第3話 クロス村
馬車での一悶着を終え、康介達3人が入った村の名前はクロス村といい、比較的小さな村だった。
村には大きな広場があり、それを中心として放射状に通りが伸びている。そして、それに沿うようにして石と木で作られた家が並んでいた。さらにその周りには畑が広がっている。
また、村の周りには堀と柵が設置されていて、村への入口は一つの大きな門だけだった。
康介達も馬車を降りたあと、そこから村に入ってきたのである。
「最初の村にしちゃ、まあまあ発展してるって感じだな」
この村を見た最初の印象はこんなところ。
バスの話では、この村はあまり大きな村ではないが自給自足と住民同士の協力で生活が成り立っているらしい。大それたことはできないが、康介達にお礼として色々もてなしがしたいとのことだ。
「これから、村長の住む家に案内します。村長もご挨拶したいことでしょう」
「村長っていうと、ここでクエストとか依頼してくる感じか」
「あなたはさっきから何を言っているの?」
「悪い悪い。関係ない話だ」
シャーロットに不審な目で見られつつ、康介は笑いながら答える。
この世界が異世界である以上、康介自身も、元の世界で描かれていた「異世界ファンタジー」のイメージと実際のこの世界を比べてしまう。しかし、この世界が康介が見てきたファンタジー通りにいかないのは盗賊との交戦で体験済み。それでも、
(魔獣とか、村なんて聞くと、どうしてもな)
しかし、そんな事情はシャーロットとファルなどには理解しかねるだろうから、あまり乱発するのには注意が必要である。
なんてことを考えていると、案内役として3人の前を歩いていたバスが立ち止まり、こちらを振り向いた。
「ここです」
バスがそう示した先には、周りの家より一回り大きな建物があった。
「これが……」
「ええ、村長のいらっしゃる場所にございます。さあ、お入りください」
そう手招きされ康介たちもその建物の中に入る。
そして、少し中を進むと年配の男性がソファに座っているのが見えた。
すると、その男性は康介達とバスに気付き、
「バスか。それと、周りの者達は旅人、いや冒険者達かね?」
「ええ、この方達は私の命の恩人でございまして、是非村長にもご紹介させていただきたく、ご案内しました」
バスが畏まった敬語で話す人物。その人物は視線を康介たちに移してにこやかに笑った。
「それはそれは。私はクロス村の村長、エキと申します。この度はこの村へ足を運んでいただき誠にありがとうございます。あなた方の名を聞いてもよろしいでしょうか」
「もちろん、俺の名前は荒木田康介。えっーと、よろしくお願いします!」
「私はシャー……いえ、ベル……と申します」
「ワタシはファルです!」
そう3人がそれぞれぎこちない自己紹介をかますと、村長エキはまたにこりと笑って、バスに向かい直した。
「命の恩人ということじゃが、何かが起こったのか詳しく教えてくれるかね」
「ええ。何から説明すべきか……そうですね、どうやら森にある魔獣避けの結界がこわれてしまったようでして……」
何と説明すべきか少し口籠るバス。その様子を見てエキは目を瞑って口を開く。
「それで、お前が襲われそうになったところをこの方々に助けてもらった。そんなところかな?」
最後まで話す前にエキがそう言い当てたため、バスは頷く。
流石、年長者。とその推理力に康介は密かに関心する。
「命を助けてもらうだけでなく、命がけで私をこの村まで送ってくださったのです」
「それはそれは、バスがお世話になりました」
「い、いえ。困ってる時はお互い様ですし」
「なんとお礼をしたものか」
そう言うとエキは上を見上げるようにして考え込んだ。康介は別にお礼なんていらないと思っているのだが、それを伝えようとしたところバスが先に口を開き、
「そこで私からなのですが、是非この方々を私の家に招待したいと思いまして。とは言っても大層な家ではないのですが、3人が十分に寝泊まりするスペースはございますし、それと、どうしても私自身感謝を伝えたく……」
「それは良い提案じゃが、大丈夫なのかね?」
「えっとー……ああ、そこは私からなんとか」
「私からはとやかく言わぬが失礼だけは避けなされ」
「も、勿論でございます」
こうして、康介達がボーッとしている間に話は進んでいく。と、ここで康介の腹からグーと、気の抜けた音が鳴った。
「あ、はは……そういや俺昨日から少ししか食事してねえんだ」
「そういうことでしたら、是非!是非私の家にいらして下さい。ご馳走を用意いたします!」
「あ、ありがとうございます」
「とんでもございません」
そうして、康介達は勢いに負ける形でバスの家にお世話になることになったのである。
_________________________________________
「う、うめぇーー!!」
テーブルの上にドンと置いてある骨つき肉を頬張りそう声を上げた康介。
そう。今、康介達3人はバスの家でご馳走をいただいている。まず出てきたのはパン。いい意味で素朴な味がしてとても美味しかった。
そして、今食べているこの骨付き肉はまさに絶品。
現代の食事で舌が肥えているはずの康介ですら唸る程の旨さである。
しかし、ファルは肉を食べる康介とテーブルの上の肉を交互に見ていて、中々肉を食べようとしない。
「どうした、ファル?どんどん食っていいんだぜ」
康介は肉を口いっぱいに含みながらそう言った。
「何様ですか……それ絶対コウスケさんが言うことじゃないでしょ。ホストが言うことですよ」
そうツッコミだけは忘れずにするものの、中々肉は食べようとしないファル。
康介はその様子を疑問に思うが……
「あ、バスさん。この肉って鶏肉ですか?」
「ええ。そうですが」
この瞬間、康介はファルが鶏肉を食べない理由を完全に理解する。
そう。鳥の精霊であるファルが鶏肉を食べない理由を。
もう、多くは語らない……
「まあ、嫌なら無理して食わなくていいさ」
「だから、それもホストのセリフでは……」
「ファルちゃんは鶏肉嫌いなの?」
しかし、まだファルが鶏肉を食べない理由を理解できていない人が1人。
そう聞かれ、ファルは困ったような顔で、
「い、いや、嫌いというか、体が受け付けないっていうか……その性質的に、いや本能的にっていうか?えっとー、種族的にですかね……?」
「へー、まあ好き嫌いは人それぞれよね」
この返事を見るに、どうやらシャーロットには最後まで理解できなかったらしい。
これ以上この話をするのも不毛だと思い、康介は新たな話題を振ってみる。
「シャーロットは肉とか好きか?」
「ええ。好きだけど……それが何か?」
「いや特に何も」
そして、一瞬にして会話が終了し、何故か辺りが静まりかえる。
「……なんだこのおじさんが話した後、必ず白けるみたいな空気は?」
「何よそれ」
そう呆れたように笑うシャーロットだが、少し息を入れると、
「肉といえば、懐かしいわね……」
そう、遠くを見ながら本当に懐かしそうな顔をしながら言った。
どうやら、シャーロットは康介の意味のない話題を拾ってくれたらしい。
ここは、ありがたく便乗させてもらおう。
「何かあったのか?」
「ん。出来事とかじゃないんだけど、私の母は自由な人でね。森に出かけては、鳥型魔獣を狩ってきて、よくみんなでそれを食べてたなぁって、思い出しちゃって」
「へーそっか……てか魔獣って食えるのか?」
「ええ。魔力がのってて美味しいわよ」
康介は魔獣を食べるということに内心ギョッと思いながら、シャーロットのことを見つめる。
シャーロットは話しながら骨つき肉にかぶりついていているが、康介が同じことをしたら間違いなく行儀が悪いと親に怒られるところ。
しかし、シャーロットがやると、何故か、それがまた品を感じさせる。不思議なものである。
そして、シャーロットはその肉を食べ終わり、骨だけになったそれを自分のお皿にいれた。
康介はふとその“骨が山盛り”のお皿を見る。
「?……え、え、え??」
「どうかしたの?」
「いや、どうかしたのじゃねぇ!食べ過ぎだろ!何個骨あんだよ!」
康介は思わずそう叫んだ。
そこには康介の皿よりも多い骨の残骸が溜まっている。
しかし、シャーロットはケロッとした様子で首を傾げたままだ。
「え、別にいいじゃない」
「男の俺より食ってんのはおかしいだろ!腹どうなってんだよ!太るぞ!!」
「ふ、太るって……」
すると、シャーロットも頬を赤くし声を荒げた。
「に、肉好きなのよ!今さっき言ったじゃない!」
「それ言うなら俺だって好きだ!好きだからって食べすぎちゃったてへぺろなんて済まされるレベルじゃないだろ!」
見たところシャーロットの皿にある骨の数は推定12本。元々大皿にあった肉が30本ほどで、今は15本ほど残っている。よって、2人が今まで食べた肉の合計は15本。そのうちの半分以上を、否、それどころか8割をシャーロットが食べたということになる。
「明らかに食べすぎだ!」
「あなたがファルちゃんと話してばっかいたからでしょ!?私はその間黙々と食べてただけよ!」
「黙々と食ってんじゃん!?」
康介は立ち上がり、両手に肉を持ってそうシャーロットに向かって叫ぶ。
「わかった。じゃああとは俺が残りの15本中12本を食べる。お前は手を出すな!」
「いやよ。せめて、あなたは残り15本のうち半分の7本にして!これだけは譲れない」
「いや、譲れよ!しかも、ちなみに15本中7本って半分以下だからな?15わる2で7余り1だからな?!何平等ぶってしれっと余りの1本貰おうとしてんだよ!?」
すると、シャーロットも負けじと立ち上がり、康介に向かって叫んだ。
「こうなったら早いもの勝負よ。この世界では強き者が生き残るの。それを教えてあげる」
「いや、ふざけんなもう少し交渉を、って待て!何もう食べ始めてんだ!」
「2人とも、子供すぎです……」
ファルは呆れながらそう呟くが、この言葉が2人に届くことはなく……2人はしばらく張り合うように肉を食べ続けたのであった。




