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アルバゴーン王国と話が付いたのでイステリアとエルベフォンにも同様の話を持って行った。非常時の食料支援と周辺国からの防衛を餌に、都市国家アデルと関わらない事を約束させ、違法な取引等の証拠を渡して関わった者達をその国の法で裁いて貰う事にした。
勿論すんなりと事が運んだ訳じゃないけど、突然城内に現れた俺に襲い掛かって来た近衛やら衛兵達を殺さずに制圧されれば言う事聞くしかないって訳だ。
その後はどの国も大騒ぎですよ。イステリアは商会が二つで済んだけど、エルベフォンは商会が三つと貴族が二家、アルバゴーンに至っては商会が五つと貴族が三家も関わっていたんだから。
そして―――
「な、何故だ・・・一体何が起こっていると言うのだ・・・・・」
「父上・・・我々は如何したら・・・・・」
「どうもこうも有りませんよ。貴方達は犯した罪を償えばよいだけです」
俺は約束通りヘルガさんをグランバート家に送った。ヘルガさんは項垂れて頭を抱える息子のヘンドリクスと孫のウスタルを冷めた目で見降ろし、無慈悲な宣告をした。
「はっ、母上!何故ここに?!」
「御祖母様!このままでは我が家が―――」
「この家は本日限りで潰します。アーサーが頂いた名とこの屋敷は陛下にお返ししますから、刑期を終えた後は貴方達の好きにするといいわ」
「そ、そんな・・・・・」
「今まで私とアーサーの‶名〟を使って十分良い思いをしてきたでしょう?これからは自分の力で何とかするのね」
衛士達が屋敷に踏み込んで来た。ヘンドリクスとウスタルが捕縛され他数名の使用人と共に連行されて行く。
「イザベル、貴方は如何しますか?貴方がこの家の監視をしていた事は解っています。実家に帰りますか?」
「御存知でしたか・・・陛下の命とは言え家族を裏切った私はもう貴族として生きる事は出来ません。これからは城の使用人として生きる事になるでしょう。お義母様如何か娘を、エリステルを宜しくお願いします」
救国の英雄とは言え元は強大な武力を持つ流れ者だった訳だし、監視が付いててもおかしくは無いって事か。
「それを決めるのはあの子自身よ。私達が決める事じゃないわ」
「イザベル様、お役目ご苦労様でした。エリステル嬢は我が家で御預かりする事になっておりますから御心配無く」
衛士を率いてきたリュシアンさんが二人の会話に入って来た。その手にはエリステルちゃんが出した手紙が握られていた。祖母では無く親戚を頼ったと。まぁ、犯罪者の家に嫁ぎたくないだろうし、将軍さんちなら信用出来るしな。
「そうですか・・・娘を宜しくお願いします。もう、母とは呼んで貰えないでしょうけど・・・・・」
「それは如何でしょうか。本人に聞いてみては如何ですか?」
リュシアンさんの後ろからエリステルちゃんがイザベルさんの前に出て来た。涙の溢れる彼女の瞳には決意の光が宿っていた。
「・・・・・必ず、必ず一人前の貴族になって迎えに行きます・・・ですから暫く待っていて下さい、お母様」
「御免なさいエリステル・・・私の力が足りないばかりに貴方に不自由を強いてしまって・・・・・」
「それは私も同じです・・・また共に暮らせる日を楽しみにしていて下さい」
「ええ、ええ、解ったわ・・・・・まだまだ子供だと思っていたけれど、すっかり大きくなりましたね」
お互い涙を流し抱き合い、誇らしげな笑顔でエリステルちゃんの頭を撫でると、イザベルさんは城へと向かう馬車へと乗り込んだ。エリステルちゃんは馬車が見えなくなるまで見送り、リュシアンさんに連れられてブラッドリー家へと引き取られて行った。
ここまで読んで頂き有難う御座います。