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翌朝、朝食を摂った後にデュランさんを連れて改めて町中を案内した。商業地区、工業地区を回り、役場で住民登録をして貴族街を回った。
「随分と雰囲気が違いますな」
「まぁ、外国の貴族用の町だからね。ここからは一応特別区域だから覚えといて。尤も送られて来るのは温厚な方ばかりだから問題は起こらないけど」
「左様ですか・・・・・」
説明をしながら中心にある迎賓館へと足を運ぶと、中央のホールに集まった貴族や使用人達に迎えられ歓待を受けた。
「ようこそ貴族街へ。ブレッド陛下、並びにデュラン様、どうぞこちらに」
「昨日は失礼致しました。改めて自己紹介をさせて頂きたい」
「む・・・其方・・・いや貴方様方は・・・・・」
昨日の馬鹿騒ぎの中に彼等も居たんだ。平民の格好をしてデュランさんに気さくに話し掛けていたよ。
「私共はブレッド陛下の『区別は有っても差別のない国』と言う思想を自国でも実現すべく学んでいる所なのです」
「民を知るには先ずは自分達から歩み寄らなければなりません。服装や言葉使い、同じ物を食し、労働に汗をかく事がその第一歩と言う訳です」
「それが良き施政者への道だと私達は信じております。さあ、立ち話はこれ位にしてお座り下さい」
その後は各国の貴族達との昼食会を挟んで町へ戻り衛士隊の訓練場へと向かった。
「オスカーさん、少し見学させて貰うね」
「はい、事前に聞いておりましたのでお好きなだけ。初めまして、デュラン殿でしたな。私は一閃流四代目総帥のオスカーと申します。以後お見知りおきを」
「こちらこそ宜しく頼む・・・・・ぬっ?!何者だ!」
オスカーさんとあいさつを交わしたデュランさんが突然振り向き誰何の声を掛けた。
「あら、流石に後ろは取れないわね」
俺が振り向くと、そこには悪戯が成功した時の子供のような笑顔をしたヘルガさんが立っていた。
「ちょっとヘルガさん、脅かさないで下さいよ」
「フフフ・・・ちょっと試してみたくなっちゃっただけよ。それじゃ、ごゆっくり~」
「・・・・・あの御婦人は?」
「ヘルガさんって言ってオスカーさんの師匠なんだ」
「ふむ・・・あの御婦人は本当に人族なのですか?」
「え?そうだけど?」
「左様ですか・・・人族の『可能性』を見た気がします。オスカー殿、先を見据えてヘルガ殿を超える者の育成を目指して頂きたい。我一人で護れる範囲はたかが知れております故」
「奥様は特別なお方ですが・・・・・遥か未来に敵方として現れないとは言い切れませんし、目指す場所は高い方が良いに決まっております。私は出来る限りを尽くして行くと約束致しましょう」
がっちりと握手を交わし頷き合うデュランさんとオスカーさん。ヘルガさんのお茶目な悪戯のせいで衛士隊の訓練内容が見直され、大陸最強と謳われる精鋭部隊が生まれる事になるのは二十年後の話だ。
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「あ~ブレッド殿、少々良いか?」
『『『『『どうしたロドリゲス、急用か?』』』』』
「そのだな、私事で申し訳ないのだが・・・フェリシアが孫の顔を見たいと申しておってだな・・・・・」
『『『『『ん?孫?ああ!そう言えばアルバさんはあんたの息子だったな。すっかり忘れてたわ』』』』』
「勘当しておいて今更孫の顔が見たいなどと言うのは如何かとも思うのだが、知っての通りランスロットやアルベルトは未だ相手も居らん始末なのだ」
『『『『『俺は別に構わないぞ。寧ろアルバさんと和解する良い機会なんじゃないか?』』』』』
王太子は年回りと身分の関係で相手が決まらない。次男の方は兄に男児が生まれるまで結婚する気は無いとか言ってるのを聞いたっけ。
王妃のフェリシアさんの方はヘルガさんの助言とロザンナさんの駆け落ちが余程堪えたらしく、ロザンナさんにきつく当たっていた事を謝りたいとか。
「それでだ、済まんのだが私とフェリシアの送迎を頼みたいのだが良いだろうか?私達は立場上長い間城を離れる訳には行かんのでな」
『『『『『構わないぞ。フォスターの事月一位で送り迎えしてるし。寧ろあいつは少しは遠慮しろって感じだ』』』』』
戴した手間じゃないけどタクシー代わりに気軽に使いやがってあの野郎。次から送迎代取ってやろうか。
そんな訳でロドリゲスとフェリシアさんをロイドまで送り迎えしてやった。お互い仲違いした時の事を反省していてすんなり仲直りとなるのだった。
ここまで読んで頂き有難う御座います。