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「・・・デュランさん・・・行こう・・・・・」
「ん?町の案内は明日では無かったのか?」
「良いから来てくれ・・・・・」
袖口で涙を拭いデュランさんの背中を押して家を出て北へと向かった。彼の話を聞いてもしかしたらと思ったんだ。
「・・・・・この景色を見るために我は生き続けて来たのだ・・・・・ブレッド陛下、初代様の夢を叶えて下さり有難う御座います・・・・・」
「これは俺の夢でもあったから・・・・・でも見せたいのはこれだけじゃないんだ」
人族と魔族が共存する町の様子を見て目頭を押さえるデュランさんを連れて北門を抜けるとその先には木々の生え揃った山脈が見えた。
「ここが?この景色を見せたかったので?」
「その背中の翼が飾りじゃないなら空を飛んで上空から周辺を見て来てくれるか?」
「ああ、構わんが・・・・・」
なんだか納得いかないと言った顔をしたデュランさんが翼をはためかせて上空へと上がって行く。
2,30mは上がっただろうか、その場に滞空するとデュランさんは回りながら周囲を見渡し―――
「ここは・・・あの山の稜線にその奥に見える山頂の形・・・・・忘れる物か・・・この地は我等が開拓したあの・・・・・うおおおぉぉぉぉ!!陛下あぁぁ!!御覧になっておいでですか!!あの頃夢見た物の全てが実現されておりますぞ!!陛下の仰られた『その時』が来たのです!!それも陛下の『銘』と『意思』を受け継がれた者の手によってです!!陛下の命を守り続けてきて本当に良かった!!」
ゴーン―――
ゴーン―――
ゴーン―――
ゼルゲルの上空にデュランさんの歓喜の叫びと正午を告げる鐘の音が響き渡る。思った通りここは嘗て彼等の創った村だった。魔族が創り、人族が奪い、そして魔族が取り返し、人とも魔族とも言えない俺が取り返して魔族と人族が共に再生した町。それがゼルゲルだった。
その後、満足するまで上空を飛び回ったデュランさんは俺の元へと戻って来て
「ブレッド陛下、初代様の宿願果たして頂き有難う御座います。夢半ばにして散って行った同胞達も報われる事でしょう。我はこれより貴方様を主君とし、この命尽きるまで仕えさせて頂きます。何なりと御用を言いつけて下され」
と言った。それに対し俺は
「この国には身分の上下は無いんだ。だから俺に仕える必要は無いよ。デュランさんのこれまでの忠誠に報いたいから最大限の支援はする。だからこれからは好きな事、やりたい事をすると良いよ」
と答えた。約五千年間初代様との約束を守り、魔族の未来のため、唯々愚直に生き抜いてきた彼に報いたい気持ちで一杯だった。
「左様ですか・・・では、これまで離れていた分も含めて、この地と王家の守護に当たらせて頂けたらと」
「ん~・・・この辺で戦う必要なんてないんだけど・・・・・まぁ、取り合えず他にやりたい事が見つかるまで好きにすると良いよ」
「ハッ!寛大なるお言葉感謝致します」
こうして俺達の国に『忠臣』デュラン・ドラゴニスが加わった。
「さ、丁度昼だし帰って飯にしよう」
「ハッ!」
振り向いて北門へと歩き出すとそこには沢山の人が詰め掛けていた。アルファで町中にデュランさんの事を知らせて回ってたら勝手に集まって来たんだよ。
「ようこそゼルゲルへ!」
「ばっか、ようこそじゃねぇだろ!お帰りなさいだ!」
「長い間ご苦労だったねぇ。暫くはのんびり過ごすと良いよ」
「お帰りなさい!何か困った事が有ったら何でも言ってね!」
人族も、魔族も、彼の成した功績を正しく理解し称えて町へと向かえた。デュランさんは唯々涙を流し頷いていた。
で、そのままうちでは無く町の中心にある役場まで連れて行かれて宴会、と言うかお祭り騒ぎになった。
大人達はデュランさんの語る昔話に涙し、子供達は光を纏い空を飛ぶ彼に憧れ、そのどちらも彼を『英雄』と呼んだ。
宴会はそのまま深夜へと続き、翌朝町の至る所でお姉さま方に蹴り起される男性の姿が目撃されたと言う。
あ、デュランさんは余り遅くならない内にうちへ連れ帰りましたよ。ベッドで寝かせてあげたいじゃん。
ここまで読んで頂き有難う御座います。