09
大通りに入り、ライザと別れて露店広場へ向かう。先ずはベンゾさんの所に配達をして、それからギルドだな。
「おはようございます、ベンゾさん!」
「おう、ご苦労さん。昨日はお前のパンが結構評判良かったぜ。一人で三つ買って行った奴も居た位だ。暫く五十で様子見て、いけそうなら七十か八十にするかもしれねぇが、いけるか?」
「おお・・・有難う御座います!数の方は百位ならいけますので大丈夫です。それと木箱お返ししますね」
「ハハハ・・・いいって事よ。うちも結構稼がせて貰ったからな」
「いえ、ほんとに助かりましたから。それで、ちょっと荷車預かってて貰えますか?ギルドに行ってきますんで」
「ん?・・・ああ、昨日言ってた保存食もう出来たのか?随分頑張ってんじゃねぇか」
「いやぁ、冬支度にお金が掛かるじゃないですか。だから今の内に出来るだけ稼いでおかないとって」
「おう、良い心がけだな。どうせ直ぐ帰って来るんだろ?気にせず行ってこい」
「はい、よろしくお願いします」
ベンゾさんに頭を下げてギルドへ向かった。冒険者ギルドの入り口前で深呼吸してから両開きの扉を押し開く。怖い人とかヤバい奴が居ませんように。
ギルドの中は外から見るよりもずっと広かった。入って右側の壁には掲示板が三つと、それを眺める十人以上の人。その奥にはカウンターに職員が三人いて冒険者の対応をしているのが見える。左には八人掛けのテーブルとイスが八つも有り、打ち合わせをしている冒険者が居た。如何か絡まれませんように。
余りビクビクしてたら余計に絡まれるかもしれないと、あくまでも自然に歩く事を心がけてカウンターに並ぶ人達の後ろに並んだ。心臓の鼓動がやけに早くはっきりと聞こえてきた。緊張し過ぎて額から汗が零れ落ち、床に染みを作って行く。
「おい、兄ちゃん」
「ヒャ!ヒャイ?!」
突然後ろから声を掛けられて変な声が出てしまった。
「お・・・おう、なんか具合悪そうだけど大丈夫か?」
「が・・・あ・・・だ、大丈夫・・・です・・・・・」
振り返るとそこには俺よりも頭一つ分でかい髭面でぼさぼさ頭の男が立っていた。こえぇ・・・何かの毛皮のベストと腰の大振りのナイフとか、どう見ても盗賊にしか見えねぇ・・・・・
「そうか?具合が悪いなら空いてる席で休んでからの方が良いぜ。もう少ししたら空いて来るからよ」
「あ、有難う御座います・・・でも、大丈夫ですから」
「それならいいが、無理すんなよ」
見かけによらず良い人らしい。見るからにヤバそうな人なのに、人は見かけによらない見本みたいな人なのかな?
「気を使わせちゃったみたいですみません。初めて来たもんでちょっと緊張しちゃって」
「がはははは!そうかそうか。初めてって事は登録か?兄ちゃんの体格じゃ外に出る討伐や採取は厳しいだろうから、最初は町中で出来る配達とかで身体を鍛えた方が良いぞ」
なんか凄く気さくな人みたいで良かった。なんか緊張も解けたし、助言もしてくれて有難いな。
「いえ、登録じゃなくてですね。昨日アルバさんって人に依頼されて保存出来るパンの開発をしたんで、アルバさんに伝えて貰おうと・・・・・」
「あ、アルバ・・・だと・・・・・」
何かアルバさんの名前出した途端に顔色が悪くなったんだけど・・・え?周囲の人もこっち見てるし・・・・・アルバさんって何者?ベンゾさんとも仲良かったし、悪い人とは思えないんだけど・・・・・
「あの~・・・もしかしてアルバさんって有名なんですか?」
「あ・・・ま、まぁな・・・ここじゃ知らない奴はいないんじゃない・・・かな・・・ハハ・・・ハハハハハ・・・・・」
何この反応?この人以外にも俯いたり顔を背けたりしてる人もいるんだけど。
訳が解らず首を傾げていると俺の番が来たので、カウンターに備え付けられている椅子に座った。なんか職員のお姉さんは笑ってるし。
「ごめんなさいね。バツが悪そうにしてる人達は皆アルバさんにやり込められた方達なのよ。アルバさん達がこの町に来る前は素行の悪い方が多かったんだけど今じゃすっかり、と言う訳なの。それで、話は聞こえっちゃったんだけど、アルバさんに頼まれた保存食が出来た事を伝えておけばいいのね?」
「あ、はい、お願い出来ますか?」
「ええ、勿論よ」
「あ、そうだ、少し置いて行くので職員の皆さんのお茶請けにでもして下さい」
肩から下げた鞄に手を入れて乾パンを出し、カウンターの上に置いて行った。えーっと、奥に居る人達も含めて八人か、別室にも居るかもしれないし五十個位出せばいいかな。
「あら、いいの?へ~一口サイズでお菓子みたいね。休憩の時にでも頂かせて貰うわ」
「それじゃ、よろしくお願いします」
椅子から立ち上がり、職員のお姉さんに頭を下げてギルドを後にした。アルバさんって結構強いんだな、見た目は普通のお兄さんって感じなのに。
ここまで読んで頂き有難う御座います。