第5話 説得せよ!
ローズの口からこぼれた一言に康介は顔をしかめる。
「テメェみたいなクソガキが結界を?」
「はっ、別に信じるも信じないのも勝手よ。それより、早くここから出ていってくれないかしら?」
「あのね、私達、少しでもあなた達の力になりたいの。気分を悪させちゃったならごめんなさい。ことが済んだらすぐ出ていくから、ね?」
「だから、冒険者の世話になることなんかないって言ってんのよ。冒険者は冒険者らしく冒険だけしときなさいっての」
康介達に対して強気な態度をやめないローズという少女。その様子にバスは
「ローズ、いい加減にしなさい」
「なに、バスお父さん?あたしが一人で森に行くのが心配なんだったら杞憂よ。あたし強いの。こんな奴らの手を借りる必要がない程度にはね」
「そんなことを言ってるんじゃない」
「は、じゃあ何?」
いかにもうざったそうな顔を見せてバスのことを睨むローズ。
しかし、娘からの鋭い視線を受けながらもバスはまっすぐとローズのことを見て、
「コウスケ殿達は命の恩人なんだ。その口の利き方を改めろと言ってるんだ」
「は?謝罪ならさっきしました。聞いてなかったわけ?」
「あんなもの謝罪じゃない。現に今態度が変わってないじゃないか」
「暴論ー。意味わかんない」
ぴりつく空気を感じ取りシャーロットは慌てて、2人の間に入る。
「い、いいんですよ、私達は全然気にしてませんし、コウスケはもともと怒り癖のようなものがありますし、私達は本当に気にしてないので」
「ベル殿、心遣いありがとうございます」
バスはシャーロットに頭を下げた後、ローズに向き直り、
「謝りなさいローズ。そんなことも出来ないなら、お前がこの家を出ていけ」
「はあ?あたしの家よ!」
「謝れば済む話だ」
「じゃあ、なに?謝ったら、この人たちは出てってくれるのかしら?」
「いい加減にしろ!」
その瞬間、部屋中に怒号が轟く。その衝撃に康介とシャーロットとファルはびくっと体を震わせた。
そうして、バスはゆっくりと息を吐きローズのことをまっすぐと見やった。
「私はお前の気持ちもわかってやってるつもりだ。いつでも力になりたいとも思っている。だがな、それが命の恩人に失礼を働くことならば、話は違う。私にこれ以上恥をかかせないでくれ……」
「……」
ローズは足を揺さぶりながら目をつむって腕を組む。そして、すぐに目を開けて、
「あーそう。わかったわよ。出てってやるわこんな家」
ローズはそう言うとドンッと扉をして、部屋から飛び出ていった。騒ぎ立てていたローズが急にいなくなったことにより辺りには沈黙が広がり、嵐が去った安堵と気まずい雰囲気が入り混じる。
「あ、バスさん……」
「申し訳ございません!!」
「え、え??」
何を言ったかと思うと、急にバスは頭を床にまで下げ、
「見苦しいところをお見せしました。うちの馬鹿が本当に、ご迷惑をおかけしてしまいーー」
「いえいえ、私達は大丈夫です。私達こそ申し訳ないです。ここにお邪魔しなければローズさんを怒らせることもなかったのに」
「っ!是非が夕食をと言ったのは私でございます。すべての責任は私に……」
「あー、やめてくれ。辛気臭い。悪いのはあの小娘だろーが。バスさんが謝ったら、こっちまで申し訳なくなっちまうよ」
お互いペコペコと謝りあうバスとシャーロットだったが、康介は呆れたように息を吐く。
「それより、バスさん。ローズが結界を張れる魔術師っていうのは本当なんだな」
「はい……ローズはミクレ殿以外に村で結界を張ることができる唯一の者なのです」
そのことを確認し、正直、めんどくさい、と康介は感じた。一番良いのはローズと康介たちが協力して結界を貼り直すこと。
「つってもそれはできそうにねえ」
あのローズの態度を見るに康介たちと協力しようなんて気はゼロだろう。
「ーーまあ、別に、あいつが一人で全部やってくれんなら、あいつのいう通り俺らにやることはないんだよな」
どんなにローズが大口を叩いて、康介たちを罵倒しようと、ローズが一人で結界をはり、何事もなくことが済むなら、問題ない。
「そのことについてなのですが……」
すると、康介の言葉に皆が納得している中、バスが申し訳なさそうに話し始める。
康介達3人は顔をあげ、それぞれバスの方を見やった。
「あいつ……ローズはああは言っていましたが、結界を張るのにはミクレ殿ですら2時間ほどかかるのです。ローズはまだ、半人前。ローズがやればさらに時間がかかるかもしれません」
「なるほど……さらに、結界を貼っている者はそれに集中しなくてはならない。その間に魔獣に襲われることだって……」
バスはシャーロットの言葉に頷き、下を見る。
空気は静かになり、バスはその相槌に続く言葉を喉の奥にしまいかける。
すると、
「要するに、バスさんはローズさんが1人で森に行くのを止めて欲しいってことですね」
バスが飲み込みかけた言葉を代弁するファル。
それを受けバスは軽く頷き申し訳なさそうな顔をしながら答えた。
「ええ、全てはベル殿とファル殿が仰った通りでございます……」
すると、バスは頭を深々と下げて、
「生意気なやつですが、あれでも大切なわたしの娘なのです。差し出がましいことを言っているのは承知です。私に十分なお礼ができるかはわかりません。それでも、どうか娘を…‥結界を貼ってる間、ローズを守ってくれないでしょうか」
バスの全身全霊の迫真のお願いに一同は唾を飲み込む。その後、しばらくの沈黙が流れるかと思われたが、
「……ああ、いいぜ」
その返事はあっけなく、返事をしたのが余りにも意外な人物で、バスはびっくりした様子で二つ返事をした康介を見つめた。
「一度首突っ込んじまったんだ。困ってる人たち見捨ててどうするって話よ」
「コ、コウスケ殿……」
「別にバスさんに頼まれなくても、やることはやる予定だったぜ。結界張ってもその結界の中に魔獣が残ってるんじゃ意味ねえだろ。そいつらを全員片付けなきゃいけねえことぐらいは考えてたしな」
「とてもかっこいい台詞ですけど、それ一番弱いコウスケさんが言っても説得力あんまないですね」
「うるせえ!話の腰を折るな、てめえは!」
「けど、バスさんのお願いには答えたいっていうのはコウスケさんと同じです」
「私もよ。ローズさんも一人じゃ心配だものね」
「皆さん……ありがとうございます」
バスは感動した顔をしながら、感謝を伝える。
感謝されすぎて、居心地悪そうに目を逸らしながら康介はつぶやいた。
「しかも、俺もまだあいつには話したいことがあるしな。このまま、出てけって言われて、はいわかりましたなんてごめんだ」
「もう、根に持ちすぎよ」
「そんなんじゃねえ。俺はただあいつに馬鹿野郎って言ってやりてえだけだ」
「根に持ってるじゃない……」
いまだに不機嫌そうな康介を横目にシャーロットは呆れたように呟く。
しかし、そのシャーロットの言葉には反応せず、康介は何かを考えこんだ様子をみせていた。
「まあ、明日からはとりあえずローズさんにバレないようこっそりと見守るしかなさそうですね」
「ローズさんが仲良く私たちと協力してくれるといいんだけど……」
「それは期待薄ってもんだろ」
康介の一言に3人は苦笑いし、その言葉に同感するような空気が流れた。
こうして、意見はまとまり一区切りついたところで、康介たち三人は寝室に招待された。
シャーロットとファルの寝息が聞こえる。
今思えば、この異世界に来て、康介はまだ一回も落ち着いて寝ることができていなかった。気絶は何回もしていたが。
それだというのに、康介はすぐに寝付くことはなく、一人天井を見上げた。
(イラつく野郎だぜ、全く)




