10
ベンゾさんの所に戻ってコッペパンの代金を受け取り荷車を引いて家へと帰った。門の近くまで来ると子供達の笑い声が聞こえてくる。楽しそうで何よりだ。
「ただいま、皆。良い子にしてたかい?」
「おかえり~ブレッド!」
「ちゃんといい子にしてたよ!」
「よしよし。あれ?ジャンは?」
駆け寄ってきた子供達の頭を順に撫でてあげた。だが、その中にジャンが居ない。面倒見の良い彼が他の子を放って何処かに行くとは思えないけど。
「ジャンにいちゃんなら、あっちでまきわりしてるよ」
「ちかくにいくとおこられるんだ」
「あぶないからきちゃだめだって」
「「「「「ねぇ~」」」」」
「そうか、ちゃんと言う事聞いて皆偉いな」
荷車を裏に片づけてジャンの所に向かった。最年長とは言えジャンもまだ十歳位だ、薪割はきついだろうし皆と遊びたいだろう。やった事は無いけど俺が代わりにした方が良いに決まってる。
「ジャン、ただいま」
「あ、おかえりなさい、ブレッドさん」
ジャンは俺に挨拶すると直ぐに薪割を再開した。なるほど、ああやって割るのか。
「なあジャン。それ、俺にもやらせてくれないか?」
「え?ブレッドさんにやらせる訳には・・・・・」
「いいから、いいから。やってみたいんだよ、面白そうだし」
半ば強引にジャンの手から鉈を取り上げ薪割を始めた。薪の中心に鉈を打ち付け、鉈に食い込んだ薪ごと台に打ち付けていくと木の目に沿って薪が割れた。
「ジャン、昼飯まで他の子達の面倒見ててくれるか?」
「あ・・・はい!ありがとう、ブレッドさん!」
薪を割りながら背後に居たジャンに声を掛けた。俺の意図に気づいたジャンは礼を言って子供達の所へと走って行くと、直ぐに他の子達との笑い声が聞こえてきた。そうだよな、自分だけ遊べないのは辛かっただろう。
ちらりと近くの倉庫に目をやる、結構な量の薪が置いてあるけど、これでも冬を越すのは難しいのだろうか?俺には薪で冬の寒さを凌いだ経験・・・いや、記憶が無いから解らないが、この八畳間程の倉庫が一杯になる位は必要なのかもしれない。乾パン売れると良いなぁ・・・・・
昼になり子供達に昼食を与え、残りの薪割を片付けた後は子供達と夕方まで遊んだ。この身体、結構体力が有ると言うか、まったく疲れを感じない。もしかして元がパンだからだろうか?
ライザが仕事から帰ってきたら夕食だ。和気藹々と楽しく過ごした後、子供達は就寝。俺はライザに今日の売り上げを渡し、少し話をしてからライザも二階へと上がって行った。
翌日、翌々日もアルバさん達に会えなかった。ベンゾさんの話では、一回の依頼で大体三日から七日前後は戻ってこない物らしい。それを聞いて俺には冒険者になって稼ぐのは無理そうだと肩を落とした。皆の食事にベンゾさんへの配達もあるし、どう考えても家を空ける訳にはいかなかった。
「ああっ!おい、兄ちゃん!」
「え?俺?ってあなたはこの間の・・・・・って名前聞いてなかったっけ。この間は親切にして頂いて有難う御座います」
配達を終えて帰ろうとした時、背後から声を掛けられて振り向くと、そこにはギルドで声を掛けられた・・・・・盗賊みたいな恰好のおじさんが居た。
「お、おう・・・いや、それはいいんだよ。そんな事よりギルドに行け、職員の姉ちゃんがお前の事探してたぞ」
「え?俺の事を・・・・・あっ!ベンゾさん!済みませんが荷車をお願いします!」
ベンゾさんの返事を待たずに駆け出した。もしかしたらと期待で胸を膨らまして。
「あ!ブレッド君、来てくれたのね。良かったわ、何人かに声を掛けたんだけど君と連絡取れる人が居なかったのよ」
「済みません。連絡先教えておけば良かったですね。それで僕に用が有るって聞きました。もしかしてアルバさん達が帰って来たんですか?」
ギルドの扉を少し乱暴に開けて中に入ると、この間のお姉さんに声を掛けられた。
「あ~違うのよ。この間の保存食なんだけど、売って貰えないかなって」
「本当ですか?!有難う御座いま・・・・・」
「おい、エミリー・・・俺がお前等に何て言ったか覚えてるか?」
「ヒッ!す、済みませんでした!!」
「おい、坊主。付いてこい・・・・・」
俺が職員のお姉さん・・・エミリーさんと話し始めて直ぐにエミリーさんの真後ろに現れた目付きの鋭い長身の男性に連れられて二階の一番奥の部屋に入る事になった。誰か知らんけど、偉い人っぽいよなぁ。
ここまで読んで頂き有難う御座います。