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閑話 06 血より濃いモノ

 俺が生まれ育ったのは教会の孤児院だった。


 司祭長の父と司祭の母。俺は出自を隠され他の孤児達と同じように育てられた。


 俺がこの話を聞かされたのは見習い司祭として付く事になった女の司祭からで、その女が母だった。


 母もまた孤児で司祭長の見習いとして囲われ、成人前に俺を身籠ってしまったために誰にも気付かれないように出産まで隔離されてしまったのだと言う。


 正直母と言われてもピンと来なかったし、情が沸くよりも唯々気持ち悪いとしか思わなかった。


 誰に憚る事無くこの手に抱く日を夢見て来たと言う母に


「ごめんなさい。少し一人で考えたいのですが・・・・・」


 と、申し訳なさそうに俯きながら答え、翌日の日が昇る前に孤児院を抜け出しスラムへと逃げ込んだ。


 権力を笠に弱者を虐げるクズの父と、自分可愛さに子供を捨てた母から生まれた俺。


 そんな事は知りたくなかった。何も知らずに孤児として、司祭となって孤児院の弟妹達が少しでも楽になれるように働きかけるつもりだった。


 だが知ってしまった。あのクズ共の子だと。俺には弟妹達の力になる事なんて出来ないのだと。


 自分の息子に何の感情も持たない司祭長が相手だ。俺が歯向かえば簡単に消されてしまう。だから逃げた、外の世界で〝力〟を手にするために。


 領主や衛兵なんて当てにならない。全員とは言わないがあいつ等も教会と繋がっているからだ。


 スラムの一角に身を潜め、似たような境遇の子供達と力を合わせて生き抜いた。それこそ殺しと人身売買以外なら何でもやってだ。


 そして、そこそこの組織としてそれなりの〝力〟を手にし、教会と繋がっている奴を締め上げて悪事の証拠を手に司祭長を脅して〝薬〟の横流しと弟妹達の進路の自由を勝ち取った。


 衛兵や他の組織の目を盗んで酒で薄めた〝薬〟を売り捌き日々の糧を得た。増えて行く弟妹達を食わせていくために。


「兄貴、ロレンツさんが来てくれって」


「あん?あいつが俺を呼び出すなんて珍しいじゃねぇか。何か企んでやがんのか?」


 ロレンツとは酒や食料の取引以外にも、人手を貸してくれと言われて配達の仕事をした事もある。そこそこ友好的な関係だった。


 この時は人手が必要なヤバい仕事を手伝えとか言われるんだと思っていた。まぁ確かにヤバかったし、でかい仕事だったけどな。いや、仕事自体は真っ当なもんだったか。


「ま、いいけど。それじゃ自己紹介でもしますか。初めまして、キース君。俺の名はブレッド、二代目『飽食の王』をやらせて貰っている」


「・・・・・・・・・・は?」


 正直自分の耳を疑ったぜ。『飽食の王』の事は孤児院時代に嫌になるほど聞かされたからな。だが、相手が魔王だろうと関係なかった。俺にとっちゃ弟妹達を食わして行く事の方が重要だったからだ。


 その日から俺達の生活は一変した。十分過ぎる程の食事と収入。そして誰に憚る事無く町中を出歩ける生活は俺達にとって憧れだった。


 町を出る時にいけすかねぇ衛士達に一泡吹かす事も出来たしな。しかも噂に聞いた騎士団長の右腕と言われる男の部隊にだ。


 ブレッドさんには本当に感謝してる。だけどよ、余計なお節介は止めてくれ。俺はこのクソみてぇな血を残したくねぇんだ―――


「なぁ、兄貴ぃ・・・いい加減詰まんねぇ意地張ってないで結婚してくれよ」


「あ?何でお前等にそんな事―――」

「いや、もういいじゃん、止めようよそう言うの」

「そうそう、俺達もうカタギなんだし、昔の事なんて気にする人もここには居ないんだしさ」

「だよなぁ、詰まんねぇ意地張って兄貴が幸せ逃すの見てらんねぇんだよ」


「別に俺は意地張ってるとかじゃ―――」

「じゃぁ俺達も兄貴が結婚するまで結婚しねぇから。ま、俺等は兄貴みたいにモテねぇけど」


「なっ!良い度胸じゃねぇか!!お前等、俺を脅す気か!!」


「いや、兄貴の本性知ってる俺達に凄んでも無駄だって・・・ずっと俺達のために奔走してくれた兄貴に幸せになって欲しいだけなんだよ」

「そうそう、金貯め込んでんのも俺達に何かあった時のためなんだろ?これからは自分のために使ってくれよ」

「俺達〝兄弟〟だろ?ずっと世話になりっぱなしだったけど定職にも就けたんだし、これからは俺達の事より自分優先にしてくれよ、俺達貯金も始めたんだぜ」

「それでさ、これ受け取ってくれよ。皆で金出しあって買ったんだ。兄貴とエミリーさんが幸せになりますようにってさ」

「ブレッドさんの昔居た所じゃ結婚する時にお揃いの指輪付ける習慣が有ったって聞いたんだ。受け取ってくれよ」


「・・・お、お前等・・・馬鹿野郎!こんなもん買う金有ったら・・・服とか・・・身の回りのもん・・・揃えりゃいいだろうが・・・・・」


 弟妹達に説得され、強引に押し付けられた箱の中には二つの指輪が入っていた。こいつ等何時の間にか成長してやがった・・・もう、子供じゃねぇんだな・・・・・


 肩を震わせ俯いていると弟妹達に背中を押されて家から追い出され俺は―――


「それじゃ、俺達はロイドに配達に行って来るんで兄貴と姉さんは俺達が帰って来るまでお休みで」


「なっ!お前等だけで行かせるなんて―――」

「行って帰って来るだけなんだから俺達に任せて下さいって」

「兄貴達は新婚生活満喫して下さいよ」


「いや、俺も―――」

「キースさん、皆の気持ちだから受け取っておきましょう?皆、気を付けて行ってきてね」


「「「「「はい、姉さん!行ってきま~す!!」」」」」


 昨夜はその場の雰囲気と勢いでエミリーさんの家に泊まっちまった事を少し後悔した。あいつ等が結婚する時は盛大に祝ってやるから覚えてろよ!!


 エミリーさんと二人、肩を並べて町役場に向かった。家族が一人増えたと報告をしに。

ここまで読んで頂き有難う御座います。

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