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「こちらフォックス、草原の南端にウェイスランド軍が到着した。現在簡易陣地を構築中、戦闘は明日以降になる模様」
南砦の最上階の更に上の誰も来る事が出来ない屋上から草原の南側で作業をするウェイスランド軍を見下ろした。
(こちらオリジナル、了解した。こちらは何時でも介入する準備は出来ている)
時刻は昼過ぎ、砦内が俄かに騒がしくなって来た。フォスターからの指示で部隊が配置に付いて行く。フォスターは・・・出る気満々だな、おい。南門の最前列中央に馬に乗ってきやがったよ。まぁ、戦わせるつもりは無いけどな。
つーか、気が早えよ。お前らどんだけやる気出してんだって話だ。どう考えても侵攻してくるのは明日の早朝か、精々夜中に嫌がらせ位だろ。陣地作るの見えてんだし。
あ、セレスタさんとケベックさんに止められてるよ。だよなぁ、こっちから出て行くとか間違ってるし、何より大将なんだから出るにしたって最後だろ。
まぁ、夜襲も奇策もさせねぇよ。ずっと見張ってたんだし、陣地を構えてる所にも乾パンの俺が居る。何より既に手は打ってあるから明日の朝に進軍開始したらウェイスランド軍には即退場して頂きますがね。
唯一の懸念事項は次期アデルの持つ『祝福』だが、こちらも最悪の事態を想定して準備は出来ている。おそらくオリジナルの出番はないだろう。
フォスターがセレスタさんとケベックさんに連れられて砦の中に戻って行くと、南門前に整列していた兵士達も散って行った。フォスターがアレじゃ、部下達は大変だろうなぁ・・・主にセレスタさんが。
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今俺は調理場からワゴンに乗せられ大聖堂の最深部へと運ばれている所だ。夜中にこそこそ最深部を目指したが如何にも入れない一角があって、他にはそれらしき所がないために、そこに〝アデル〟が居るだろう事は解ったが扉の前に常に見張りが居て入れない。なので食事に混ざってりゃ何時か運ばれるだろうと調理場に潜んで居たが、漸くチャンスが訪れたと言う訳だ。
扉の前の見張りが食事の乗ったワゴンを検め、運んで来た女性のボディチェックをしてから扉が開かれ先に進むと、通路の先に見える扉の向こうから怒声が聞こえてきた。
「腹が減ったぞ!メシはまだか!!」
「・・・・・・・・・・」
他にも声?が聞こえてきたがはっきりとは聞こえなかった。怒鳴ってるのがアデルか?親子で短気なのかね?
怒鳴り声を聞いて身体を一瞬震わせた女性がワゴンを押す足を止めた。ゴクリと喉を鳴らし、再びワゴンを押して進み扉を開ける。開いた扉の向こう側で俺が最初に見た物は鉄格子だった。
似た者親子所じゃねぇな。息子も馬車の中で鎖に繋がれて檻に入ってたみたいだし?親父も檻に入ってる上に鎖で繋がれてるじゃん。何なのこの親子は?短気だし、繋いで囲っとかないと危険なのかね?
でだ、改めてこいつ等は潰そうって思ったよ。部屋の中に居たのは五人で、アデルらしき男性が一人と女性が四人。その内三人の女性はアデルと一緒に檻の中で全裸だった。トップがこれだし、その下の司祭長がアレなのは当然っちゃあ当然だな。あ、話し振りからして檻の外で服を着ている女性はアデルの奥さんらしかったが、食われちゃったので詳しい事は解らず仕舞いだったよ。
まぁ、これで何時でもここに転移出来るようになったし、取り合えずこいつ等は放置して不正の証拠でも集めますかね。問題は潰した後だよなぁ・・・〝アデル〟が居なくなったらこんな街、簡単に占領されちゃうんだろうし。
ここまで読んで頂き有難う御座います。