第4話 結界を張れる者
康介とシャーロットの勝負は僅差で康介の勝ち。が、バスのご馳走は勿論、肉だけでは終わらない。
「どうぞ、畑で取れた野菜を使ったスープです」
「サラダです!」
「豚肉の……」
(割愛)
こうして、康介達はお腹いっぱいになったのであった。
「今日は本当にありがとうございました」
食事が終わり、康介達がテーブルを囲んでいると、バスは改めて康介達に頭を下げた。
「このようなご馳走ごときでお礼ができるとは思ってはいません。しかし、少しでも冒険者様の力になれたのなら幸いです。どうぞ、今日はゆっくりしていって下さい」
「いえいえ、こちらこそお礼を言いたいです。美味しいご馳走ありがとうございました」
シャーロットは、かしこまるバスに対してにこりと笑った。
「ちょっといいか?」
すると、咳払いをしてそう言った康介に他の3人の注目は集まった。康介はそれを確認した後、
「話をしよう、この村のこれからに関係のある話だ」
その場にいる全員の顔を見てそう言ったのだった。
「話……そうね。私も話したいことがあるわ」
康介の言葉に頷いたシャーロットを横目に、康介は話し始めた。
「俺らは確かにバスさんを助けたかもしれない。それで、バスさんが無事村に帰って来れたのもめでたいんだが、だからって根本の問題が万事解決したって訳じゃ……」
「……結界が壊れている、という状況は変わっていないものね」
と、シャーロットは図らずとも康介の言葉を遮るようにつぶやいた。
「あ、ああ、その通りだ!」
「森の結界が壊れているせいで、普段村人が立ち入る区域にも魔獣が発生してしまっているというのが今の状況。このまま放っておいても、村人が村の外に出るということが出来なくなる」
「お、おう!」
「流石にこのまま生活する訳にはいかないものね。何故、そんなことが起こったのかの原因追及とこれからの対策を練る必要があるわ」
「は、はい、その通りです」
「コウスケさん、折角、話仕切り始めたのに、秒でシャーロットさんに主導権を握られてますね」
「余計なこと言うな、ちょっと思ったけどさ」
「ドンマイです」
「つうか、そんなどうでもいいことで話を逸らすな。大事な話なんだから」
「ごめんなさーい」
「よし、シャーロット、続きを」
「え、いや、コウスケも考えてることがあるなら言って欲しいわね」
そう言ってからかうように笑うシャーロット。
「ん?どうしたんです、コウスケさん?黙りこくって?」
「遠慮しないでいいわよ」
「……俺の言いたいことは全部シャーロットが言ってくれました」
康介は肩を上げ背中を丸めこむ。
シャーロットはそれ以上康介を責めることはなく、
「まあ、いいわ。それで、今話してたことは……なんで結界は壊れたのか。ということね」
「劣化?っていうか時間の立ちすぎで壊れたなんて可能性もあるのか?」
そう疑問をなげかけると、バスが答える。
「いや、それはないはずです。私たちが森に結界を張り直したのはつい5年前ほどですし」
「じゃあ、魔獣が壊した?」
「いえ、それもないんじゃないですか?聞いたことないですよ、魔獣除けの結界を自力で解ける魔獣なんて……それこそ上級以上の魔獣ですよ。そんな荒業ができるのは」
ありえないと小声で付け加えるファル。そこでふと、康介はファルの言葉の中に気になる単語があり、
「上級……魔獣にもランクがあるのか」
「はい。下から初級魔獣、中級魔獣、上級魔獣。ちなみに先程戦った黒狼は初級魔獣です」
「そういった階級は、魔術師や聖騎士にも使われてるのよ」
「なるほど……初級」
どうりでファルもシャーロットもバンバンと黒狼を討伐でき、康介もなんとか対抗できたということだ。
「いや、待て。だとすると、下級と互角の俺ってだいぶ弱くね?」
「いや、まあ…………………そんなことは、ないと……………そうですね……」
「頑張ってもフォローしきれないのやめろ!」
だが、そんなの康介からしたらどうでもいい話である。康介の強みは死なないこと。そして、打たれれば打たれるほど強くなること。
「その点、狼たちは相性が悪かったんだ。仕方ねえ。あいつらは数が多かったからな。俺が強くなる前に体力を消耗させられちまった。そういえば、俺の能力には体力の回復の追加オプションは付いてないのか」
「もー、そんなことより本題に戻りましょ。結界が壊れた原因は今はわからないわ。けど、自然に壊れたわけでもない。魔獣の仕業とも考えにくい。人の仕業って可能性も……」
「も、もしかして村の誰かがやったと言いたいんですか?な、なんのために」
すると、今まで黙って3人の話を聞いていたバスが口を挟んだ。
「そうとは言わないわ。外部の人間の可能性もある。まあ、もう原因についてはこれ以上わかりそうにないわね。となれば今重要なのはそこじゃない。ひとまず、対策を講じなきゃね」
「ああ、シャーロットの言う通りだ。大切なのは早く結界をはりなおしたほうがいいってことだ。バスさん、そもそも魔獣除けの結界って誰が張ってくれたんだ?」
「結界を張ったのは村にいる魔術師のミクレ・マチアという方です。彼女なら結界を張りなおすことも容易いでしょうが……」
そう言うと途端に黙りこくるバス。
「何か……問題でも?」
「ええ、彼女はご高齢でして、それでも今までは問題はなかったのですが、最近倒れてしまったのを境にあまり体調が良くなく、ベッドで寝たきりになってしまっているのです」
「それもまたタイミングの悪い……」
「そのため、ミクレ殿が今結界を張るのは難しいかと。それどころか……」
言葉を止め俯くバス。そんな彼の様子を前に康介は目を閉じ、
「……その婆さんの病状が良くなるとも限らないってことだな」
その言葉にバスはゆっくりと頷き、
「ええ、先程も言いましたが、彼女はご高齢。いつ神からの迎えが来てもおかしくない……」
もちろん、それはミクレという魔術師が死んでしまうことを指す。
そうしたら、この村には結界を張りなおす人はいなくなり、生活を行うことが困難になるだろう。
「そうだ!ファルは?ファルならこの村の結界を……」
「ごめんなさい、ワタシ結界術は使えなくて……」
期待を込めた康介の言葉はファルのその答えによってかき消されてしまった。そうして、その場で4人は黙りこくってしまったのだった。
「あー!くそ!」
その一瞬の静寂に耐えきれなくなった康介は頭を掻きむしりながら叫んだ。
「困ったわね」
「……バスさん、この村に結界が張れる人はそのミクレさんだけなのか?他に結界術を使える人がいれば……」
そう。これはそのミクレという魔術師以外にも結界が張れる人がいればすぐに解決する問題である。
しかし、これまでのバスの態度や焦りようから推測するに、残念ながらそれに該当する人間は……
「えっとー、それはいるんです」
「へ?」
気の抜けたような声を発する康介。
驚いたのは彼だけではない。シャーロットとファルもそのバスの言葉に対し一瞬何を言われたか理解できなかったようだ。
その中、シャーロットはいち早く気を取り直し、
「……ってことは、その人にも何かしら問題がある、ってことでいいわね?」
シャーロットが落ち着いた表情でそう問いかける。すると、バスは微かに頷きつつ、
「ええ、問題というかこれは……」
バスが何かを言おうとしたその時だった。部屋の扉がバンッと大きな音を立てて開き……
「ちょっと、誰よ?あんた達」
康介達は咄嗟にその声がした部屋の扉の方に振り返る。
そこにいたのは見たところ15歳くらいの少女であった。背は低めで華奢な体型。そして、腰あたりまで降ろしている燃えるような真っ赤な髪の毛が特徴的である。
と、康介がその少女をまじまじと見ていると……
「何じろじろ見てんのよ」
と、少女は康介に向けて軽蔑するような眼差しを向けてくる。普段ならこのような態度を人から取られれば激昂する康介だが、今この場ではそうはならない。
急に現れた少女。
そう。今、康介の頭は完全にショートしてしまっているのである。
「ローズ!失礼な態度は良さんか!」
「え、えっとー、バスさん、この子は……?」
「娘のローズです。娘のご無礼お許し下さい。こいつは生意気なところがございまして……」
「いえ……」
康介はそう言われて、呆気に取られたようにローズという少女を見る。ローズは未だ康介達のことを警戒心剥き出しで睨んでいる。
「えっとー、まず、自己紹介かな。俺の名前は荒木田康介。ちょうどここら辺通った冒険者ってとこかな」
康介はどうすればいいかわからず、とりあえず自己紹介をするが……
「……でててって」
「え?」
「でてけって言ってるの。聞こえなかった?」
そう言われて驚いて声も出ない3人。それに追い討ちをかけるかのように、ローズは更に口を開き、
「家が騒がしいと思ったら、まさか、余所者がうちに入り込んでるなんてね。ここにあんた達冒険者の居場所なんてないの、わかるかしら?」
「ローズ!!」
すごい勢いで捲したてるローズを見て、耐えきれなくなったバスは大きな声を上げる。
「何?あたしが何かおかしなこと言った?そもそも冒険者を家に招き入れるバス爺も悪いわよ」
「っ!?……ただの冒険者ではない!この方たちは私の命の恩人だ!説明が足りてなかったのはすまなかった。怒るのも無理はない……だが言いすぎだ!コウスケ殿、申し訳ございません」
「い、いえ、いいんですよ。子供の癇癪や挑発を受け流してやるのも我々大人の役目というものでしょうから」
そう笑い飛ばす康介の姿にバスは申し訳なさそうに肩をすくめ、
「ありがとうございます。ほら、ローズ、謝りなさい」
「はい、はい。ごめんなさい。えーっと、アラなんとか、さん?」
「あ・ら・き・だ・こ・う・す・け、だ。人の名前ぐらい一発で覚えた方がいい。世の中で痛い目にあうぜ」
「ごめんなさいね。あたし、長ったらしい害虫の名前を覚える趣味はありませんので」
「あ?誰が害虫だって?」
「コウスケさん!ストーップ!!ストップ!!」
顔を鬼のようにして、今にもローズに飛びかかろうとしている康介を、必死で止めようとするファルとシャーロット。
「子供の挑発とかなんたらって、あなた言ったばっかよ!そんな怒ることでもないでしょ、年下相手にみっともない」
「ちっ、わかったよ。てめぇ、次、俺を怒らせたらただじゃおかねえからな」
「やだー、怖い怖い。これだから冒険者は」
そうして、ローズはわざとらしく身を震わせてみせた後、
「明日中には荷物をまとめて出ていきなさい。そうじゃなきゃ、あたしも強硬手段に入るわ。あー、そうそう。話を聞いてたところだとあなた達、結界がどうたらとか言ってたみたいだけど、あなた達がそんなことする必要はないわ」
そう得意げに言って、手でしっしっと康介達を追い払うかのような仕草をする。
「結界を貼り直す必要がないって?何言ってんだ、おまえ」
「そんなこと言ってないわよ。結界なら、私がはりなおすって言ってるの」
「「は?」」
康介達3人はそう声をそろえる。
「だから、結界術を使えるのなんて私ぐらいなんだから、あんたら余所者は首突っ込んでこないで!」
3人はその言葉に顔を見合わせ、この問題が一筋縄ではいかなそうなことを再確認したのであった。




