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―――オギャア!オギャア!
よく頑張ったね。見て御覧、元気な男の子だよ
あぁ・・・良かった・・・・・あの人も喜んでくれるかしら―――
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ウェイスランドの国王との交渉も終わり、不可侵条約を結ぶ事が決まって国王を城まで送った訳だが、その後はもう荒れに荒れた。
完全敗北して国王が拉致されたんだから無条件降伏した訳で、こちらの出す条件は丸呑みしてもおかしくないんだけど会議にも掛けずに国王が勝手に決めた事だからしらんとか言いだす大臣とか有力貴族が続出。まぁ〝アデル〟の息の掛かった奴等な訳だが、そのアデルがもう居ない事も信じていない状況でだな
『『『『『国王さんよ、言う事聞かない奴等は全員消しちまっていいか?』』』』』
「ま、待ってくれ!それでは政務が―――」
「魔王か!姑息な真似ばかりしおって!!」
「神の名において成敗してくれる!姿を見せよ!!」
「其方等止めんか!!ブレッド殿!暫し御時間を下され!必ず説得して見せます故―――」
「陛下!何を言っておられるのです!こ奴なんぞのの言いなりに―――」
『『『『『トランスファー』』』』』
面倒だから会議中に声だけでお邪魔して、文句を言ってる奴の中でも特に好戦的な奴を三名程山奥に転送してやった。
「な・・・・・」
「ぉ・・・ぁ・・・・・」
「ぶ、ブレッド殿、彼等を何処に・・・・・」
『『『『『さてな。知ったとしても直ぐに助けられるような所に送ると思うか?まぁ心配すんな〝俺達〟は危害を加えねぇよ〝俺達〟はな。そうだな、あいつ等が改心したら返してやるよ。いいか、お前等この国は敗戦国だって事を忘れるな。それと、俺がその気になれば全員消す位雑作もない事だってのもな』』』』』
その場はそれで収まったが、夜に自宅で悪だくみしている奴を二名追加で山奥へ。はっはっはっ、魔王からは逃げられねぇんだよ。
で、翌日にその事が貴族中で噂になり消されては敵わないと文句を言う奴は居なくなった。
更に二日後。突然自宅の前に戻って来た彼等は別人のように憔悴しきっていて暫くの間自室から出る事も無く、何かに怯えるように過ごして居たと言う。まぁ、着の身着のままで山奥に飛ばされたんだ、寝食も満足に取れない状況なんて想像もしてなかったんだろう。
これでウェイスランドは暫くは大人しくしているだろう。ウェイスランドはな。
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で、当然アデルの方も荒れていた。アゼリアが戻るなり会議を始め、俺の出した条件をアゼリアが言った途端ウェイスランドと同様に騒ぎ出した。
「貴方達は何も解っていません。大聖堂の最深部に突然現れ、誰に邪魔される事無くアデルを攫って行ったと言う事実を理解していますか?今この場に現れ・・・いえ、彼が見せた力を持ってすれば大聖堂ごと消し飛ばされても不思議ではありません。私達が生き残るためには従う以外の選択肢は無いのですよ」
アゼリアは冷静に、淡々と、幼子を諭すように語り、説得を続けた。
まぁ、結局はこっちも悪巧みしている奴等が居たんだが、こっちはアゼリアを攫った。アゼリア一人でどうにかなる状況じゃなかったんだよ。
アデルの妻を担ぎ上げて司祭長達が深夜に謀反を決行。ほぼ全ての司祭長が参加していたためにアゼリア一人を攫った。
「な、何故・・・いえ、私の力が足りないばかりに申し訳ありませんでした」
「いや、俺の方こそ・・・・・俺が、憎いか?」
「憎くないと言えば言えば嘘になります・・・でも、それ以上に恐怖の方が勝っています・・・・・解っていたんです・・・力で抑え付けていては何時かこうなるだろう事は・・・・・」
「そうか・・・これから如何する?いや、如何したい?行く当てが有るなら送ってやるけど」
「・・・その、暫く考える時間を頂けますか?今は如何すべきなのか、如何したいのか、何も思い浮かびませんから・・・・・」
「解った。暫くゼルゲルの教会でじっくり考えるといい」
俺は彼女の様子から誰かに危害を加える事は無いだろうと判断してアゼリアをゼルゲルの教会で匿う事にした。
翌日。監禁していた司祭長達を不正の証拠と共にアデルへと送り帰した。この街にアデルもアゼリアも居ない事を書き添えて。
その後は言うまでも無くスラムの住人を中心に暴動が起こり、大聖堂は暴徒の渦に飲み込まれた。生き残った数人の司祭長達はウェイスランドへと庇護を求め逃げ延び、都市国家アデルは宗教国家ではなく、豪商達による議会制民主主義国家へと変わって行く事となる。
そして―――
「有難う御座います、先生」
「忙しいのは解りますけど、あまり無理はしないようにね」
「へ~い」
アゼリアはゼルゲルに留まり、その生涯を自らの『祝福』の力を生かして治癒術師として過ごした。これまでの罪を償う事が自分のやるべき事だとそう信じて。
ここまで読んで頂き有難う御座います。