第3話 降ってきたのは美少女
「ここは私に任せなさい」
こんなことを言って、微笑んだ小女は再び前を向きなおし周りを見渡した。
康介もその少女を見る。
腰のあたりまで伸びた美しい金髪、年は康介と同年代で、背丈は康介より頭半分低いくらいだろうか。
そして、その少女は腰に一本の剣をさしている。
少女は凛々しい横顔を康介に見せ、三度前を向く。そして、茫然として声も出ない康介達お構いなしに呟く。
「敵は5人。こっちはか弱い乙女と一つのボロ雑巾。状況は大体わかったわ」
「いや、何一つ分かってねえ!誰がボロ雑巾だ。俺はボロどころか傷一つついてないぞ、訂正しろ」
「あら、ごめんなさい。訂正する」
「ああ、助かるぜ」
「私がか弱い乙女だということは訂正するわ。自分でか弱いなんて言ったら、あなたに任せろなんて言った示しがつかないものね」
「いや、別にそこを訂正してほしいわけじゃないんだが!?」
拍子抜けだ。
急に何を言うかと思えば……そして、康介もツッコミをする羽目になるとは……
だが、そんな呑気なトークを盗賊たちが地元のおばあちゃんのごとく優しく見守ってくれるはずもなく……
「ふっ、獲物が1人増えた」
「しかも女。形も極上じゃねえか」
「容赦はしねえぞ!」
そして容赦なくピストルの引き金を引いた。
そこからはじき出された弾丸は女の足部をめがけて飛んでくる。
しかし、彼女はそれを予知していたかのように横に避け、そのまま一人の男に向かって駆け出した。
少女が向かってくる様子を見てその男は自分もピストルを構え直すが……
「遅いわ」
そう言い、少女は鞘を抜き、腰についた剣で男を切りつけた。
鮮明な血しぶきを上げ、切りつけられた男は倒れる。
少女と康介の会話が終わってからこの出来事が終わるまで約1秒。
流石に、この人間離れした早業を前に盗賊たちもかすかにひるんだ。
だが、その隙を彼女は見逃さない。
「……」
そのまま木を蹴り空中に身を投げ出したかと思えば、空中で剣を舞わせもう一人の男も剣で軽く斬り葬った。
一瞬にして、2人倒した。先ほどの康介の戦いがかわいく見えるほどの戦いっぷりだ。
少女は乱れた髪をかき分け、眼を鋭くし、倒れている男の首に剣を突きつけこう言う。
「まだこいつらは生きてる。仲間を殺されたくなかったらおとなしく武器を地面に置きなさい」
(人質か……)
人質は相手が大人数でも有効な手段だ。
だがそれは、相手からして人質になった人間が殺されてはならない理由があるときに限られる。それは例えば、仲間なので死んでほしくない、その人には何かしら生きている価値がある、なんてことだったりする。
それと、もう一つ。この人質という手段はあるもう一つのことが抜けていると、うまく機能しない。
そう……
「おい、女!そいつらは!」
康介は叫ぶ。だが、もう遅い。
盗賊の一人は躊躇なくピストルの引き金を引き、そこから弾き出された弾丸は少女の心臓に向かって飛んでいく。
盗賊たちは抵抗すれば仲間を殺すと言われた。
それにもかかわらず、盗賊は少女の心臓に向かってピストルを撃った。
奴らは人質の命、言い換えて仲間の命を捨てたということだろうか。
否、まず、前提としてここで盗賊が少女にたいして攻撃をしない理由がないのだ。
なぜなら、ここで言う通りに武器を捨てても、少女が、はい、さようならと立ち去る保証はない。
武器を捨てた瞬間、少女が剣を振りかざしてくる可能性だってある。
よって、ここで武器を捨てるなど言語道断。さらに少女が立ち止まった今、盗賊たちからしたら逆に少女を無力化できる好機。
これはただの喧嘩ではない。盗賊たちもそう考えれるほどの知能、というより勝負勘は持ち合わせてていたようだ。
それに比べ、少女は人質を取り、戦うことをさけてしまったがために、こうして盗賊との駆け引きに負けた。
康介がこの思考に至るまで約束0.5秒。気が付いたころには弾丸によって少女の胸からは血が噴き出し……
とはならなかった。
「本当、うんざりね」
そう言うと、少女は飛んできた弾丸の軌道を剣でそらしてみせる。
「へ?」
康介、本日2度目のつぶやき。
「戦う気って見て問題ないわね?」
そう言うと少女は倒れている男をもう一人の方に蹴り上げる。
「ぐへ?」
その蹴られた男にぶつかったもう一人の男は思はず声をこぼして、倒れた。
「あと2人」
女は止まることなく、先ほどピストルを撃った男ともう一人の男を、剣を横に大振りして2人一気に切り倒す。
そして、女は剣を一度振り、剣にについた血を落としてから腰の鞘にしまった。
しかし、安心したのも束の間、シャーロットの後ろには倒れながらピストルを構えた男が1人。
男を投げつけられ一時的に倒れていた男だ。
流石に人を投げつけられたくらいででダウンはしなかったらしい。
「っ!?」
女は一度しまった剣を再び引き抜こうとしたが、その前に男はピストルの引き金を引かんとする。
このままでは彼女は残党にピストルで撃ち抜かれてしまう!
「うおーーーー!」
そんな中、そう声を上げたのは先程少女にボロ雑巾と呼ばれた荒木田康介という男であった。
「俺のことも忘れんな、こら!!」
そうして、康介はピストルを構えた男の顔面を蹴り飛ばした。
少女は少し驚いた顔をして康介を見ると、抜こうとした剣から手を放し、
「ありがとう、えっと……」
するとその時、1人の男がガサガサと茂みの中に逃げて行った。最初に剣で切り付けられた奴だろうか。
本当に奴らは康介に休みというものを与えない。
「おい、待て!!おい女、俺はあいつを追いかける。あとここから少し奥にも3人道に倒れてるからよろしく。えーと、縄とか持ってるか?」
「ええ……一応持ってるわ」
「よし、頼んだぞ。きつーく縛っとけ!」
そうして康介は盗賊を追いかけ、茂みの中に入っていったのだった。
また、残された少女はぽつりとつぶやいた。
「なんか地味に後始末を押し付けられた……」
そして、その様子を木から覗いていた小鳥たちはどこかへ羽ばたいていったのだった。
茂みの奥は舗装もされてない山道なことだけあって、康介は前に進むのにてこずってしまい、結局、1人の盗賊を見失い、まんまと逃がしてしまった。
流石にこの山を縄張りにするだけあって、ここの盗賊は山道にも慣れているのだろう。
だが、逃げた盗賊も手負いだ。無理に動けば道の途中で死んでしまってもおかしくない。
そんなことを考えながら例の大木に着くと、女は男たちを拘束し終えたのか大木に寄りかかりながら、康介の帰りを待っていた。
「逃がしたのね?」
「ああ、悪かった。なんせ山道は慣れなくてな。簡単に逃げられちまった」
「いや、別に謝る必要はないわ。けど、山道に慣れてないって……その変わった格好、あなたどこ出身なの?この山の原住民とかでは無さそうね」
「盗賊と共同生活の原住民なんて御免だ。ああ、俺は東京都練馬区に住むごく普通の高校生。それが気が付いたらこんな山奥にいたってわけだ。そんな中あんな奴らに出会ってしまって。あんたが助けてくれなきゃ危なかったぜ、ありがとう(キリッ)」
ごく自然な流れでお礼を言い、出来る男感をだす康介。さらに、簡潔に自分の自己紹介まで済ませるとは……
というか、自分で自分の状況を話していると、だいぶファンタジーにありそうな状況だなと、康介は思う。
すると、少女は首を傾げたように、
「ときょうとねりまく?聞いたことないとこね。それより私の方こそありがとう。えっと、最後の残党に気づかなかったことはごめんなさい。それと──」
シャーロットは、一回咳払いをし、丸い目をできるだけ鋭くさせてこう言い放った。
「──私の名前はシャーロットよ。せめて、シャーロットと呼んでちょうだい。『あんた』だの『女』だのと呼び方には気を付けることね」
と、急に腰の剣を抜くそぶりを見せる。
「おいおい、待ってくれ。お前って、いやいやシャーロットってそんな短気キャラなのか?!けど、さっきの剣技を見た後だとマジで笑えないからやめてくれ!?」
康介は今度こそ少女、否シャーロットを名前で呼び、自分の主張を訴える。
だが、おそらく最後、凶暴に話を閉めたのは、彼女なりの照れ隠しだろう。
「私に任せろ」などと言っておきながら、康介に助けられたことに対する恥、そして康介にお礼を言うことの照れ隠し。
「お礼を言うのは俺の方だよ」
「そういえばあなた、気が付けばここにいたって言ってたわね……それはいつの話?」
「あ?ちょうどさっきだ。だからなるべくこんな物騒な森からは出ていきたいんだが....」
「そういうことだったら、ここから少し行ったところに大通りがあるわ。そこまで案内してあげる。そこに行けば、道に通る騎士団なんかに運賃なしで拾ってもらえるでしょうしね。それで王都なりどこにでも行くといいわ」
「ほ、本当か?」
それはうれしい。正直、こんな山奥じゃ整備された道もないと思っていたのでそれがあると聞けただけで大金星だ。
だが、盗賊もいる所に一般人はあまり通らないだろうから、誰かに拾って貰うにもどうするのかと思ったが、騎士団に拾ってもらえばいいというアドバイスには頷ける。
なるほど、騎士団なら盗賊がいる道でも通るか、と納得する康介だったが、
「いや、待て。騎士団ってなんだよ」
当然の疑問。
「ここは一応、王国の領地だから王国の騎士団ね。あ、騎士団っていうのは王国内の治安維持を目的に作られた騎士の団体のことよ」
「あー、そっちの騎士か!岸かと思ったぜ。大通りに岸があるから気をつけろって意味かと思ったぜ。理解ミスったわ、はーははは」
「変な人」
適当にも程があるごまかし方だが、康介の中には疑問が残る。
(なんだ、この地域には騎士団があるのか?しかも王国ってどういうことだ?)
(王国、騎士団、並外れた力の剣士のシャーロット、いやこの展開ってヒロインがピンチの俺(主人公)を助けるとかいうやつか?まて、もしかしてこれって....本当に……)
(異世界転生者きたーーーーーー!?)
さっきとは違い2度目は叫ばず、荒木田康介は心の中で大声を上げたのだった。




