第6話 弱者の抵抗
時は少し遡り、康介達がガレット達と対峙する少し前。
「ガレット様、見つけました」
ギミンは康介達から30メートル程の場所でシャーロットを発見していた。
「ご苦労」
「どうします?今すぐ仕掛けますか?」
「いや、まだだ。確かに今やった方が、確実かもなぁ。だが、そんな状態でリンチにしても楽しくねえだろうが。戦いは大通りでやる。正々堂々とな」
(この戦闘狂が)
ギミンは心の中で毒を吐いた。ガレットはシャーロットに真っ向勝負で勝てる自信がある様だが、そんなことを言っている場合ではないだろう。敵に下手に逃げられても面倒だ。
さらに最悪の場合、大通りに騎士が通ったりなんかしたら自分たち盗賊が逃げなくてはならない羽目になる。
やるなら、徹底的に。
これがリスクを避けるのを好むギミンのモットーであるため、ガレットの意見には不満が腐るほどある。しかし、
「……承知しました」
ここで、反発してもガレットが意見を変えることはないだろう。それこそ、この行動がリスクになりかねない。
ギミンは渋々ガレットの作戦を聞き入れる。
「それでは、まず、私の隊が大勢で取り囲むということよろしいでしょうか?」
「いや、ここはまずチラが仕掛けろ。敵二人も一応ギミンの隊を倒してる。雑魚が集ったって勝てねえだろうからな」
チラと呼ばれた鎖式の鉄球を持った男は、ギミンと同じで3人の隊長の内の1人である。奇襲を得意としていて道を通る通行人の荷物を奪う小隊を統率している。
ちなみにギミンの隊の役割ははアジト周辺の見回りである。
「できるな?チラ」
「りょうかァーい」
「チラに続いて俺と一緒にギミンたちも続け。お前らは取り囲むんだ」
「「はっ!」」
「はは、久しぶりだな。シャーロット・ベル・メディアン。一昨日ぶりかぁ?」
「……何者かしら?あなたみたいな人一回会ったら忘れるはずないのだけれどね」
そうシャーロットは警戒心を持ちながら答える。
「はっ、馬鹿真面目に答えてくれるな。確かにテメェは俺の姿を見たことはないだろうよ!」
「よくわからないことを言っていないで、その手に持った物騒な金棒をしまってくれるかしら」
「はっ、そうはいかねえな。俺たちにも仕事があるんだから、っよ!!」
そう言うと、ガレットは彼の腰ほどの長さがある金棒を片手で持ち上げ、上から振り落とした。
その巨体からから繰り出される一撃は、細いシャーロットの体を簡単に砕いてしまいそうだ。
だが、そうなることはなく、シャーロットはその一撃を軽くかわす。
ガレットはそのまま金棒を横に振り、斜めにふりかざしたりと連続攻撃を浴びせていった。
「っく!」
シャーロットはその攻撃を上手く避け、剣で受け流していくが、少しずつ後方に押されていき、反応が追いつかなくなっていく。
「おいおい、どうした!?こんなもんかぁ?」
そして、反撃の余地もなく、シャーロットは木を背中に背負う状態となってしまった。
横にそれて、一旦距離を取りたいところだが、周りは他の盗賊たちに囲まれていている。
(まずい…)
シャーロットは次に来る強烈な攻撃を防ごうとなんとか剣を添えるが、
「っ!?」
あまりの威力にシャーロットの体は吹き飛ばされる。
森中に大きな音が響いた。
「シャーロット!!くそ、なんでこんなことに……」
周りの下っ端と交戦していた康介だったが、シャーロットが吹っ飛ばされたのを見て、上手く攻撃をかわし、シャーロットの元へ駆けつけようとするが、
「ひひ、ボスの邪魔はさせねェーよ」
ガレットにチラと呼ばれたチラの鉄球が康介を襲う。
康介はその攻撃を間一髪でかわし、
「おい、あぶねえじゃねぇか、こら!」
「へえ、それを避けるのか。お前やるなァ。どうよ?俺と少し遊んでくかァ?」
「悪いがそんな暇はないな。美少女が巨漢に襲われてるの横目に、男と戯れる馬鹿がいるかよ」
「ひひっ、そりゃ、残念。趣味が合わないもんだァ!!」
「趣味とかいう話じゃねえよ、馬鹿」
「何だテメェ?今なんて言った?」
「お前の相手してる場合じゃねえっつったんだよ、馬鹿が!!黙ってそこをどくか、その気味悪い武器をしまいやがれ!」
「こいつか?この鉄球は俺の相棒だァ。そう簡単にァ手放さねえよっ!!」
そう言ったチラから繰り出された攻撃を康介はしゃがんで避ける。
「いいねェ、動けるじゃーェか」
チラは鎖をうまく操り康介を狙う。
しかし、康介は類稀なる反射神経で向かってくる鉄球を紙一重でかわしていく。
「ひひっ、やるなァ、けどどこまでいけるかなァ?」
そう言いながらチラは鉄球の速度を徐々に上げていく。
繰り出される連撃。それを前に鉄球を避ける康介の動きも鈍っていった。
「くっ!」
キリがないと思い、隙をつき康介は道から茂みに駆け込み木の裏に隠れる。
(こんなことしてる場合じゃねえ。シャーロットのやつ無事か?)
と、次の瞬間、バキッと木が折れる音が聞こえたかと思うと、康介の頭の上を鉄球が横切った。
「みィつけた!」
「ストーカー野郎が!!」
そしてまた、再び鉄球大会が再開してしまう。
康介は鉄球から逃げる。
(くそ、こんな避けてるだけじゃキリがねえ)
康介は相手への対抗の糸口が掴めないまま、ただ鉄球を目で追い、それを避けることだけを続ける。
ただ、康介がいくら避けても鉄球は止まることなく空中で暴れ続けている。
(何か手はないのか……)
康介の動きは鈍くなっても、鉄球は速くなるばかり。そろそろ避けるのも危なっかしくなってきた。呼吸も荒い。
と、思い出すのは先のチラの言葉。
『鉄球は俺の相棒だ。そう簡単には手放せねえやい』
(……試してみる価値はあるか)
康介は何かを思いつき薄く笑う。
「っく!」
がしかし、遂に速さが増した鉄球は変則的な軌道で康介の身体を横から打ちぬこうとする。
康介はそれを目で追い、
「確かにすごい玉捌きだが……」
そういって、康介は鉄球を両手で広げたリュックサックの輪の部分に通す。そして、力一杯踏ん張り、鉄球の勢いを殺してしまった。
康介はリュックサックから手を離し、
「へ、捕まえたぜ」
と、その瞬間、康介は鉄球の鎖を掴み、今度は思いっきり鎖を引っ張った。
「なに!?」
自分の持っている鎖を引っ張られたチラはそれに対抗し自分も鎖を引っ張り返す。
サッカーボール並みの大きさの鉄球を振り回していただけあり、チラの力も康介に負けたものではない。
康介は鎖の端の鉄球を脇で挟んで固定し鎖を引っ張る。
「なにがしてェんだよ」
強く引っ張られた鎖はピンと張り、ここから拮抗した綱引きが繰り広げられる。その中康介は少しずつチラに距離を縮めていく。
「いい加減にしろやァ!」
がしかし、康介が突如、鎖を手から離す。
「!?」
虚をつかれ、チラの体勢が後ろに崩れると、すかさず康介はチラの方へ駆け出していく。
「テメェ……」
チラは体勢を崩しながらもすぐさま鎖を操り鉄球を康介に食らわせようとする。
しかし、一度たるんでしまった鎖を操るのには時間を要し、鎖を引っ張っても鉄球が鎖についていくのにはタイムラグがあって、
「くらえーー」
そんな、一瞬の出来事。無様なチラの元に到着した康介は拳をひく。
「そう簡単に離せねえよな!!なんたって、大事な相棒なんだもんなぁ!!」
「あとなぁ、中距離の敵は近づいちまえば、怖くねえんだよ!!!」
そして、そう叫んだ康介の拳がチラの顔面に届き、チラは大きく吹っ飛んだのであった。
拳がうちつけられた衝撃、血の味がチラの口に広がる。
まさか、相手があそこまで加速した鉄球の一撃を受け止められるのだって、その後鎖を掴むのだって、あそこで手を離すのだって… 自分が吹っ飛ばされるのだって。
想定外だった。舐めてかかったらこれだ。
なんてことだ。
チラはその強さを買われガレットに隊長を任された。
それが、なんて様だ。
隊長である自分が明らかな格下の小細工に引っかかり、一発でも貰ってしまうなど。
(本当に、情けない)
心の底から自分への怒りが湧き出てくる。
「ひひ、ひひっ、ひひひひ、ひひ…」
「あ?」
戦いを終えたかと思い、後ろを振り向いた康介だったが、不敵な笑みを浮かべ再び立ち上がったチラの方を見やる。
「本当にお前気持ち悪いな」
「ひひ、ひひひ、どうしたァ?テメェの番はこれで終わりかァ?」
チラの目には先程までの戦闘を愉しむようなものはなかった。その笑みには明確な殺意が込められていて……
増大する負の感情。
「本当にしつこいぜ、ストーカー野郎が!」
チラはもはや康介の言葉に何の反応も示さない。
今のチラに康介の声など聞こえてなどいなかった。
チラは跳び上がり、鎖を再び宙に舞わせ、更なる一撃を康介に浴びせる。
先程とは違う。本気を出したチラの放つ鉄球の、何段階と速さの増した、変則的な軌道を前に康介は先ほどのように簡単に避けることはできない。
「くっ!」
その攻撃は康介の頭をかすった。
康介の脳がぐらりと揺れる。
その一瞬の隙。チラが更なる攻撃を繰り出すのには十分すぎる時間だった。
三度、宙に舞い上げられた鉄球は今度こそ相手の頭を射抜かんとする。
「終わりだァ。」
「っ!」
康介はなんとか意識を取り戻すが視界には黒い鉄球が目の前に…
ゴンッ!!
なにか鈍い音がした。
これまでの弱者の必死の抵抗も無駄だったと言わんばかりに、その鉄球は康介の顔面を抉る。
その瞬間、目の前が真っ黒くなり、血の匂いが広がるような感覚がした。
感じるのはなんとも言えない喪失感。
一瞬にして世界から色と音が失われていく。
血の匂い……
(あ、死ぬ…)
だが、少しすると不思議なことに色と音どころか痛みすらも無くなっていく。
康介は自分が何者で、なぜそこにいるのか。わからない、わからない、わからないまま死んで地に帰り、この世に存在した記録さえなく、その世の人々に何も残さないまま……
(ああ、死にたくねぇよ…………)
一瞬、この森に、山に、世界に静寂が広がったような気がした。
「おいおい、ひひ、死んじまったなァ。呆気ない終わりだなァ、おい」
チラは仰向けに倒れ込んだ康介に近づき康介を見下ろした。そこには顔がぐちゃぐちゃになり、とても人だったものとは思えない何かが転がっている。
「ひでェ顔だな。俺はまだあんたと遊んでもよかったんだけどなァ。けどなァ、おまえはやっちゃァいけないことをしたんだよォ。制裁は加えなくちゃだろォーがよ」
すると、ピクリとそれが動いた。チラは目をギョロっとさせ、
「おいおい、まだ息があんのかァ!?ひひっ、ひひっ……とっととくたばれよォー!!」
チラは死体撃ちといわんばかりに、横たわったそれを鉄球でなぶりまくる。
「弱者がしゃしゃるな!動くなァ、俺の勝ちだろォーが!死ね!死ね!死ねェーー!」
チラは目を真っ赤にしながらただ、それを殴る。そして、チラは攻撃を止め、
「はは、これで派手に死ねたなァ。ひでェ顔だァ。しゃしゃるからこうなるんだよ」
チラは血で真っ赤になったそれを見るなり、息を吐きながら振り向き、反対方向に歩き始める。
すると、背後からガサガサと、物音がした。
なんだろう。風の音か。動物か。それとも……
「ァ?」
そうチラがまたもや振り向いた瞬間、
チラの顔が体ごと吹っ飛んだ。
今度こそチラは、その一撃にに意識を刈り取られてしまう。
そして、その攻撃をした張本人はーーー
「おい、誰が死んだって?」
そこには鮮明な赤で顔を染めた荒木田康介が冷たい笑みを浮かべていたのだった。
ここまで読んでくれてありがとうございます(泣)
次回は9月29と30の日が変わった頃らへんに更新します
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