・・・あああぁぁぁ!!兄貴!あれ見て下さい!あれ!『冷やし中華始めました』って書いてあるっす!!」
「なんだと!!デルタさん!いつものは取り消しだ!!冷やし中華!冷やし中華に変更してくれ!!」
「俺も!俺も冷やし中華で!!」
「あいよぉ!!冷やし中華二丁!へいお待ちぃ!!」
「はやっ!何ですかそれ!!注文直後に出て来るとか有り得ないでしょ!如何なってんですかこの店は?!」
「あ、うちは早い、安い、旨いが売りなんで」
「いやいやいや、そう言う次元を超えてたでしょ今のは!」
「おい兄ちゃん、この店の詮索は無しってのが暗黙の了解って奴だ。カウンターの奥、見てみな」
「え?・・・あれは、営業許可証?・・・って!何で国王陛下のサインが?!王家の印章も有るって事は本物?!え、何で?どうしてこんな南端の峠の店に・・・・・」
「あんたもここへ来たんなら聞いてんだろ?『国内の主要街道で魔物や盗賊に襲われる事は無い』って話」
「え、ええ、勿論ですよ。だから私はサウスポートへ仕入れ先の開拓のためにこの峠を通る決心をしたんですから」
「ああ、二年前まではサウスポートへ行き来するための唯一のこの街道でこの峠が最難関だった。だが、この店が出来た時からその心配は無くなったのさ。俺達サウスポートの冒険者はこの店が国王陛下の粋な計らいって奴だと思ってる」
「そ、そうなんですか・・・・・」
「だから、だ。いいか、万が一にもこの店が無くなるような事が有ればサウスポートを拠点としている冒険者を含めた全ての町民を敵に回すと思え。この店のお陰であんたみたいな行商人が増えて町に活気が出て来たのは間違いないんだからよ。いいな、だからこの店の詮索は無し、だ」
「ぅぁ・・・・・は、はい」
「フッ・・・解ってくれりゃそれでいいさ。そう言や、今日が初めてって言ってたな。これも何かの縁だ、俺が奢ってやるからしっかり味わって食べるんだな。デルタさん!その兄ちゃんにも冷やし中華を!!」
「へい!冷やし中華一丁!お待ちぃ!!」
「あ、いや、その・・・・・い、頂きます」
「かぁ~!うめぇっすねぇ兄貴!この酸味の効いたスープが最高っすよ!!」
「全くだ!こいつが夏限定ってのがまた憎いよなぁ!もうこいつの無い夏なんて考えられねぇぜ!!」
「あ・・・ほんとに美味しい・・・・・」
デルタは大陸制覇後、最南端の国の峠で『麵屋デルタ』を営んでいた。この峠道は盗賊や魔物が頻繁に出没していたので国王から許可を取って俺が周囲を開墾して井戸を掘り、店だけで無く野営地として商人や冒険者が利用出来るようにもしてあるのだ。
で、ブラボーとチャーリーはと言うと、噂を頼りに人里離れた山奥とかで魔族の捜索をしているのだが成果は相変わらず無い。いい加減都市伝説的なオカルトめいた物以外の噂話も聞かなくなってきたので近い内に彼等も好きにさせるつもりだ。
つーか、この三人は長旅のせいか別人格っぽくなってんだよなぁ・・・ほんと、如何なってんの俺って。
ここまで読んで頂き有難う御座います。