第4話 盗賊の一幕
王国の外れの山の奥、康介とシャーロットが森の大通りに向かう中、ある一人の男が茂みの中を進んでいた。先程、康介から、逃げ切った男である。
向かうは彼の盗賊団のアジト。
男は腹から血を流しながら、10分近く歩いていた。
危険をおかしながらもこの男は歩くのをやめなかった。
最初、追手をまくために敢えて遠回りをして草の茂った険しい道を通ったため、せっかく止血をしたのに傷口が再び開いてしまった。
止血に使えそうな布がもうない今、急がなくてはアジトにつく前に貧血で倒れてしまうかもしれない。
いち早く、報告を……
森の小鳥たちもその男の歩みをただ見守る。
彼が運命を変える一つのパーツになるとは知らずに。
そしてこの男を見守る小鳥達の内の一羽は他とは違う異様な雰囲気を纏っていた。
(異世界転生物きたーーー!?)
もう、そう考えるざる得ない。
康介も異世界転生などのことは漫画やアニメでちらっとしか見たことしかない為、詳しいことは言えないが、気が付いたら知らない場所にいて、木から剣士の少女が落ちてきたなどということが起こった時点で、ここが元の世界じゃないと気がついてもおかしくなかったのかもしれない。
「いや、服はそのまま死んだって感覚も記憶もない。これは転生ってより転移?それはさておき、普通、異世界の森に転移したら最初はスライムみたいな雑魚敵が出てくるみたいなチュートリアルイベントがお決まりなんじゃないのかよ。山賊がチュートリアルなんて聞いたことねえぞ。そのせいでこっちは死にかけたんだが!?しかも、それならそこで能力解禁みたいなイベント発生してもおかしくないだろ……」
ここでまだ能力が使えないとなると、この先強制イベントで能力覚醒なんていうのがきて欲しい感じだ。
それが起こるまではシャーロットにこの世界のことを聞きながら大通りに向かうとしよう。
「ところで、シャーロットはどうしてこんな山奥にいるんだ?服装からしてここに住んでる原住民ってわけじゃないだろうし……」
「そのネタはさっき聞いたわ。というか私が言ったわ。パクらないで。寒いわ」
「思いのほか反応が辛辣だな、おい!」
そんなに言うかというくらい辛辣な返しをするシャーロットだが、実際シャーロットはなぜこの山にいるのだろう。シャーロットの服装は山の原住民ってよりかは、冒険者よりだ。
シャーロットの服装は白いワンピース?ドレス?(女性の服には疎いため分からない)
腰にはベルトのようなものををしていて、上半身には簡易的な甲冑のようなものをつけている。
そして、質問を地味にスルーしているシャーロットはというと、何か考え込んでいる様子だったが、ふと顔を上げて口を開き始めた。
「……そうね、私は旅の途中にこの山の盗賊団に大切なものを奪われてしまって、今はそれを取り返すためにここに来たというところね」
旅をしているということはシャーロットはやはりこの出身ではなく旅人となる。
いや、旅から帰ってきた山の原住民という可能性がまだなくはないが……
「いやもうこのノリは飽きたからやめるとして、その大切なものってなんだ?今すぐなきゃまずいもんじゃないのか?」
「私が盗まれたのは1本の剣よ。私の愛剣……」
「剣なら腰に刺してるじゃないか」
「私が剣を一本しか持ってないなんていつ言ったかしら。勿論これは予備の剣よ」
「盗まれた剣ってのは、大事なもんなんだよな……?」
「ええ……そうね」
「おいおい、大丈夫なのか?俺の案内なんかしてる暇ないんじゃ……いや、してて欲しいんだけど、いやいや、そんなことはどうでも良くて!もうとっくに売りさばかれたりしてるなんてことは……」
もし、その愛剣が今すぐ取り返さなきゃならないものなら康介の道案内をする時間なんてないはずだ。
というか、まず愛剣ならば今すぐにでも取り返したいものだろう。
「その点では心配しないで。猶予がないわけではない。奴らが盗品を売る時期は決まってる。まだその時じゃないわ。それにあなたとさっき捕まえた盗賊たちには眠りからさめた後、何とかアジトまでの道のりをはかせるつもりだから気にしないで大丈夫よ」
「ま、別にいいけどよ。けど、さっきの戦いっぷり見たらどうにかなりそうだなって思うぜ」
「ん、何の話?」
「あ、悪い悪い。シャーロットならきっと盗賊から無事愛剣を取り返せるだろうって話だよ」
彼女はこれから盗賊たちと一戦交えるわけだが、康介はどうか無事でいてほしいと願う。
なんせ、シャーロットは康介の命の恩人なのだから。
だからと言って、康介は愛剣を取り返すのを手伝うつもりはない。
それはシャーロットの物語。その物語に康介が首を突っ込むべきではない。
というか、たとえ康介がその戦いに参戦したとしても完全にシャーロットの足手まといとなるだけだ。
ということで、シャーロットとはここでお別れということになる。
「で、あとどれくらいで着くんだ?ほかにもいろいろ聞きたいことがあるんだが……」
図々しくも、聞いてもいいか?と続けようとすると、
「もう少しよ。あと5分もしないで着く。それまでになら何でも聞くわよ」
と答えてくれた。
ありがたい話だ。康介はこの世界の何もかもを知らない。それこそ知ってるのは盗賊の有無くらいだ。
だから、ここでシャーロットにいろいろ教えてもらえるのはとても嬉しい。
「えーっと、俺はこの国に来るのが初めてなんだ。だから、この国についてまず教えてほしい」
ちょうどその頃、森の奥深く、盗賊のアジトでは1人の男が今起こっている異変に気づき始めていた。
彼は盗賊団のボスの側近であり、盗賊団の小隊を統括することのできる立場に置かれている。
この盗賊団には、ボスの下にいくつかの小隊をまとめる隊長が3人いて、彼はそのうちの1人。ちなみに隊長の下には各小隊のリーダー的存在な小隊長がいる。
彼の名前はギミン・ミアック。彼は元はこの盗賊団に襲われて、盗賊団で働くことを条件に生かしてもらっていた身だった。それが、掃除係から団員へ、団員から小隊長、そしてついには隊長へと成り上がった。
別に彼は盗賊になりたいわけではなかった。しかし、裏切ればボスに殺される。
そのため彼は死なない為に働いていただけだったのだが、その働きぶりと彼の持つ固有の能力が評価されたのかいつのまにか出世しまくっていたのだ。
隊長と言ってもギミンの役割はほぼボスの世話係りだ。まあ自分は戦いができるわけではないので最前線で戦うよりはマシだが。
今回、彼は一つの小隊の帰りが遅いことを報告しにボスのいるアジトの地下室へとやってきていた。
地下室へと続く階段の前にに立っている1人の見張りはギミンを見て道を開ける。
「ご苦労様です」
「ああ、おつかれ」
そのまま階段を降りて行き、地下室に着く。ギミンが扉を3度叩いてから扉を開けると、そこにはソファに座ったボスの姿があった。
「ガレット様少しよろしいでしょうか?」
ガレットと呼ばれた男はその問いには応じず、一本の剣を触わりまじまじと見たりしながらソファの上にどんと座っている。
「えっとー、ガレット様?」
こう言われてもガレットはギミンを気にかけることなく剣をみて不気味ににやけた。
「おい見ろ、ギミン。この剣引っ張っても叩いても鞘が抜けやしねえ」
ガレットはまたもやギミンの問いには答えず、不意に話をはじめる。
ここで話を無視してトラブルを報告をしてもボスの機嫌を損ねるだけだろうと考え、ギミンはまずガレットの話を聞くことにした。
「その剣は確か旅人の女から奪ったものですか」
「ああ、極上の品だ。こいつを売るには惜しい」
「気に入られているのですか?」
「あ?そういう話じゃねぇよ」
ならばどんな話なのかギミンは考えるが、答えは浮かばない。
「んまあ、こいつを見ろよ」
ガレットはそう言うと、お尋ねものと書かれた紙をギミンに見せつけた。それを少し読みギミンはガレットの言葉に納得する。
「なるほど、たしかにこれは、売らない方が儲け物ですね」
「シャーロット・ベル・メディアン。お尋ねものだ。生捕にすりゃあ高い金が入る」
「その紙によると、シャーロット・ベル・メディアンはボスが今持っているその剣を所持している、と。なるほど、それを餌にその娘を誘き寄せると言うことですね」
それを聞きガレットはにやける。
「しかし、どのようにしてシャーロットを誘き寄せるのですか?やつがこのアジトを知っているとは思えませんが」
「はっ、だろうな。だが、そうならそうで、方法がある……それよりギミン、お前は何か用事があってここに来たんじゃないのか。違うか?」
「あっ」
そこでギミンは自分がここにきた本当の理由を思い出す。ガレットと話しているとどうしても彼のペースに持ってかれてしまい、本来の目的を見失いがちになってしまう。
こういうところが、ガレットのカリスマ性を物語ってもいるのだが。
「えっと、実は私の小部隊の一部が帰ってきていなくてですね....」
すると、ギミンがガレットの様子を伺いながらそう話し始めたその時、急に扉がバタンと開いた。
先程ギミンに挨拶をした警備と、腹を抱えて険しい表情を浮かべる男だった。
「すみません、この男がどうしてもと…なにやら、急用のようでして…」
そう言った地下室の見張りの男の隣でひとりの男が支えられてやっと立っている状態だ。
「おい、そいつ腹から血が…まず止血をしてから来ないか!今すぐ止血を…」
ギミンは男2人に駆け寄り、自分の服を破り男の腹に押し付けながら巻いた。
「で、どうしたんだ、タラ?」
ガレットにタラと呼ばれた男は止血をされながらも息を吸いながらゆっくりと話し始めた。
「私たち、部隊、は、一人の女を前に全滅。私以外の者は捕縛、されていると、思われます」
「へぇ、女か。面白え。その傷を見るに剣士か?その女の特徴は?詳しく教えろ」
「はい……白いワンピース。それに甲冑のようなものを着た格好の、金髪の……」
「ははっ!ビンゴだ!!」
ガレットは場違いにもそう叫ぶ。
「……申し訳、ありません、俺、たちが、もっと警戒、していれば」
「わかった。もう話さなくていい」
ギミンはそう言って、タラの止血を終える。
「それでその剣士というのは……」
「十中八九シャーロットだろうよ。まあ、誰にしろ運が悪い。この俺の部下に手を出したんだ。是が非でも役に立ってもらわなくちゃな」
「しかし、彼の言う通りになるとシャーロットは捕縛した団員からアジトの場所を聞き出すでしょう。ここは、シャーロットがアジトに来るのを待ち万全な準備を……」
「いいや……今からシャーロットの居場所へ向かうぞ」
「しかし……」
「おい、ギミン……俺は今なんて言った?俺がそうすると言ったらそうしろ」
「……申し訳ございません。了解しました」
「しかも、捕まった仲間はどうする?仲間の回収が先だ。シャーロットに拷問されて殺される寸前かもしれねえだろ?仲間は大切だろ?それに、タラがシャーロットに会ったなら手っ取り早い。今すぐ出発だ」
すると、そこで、今まで固唾を飲んで話を見守り続けていた警備が思わずつぶやく。
「し、しかし、そのシャーロットという女の居場所は?」
それを聞いたガレットは少し興奮したような口ぶりで目を見開いた。
「はは、お前ら下っ端は知らなかったっけな?ギミンの魔術を使うんだ。なんの取り柄も無さそうなこいつだが、意外に優秀なんだよ!ギミン、できるな?」
「わかりました。やってみます」
ギミンはひとつだけ他の人の持たない特別な魔術を使える。それは『履歴追跡』と言って、目の前にいる対象がここ最近出会った人のいる位置を追跡できるという能力である。
ここで、ギミンはタラの行動履歴を覗き、シャーロットという女の特徴に該当する人物を探す。そして…
「よし、いた。えー、今シャーロットは大通りの方に向かっていると思われます」
「ここから歩いて30分ってとこか……よし、出発だ。ギミン、お前の隊から2部隊用意しろ。俺も行く」
そのガレットの言葉にギミンは驚く。
「ガレット様も行くのですか?」
「なんだぁ、不満か?はは、こんな派手な用事久しぶりだからな。腕がなるぜ」
「……わかりました。それでは準備をしてきます」
そう言って、ギミンは地下室から出る。
ボスが直々に動く。ということはそれほど、これが大きな案件であるということ。
大きな案件には危険がつきもの。今までもそうだった。
(死ななきゃいいがな……)
そうして、ギミンは一抹の不安を心に抱きつつ作戦の実行に移るのであった。
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