第20話 『最後の野獣』ガレット・バロウ
地下室には、魔石の爆発音が轟き、その瞬間部屋は光に包まれる。
光が落ち着き、しばらく沈黙が続いた。
ガレットは壁に打ちつけられ、壁には窪みができている。
そんな中、荒木田康介は地べたに横になっていた。
右腕が痛い。
(痛え……熱い……)
腕が取れたかと思い、見てみると、流石にそこまでは大丈夫らしい。ちゃんと右腕はついていた。
そして、朦朧とした意識であった康介は、霞から抜けたかのように現実世界に引き戻されていく。
「お、俺は……」
康介はその場を立ち上がろうとするが、頭がクラッとし、康介はその場でよろけてしまう。
「コウスケさん!!」
そんな康介にファルは駆け寄って、上体を抱え込んだ。彼女はその小さな体で康介が倒れないように支える。
「わ、悪い」
康介は再び立ち上がり周りを見渡した。
すると、そこにはもうすっかり馴染みができてしまった地下室と……そして、壁にはさっきまで嫌というほど関わってきていた男が倒れ込んでいた。
「終わった……のか?」
「はい、完全に気を失っているようです」
永遠に続くと思われたその戦いは康介の拳をもって、終焉を迎えた。ガレットという男が最後に何か焦っていたおかげで、なんとか勝つことができた。
「やっと……」
「終わったぞぉーーー!!!」
そして、康介がそんなことを振り返っていると、ファルともう1人ー金髪の髪を靡かせその少女は康介の目の前に立った。
「シャーロット……」
康介はその少女の名前を呼ぶ。
今回のイベント(?)の中心人物である彼女が、康介にどんな言葉をかけるのか。
「えっと……なんだ?」
しかし、シャーロットは何かを発しようとはせずにただ康介を見つめた。
その様子に康介の頬は赤まる。
美少女に見つめられたら、どうしても意識してしまうものだろう。
そこで、康介はシャーロットを見つめ返すことはせずにチラチラと彼女を見た。綺麗に整った顔、その瞳からは相手を魅了する不思議な力が放たれているようだった。
そんなことを考えていると、チラ見のはずがいつのまにか康介は彼女を見つめ返していた。
そして……
「……ありがとう」
「……」
声が聞こえた。どっから聞こえたのだろうか。
康介には一瞬なにが起こったのか理解できなかった。
「え?」
「なに?そんな呆然と私を見て」
「え、今、な、なんて言った?」
「そんな呆然と私を……」
「違う、その前!」
こんなお決まりの会話を交わし、2人は顔を見合わせる。
「そんな……何度も言うことじゃないわよ」
「いや、本当に聞いてなかったんだ。もう一度だけ」
「……だ、だから……助けてくれて……ありがと。って、言ったの」
そんな風に少し目を逸らしながら答えたシャーロットに、康介のハートは少し揺れ動く。
不良生活を送っていた康介。そして、それをやめた後も1日で会話する女性なんて志保と母親ぐらいなものだった。
(志保のことは女として見てたってわけじゃねえしよぉ)
そんな康介に女の子の耐性が備わっているわけがなかった。さらに、美少女のシャーロットに正面から礼を言われて、照れないわけがない。
「……いや、こちらこそ……色々と……その……グヘッ!!」
しどろもどろに口を動かす康介。
すると、突然頭の後ろに衝撃が走る。見ると、そこには、腕を振り下ろしたファルがいた。
「なんで叩くんだよ!!」
康介はその行動をした本人であるファルにそう抗議する。
「なんか見ててイライラしました」
「理不尽だぁ……」
その理不尽としか言いようのないファルからの制裁に康介は項垂れる。しかし、ファルは悪びれた様子もなく腕を組んだ。
「この程度で理不尽なんて、これまでのコウスケさんの状況を見てよく言いますよ……」
たしかに、そうだ。康介の今の状況を説明するなら、正しく理不尽としか言えない。
異世界に来たかと思ったら、盗賊に襲われ、以下中略。そして、今強すぎた盗賊のボスをなんとか撃破したのだ。
普通じゃありえないことが起こりすぎだ。
だが、康介は運がいい方なのだろう。こんなにもいい人たちに出会えて、今こうして生きているのだから。
そして、シャーロットを助けるという目的もひとまず果たすこともできた。
それでは、一つの目的を無くした康介は、一体これからどうすればいいのだろう。
特に行くところも決まってはいない。
「まあ、とりあえずここから出るか、こんな湿気臭いとかもう抜けたいしな。それと、シャーロットはこれからどうしようとか決まってたりするのか?」
「え、私?特には……決めてはないけど……」
「指名手配中らしいな。色々聞きたいことはある。だけど、その前にこれからどうするか聞きたい。これから一人で、逃走生活を続けるのか、とかだ。まあ、それとも……もしよければ……」
何か手伝えることはないか。なんて虫のいい話だろう。
だが、康介はその一言をダメ元でも言ってみようと思って口を動かす。
否、口を動かそうとしたのだった。
「こんなのは、どうだ?」
「?!!」
その絶望は不意に訪れた。
聞き覚えのある声。そして、その声の持ち主はついさっきまで壁に倒れ込んでいたはずの……
「そう。ここで仲良く死んで逃亡生活に終止符を。なんてぇのは……どうだ?」
「っ!!ガ、ガレット……」
すると、康介の背後にはガレットが立っていて、康介は大きく吹っ飛ばされた。
「あぁ、痛ぇ!!よくもやってくれたなぁ!おいおい、俺倒した気で、その後の話とか、お気楽じゃぁねえかぁ??ああ?」
「し、しまった……」
しかし、もう遅い。ガレットの魔の手にはファルとシャーロットが。しかも、シャーロットは今剣が手元にない。
このままでは2人ともガレットに殺されてしまう。
「ヴェント!!」
そんななか、ファルはいち早くガレットに攻撃を浴びせるが、しかし、
「おせぇよ」
「!?」
ガレットは風の刃を腕で受け流し、否、相殺しファルを力ずくでぶん殴った。
「ファル!!うぉーー!」
康介は叫び声をあげガレットに突っ込み、パンチを食らわせる。
「シャーロット!!ファル連れて、逃げろ!ここは俺がやる」
が、しかし、そんなことを言った康介を嘲笑うかのように、ガレットの攻撃は康介をシャーロットのすぐ足元まで吹き飛ばした。
「初めてだぜ……ここまで俺をイラつかせたのは……この力はなるべく使いたくはなかったんだが、仕方ねぇ……感謝しろーーー」
呆然と立ち尽くすシャーロット、そして、倒れ込む康介とファルを前にガレットは破れかかった自分の服を破り捨てる。
「ガァ……グガァ……ガァァァ!!!」
すると、ガレットは3メートルはあるその巨体を、更に膨れ上がらせていく。
「ま、また巨大化か……」
「……いいや……ぢがう」
そう言うと、ガレットの全身が黄色い体毛に覆われ始めた。そして、顔は変形し、大きく開けたその口からは牙が煌めく。
「こ、これは……まさか……」
それを見て、驚くシャーロット。その様子を見て、満足げな顔をして目の前の黄色い野獣は笑った。
「あぁ、気づいたか?お前らの負けだ」
「な、なんだこれ……」
康介も目の前のガレットの姿を見て、そう声を漏らす。
無理もない。目の前のガレットはまるで今までとは違う何かへと変わっていったのだから。
それに対して、シャーロットは口を開く。
「獣人……しかも、途中で人型から変身したってことは、ハーフ。しかも、その体の大きさ……まさか……」
「ああ、そのまさかだ」
「お、おい、まさかってなんだよ!?」
「かつて王国と帝国の国境付近に存在した伝説の三大種族の一つ……巨獣族……その種族が王国側につくか、帝国側につくか、それによって隣国戦争の勝敗を分けるとまで言われた……」
「かつて……ってぇのは?」
「巨獣族は王国側に着くことを決めた。それによって帝国に潰されたのよ」
「その話は……あんまり好きじゃねぇなぁ」
すると、シャーロットの目の前にガレットが迫り来る。ガレットはその野獣の腕を振り上げ、シャーロットを吹き飛ばした。
「剣がなきゃ……ただの雑魚だな」
「シャーロット!うぉーー!!」
それを見た康介は、激昂し、ガレットに突っ込んでいく。
「無駄、だ」
しかし、ガレットはそれを避けようとも受け止めようともせずに、ただ、その場で立っている。
「舐めんなぁー!!」
ゴキ
「は?」
鳴り響く絶望の音。
それは、変な方向に曲がった康介の右腕からのものだった。
ガレットのあまりに強靭すぎる肉体を前に、康介のパンチでは、びくともしない。むしろ、康介の腕をへし折ってしまった。
「おいおい、俺はなんもしてねえぞ。つまんねえから、自滅だけはしてくれんなよっ」
そして、そう言ったガレットから放たれた拳は康介の上半身を横から叩きつける。
「がぁ!!」
康介はそのまま吹っ飛び、壁にもの凄い勢いで激突する。
「お前にもう興味も恐怖も感じはしねえ!俺はただ目の前のもんを排除するだけだ……」
「さっきの爆発で倒せねえって、しかも、この威力……くそが……化け物かよ、お前……」
「いいや、褒めてやる……この姿を誰かに見せるのはお前が3回目だ……てめえみてえな雑魚がここまでさせるとは。……お前のことは後でじっくり殺してやる、だから、それまでそこで寝てろ」
そう言ったガレットの巨体は康介の意識を刈り取る強烈な一撃をお見舞いする。
「後は、お前ら女どもだ」
そうして、ガレットはシャーロットとファルに視線を向けた。
どうしてこんなことになってしまったのだろうか。
出せる全力を尽くし、康介はガレットに抗った。
不死身のスキルを駆使し、ファルの協力を借りて、これでも駄目だったのだろうか。
「いいや……」
違う。まだ終わってはいない。
ここで諦めてどうする。荒木田康介の力は
こんなものじゃないだろう。
「おい……かかってこいや。俺はまだ、負けてねえぞ」
諦める様子のない康介を見て、ガレットは驚いて呆れたように笑う。
しかし、それは決して無駄なことをする康介に対し嘲笑をしているわけではなかった。
むしろ、本気で感心したのだ。
それは、自分より強い相手に立ち向かうことの難しさを、ガレットが誰よりもわかっているからこそだった。
(そうか、俺はお前みたいに……)
まるで、何かを懐かしむような感覚が含まれているような表情をして、ガレットは今までで1番の笑みを浮かべ、康介に向かって行った。
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少年ガレット・バロウは巨人と獣人が入り混じる。そんな村に住んでいた。兄と両親の4人家族。
しかし、その幸せな生活はいつまでも続くわけはなかった。
ある日、とある種族が村を襲った。
長い髪と耳を持つ種族だった。彼らはその圧倒的な武術で巨人と獣人、そのハーフを圧倒した。
両親は死んだ。
あまりにも呆気なかった。両親は村の中では戦闘能力があるほうだったが、相手の武装集団に対しては足元にも及ばなかった。
その時、ガレット・バロウはなにもできなかった。
自分より強い両親を殺した相手に、彼が勝てるわけがないのだから、それは当たり前だった。
いや、「なにもできなかった」のではない。
「何もしなかった」のだ。
結果論でいえば、それは賢明な判断だったのだろう。
なにも抵抗しなかった彼は殺されることはなかったのだから。
ただその地獄の光景を見ているだけですんだのだから。
「お、お父さん……ぉ母さん……」
「巨人と獣人の混じりもんのガキかい……帝国じゃ珍しい。一匹くらい連れ帰っても問題ないじゃろ」
白い髪の老人……両親を息をするかのように殺した悪魔がそう気まぐれに言い放ったのだ。
その日から、ガレット・バロウは奴隷となった。
帝国の労働力として使われ、毎日、重労働を強いられる毎日。
いつでも頭をよぎった。
あの時、少しでも抵抗をしていたら、自分は生きていなかっただろう。抵抗しなかったからこそ、敵の気まぐれで今自分は生きている。
しかし、それでよかったのか。と
種族の誇りをかけて戦い、散っていた村の巨人や獣人達。その姿は決して誰かにあざ笑われるものではなかったのだ。
では、何もしなかったおかげでこうして生きている自分はどうなのか……
答えは決まっていた。
あの日から十年立った。18歳の時。
忘れもしない、この寒い冬の日のことを。
帝国の報告書にはこう記してある。
奴隷の労働施設「アルバロス」において、そこに勤務する従業員52人、奴隷156人が殺害された。犯人は未だ不明。しかし、そこに生き残った奴隷の証言によると、黄色い巨大な野獣がそこにいた。
と。
怒りに任せて、気に食わない全ての人間を殺した。
その怒りは家族を、仲間を失った怒りなのか。
あの時何もできなかった自分への怒りなのか。
それとも、そんなことを全てを、いつの日からか、しょうがないと受け入れようとしていた自分への怒りなのか……
しかし、そんなことはわからなかったし、どうでもよかった。
その日は息も凍てつく寒い日だったが、身体中に付いた返り血のおかげで暖かかった。
大きな満月が、孤高に夜空に浮かんでいた。
その月に向かって、ガレット・バロウはただ叫ぶ。
何かを壊しても、何も得ることのできない。
そんな怒りが夜空に響き渡る。
これが、後に『最後の野獣』と言われる「化け物」の誕生だった。
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(だ、駄目だ……こいつどんどんパワーが上がって……)
「ウガァーーー!!」
その咆哮と共に繰り出されるガレットの攻撃に、康介はなすすべがない。
「ガァーー!!」
それでもガレットは止まらない。ガレットの鋭い爪が康介の胸を抉った。
まずい……シャーロットは剣を持っていないのでまず何もできない。そして、ファルはここに来る前に一戦交えてきたようだし、その後シャーロットを回復させるのに魔力を使ったので、ガレットに勝つことは難しいだろう。
このままでは全滅してしまう。
最初からこうするしかなかったのかもしれない。
「ファル、シャーロットと逃げろ!!」
「え?な、何言ってるんですか?コウスケさんは……」
「言ったよな……自分の身が危険になったら俺にかまわず逃げろって」
すきを見て、ファルにそう訴える康介だったが、すぐさまガレットに吹き飛ばされる。
(ワ、ワタシは……!)
逃げろと言われたファルだが、依然そんなことはせずに立ち上がり、
「シャーロットさん、あなたは逃げてください」
「え?なにを……」
しかし、シャーロットはそう聞き返した時にはファルは前に飛び出していた。
「フォルテ、ヴェントーー!!!」
その叫びを聞き、ガレットは目を見開き振り返るが、放たれた刃はすでにガレットの目の前に迫ってきていて……
「っ!?」
ガレットはその刃をかぎ爪でかき消す。そして、それによって生じた一瞬で康介はガレットから距離を取ったが、
「おい!何やってんだ!!早く逃げろ!このままじゃみんな死んじまうんだぞ!第一俺は死なねえんだ!こんなことしても」
「ワタシは……コウスケさんを見捨てるなんてことはできません!最後まで戦います!」
「馬鹿か!?俺ならこいつを食い止めれる。だから……」
そう言い、康介は再び立とうとする。
しかし、うまく立ち上がることができすその場でよろけてしまった。
(なんだ、これ……単純にスタミナが……)
「コウスケさんは限界です。そんな様子じゃワタシたちが逃げる時間も作れませんよ。ワタシがやらなくちゃ……」
「そんなこと俺は望んでねえ!頼むっ、逃げてくれ……」
「……そんなこと望んでなくても、ワタシはそうしたい。……言ってましたよね。コウスケさんも自分がそうしたいから、シャーロットさんを助けると。ワタシだって……あきらめたくないっ!」
そう言うとファルは覚悟を決めたように、手を前に出した。
「そよ風の次は、何する気だ?」
そう言い笑うガレットだったが、ファルは気にすることはなく、手の前に気弾をつくりだす。
(これで、ダメなら……もうあとはない。決めるんだ)
手の前の気弾は部屋中から風邪を集めエネルギーをためていく。
「いっけぇーーー!!!」
そして、その気弾は一気に放たれた。
気弾は通った道をゆがませながら、ガレット向かって飛んで行く。
「ほぉ。なかなかいい威力じゃねえか、だが……」
しかし、そうして放たれた気弾は虚しくもガレットに手のひらで受け止められ……
「玉遊びは、俺には柄にあわねえよ」
そう言うと、ガレットはその気弾を手のひらで握りつぶしてしまった。
「う、嘘……」
「前までの俺なら、吹っ飛ばされてたかもな。けど、悪いなぁ、俺は強くなりすぎちまったらしい」
そうして、ガレットはゆっくりとファルに近づいていく。しかし、魔力を完全に枯らしてしまったのかファルはそれに反撃をする様子もなく、ただ茫然と立ち尽くしていた。
「何、よそ見してんだぁ!!」
そこで、康介はガレットとファルの間に立ち、ガレットを静止させた。
「コウスケ……さん……」
「体が限界なんて、知ったことか……最後の最後まで諦めねえよ」
康介は今こうして立っていることで精一杯だった。
この能力、傷は治っても体力も無限に湧いてくるわけではないらしい。
もう、ガレットの攻撃に耐えることができないだろ
う。
「あばよ……悪くなかったぜ」
そうして、ガレットは容赦なく康介を殴り飛ばした。
その拍子で、康介は壁の棚に大きくぶつかり倒れ込んだ。
「ほら、お前もだ」
ガレットの魔の手はファルにも。
相手が少女の姿をしていてもそこに手加減という文字はなかった。
ファルは呻き声をあげながら、吹っ飛ぶ。
「さあ、残るはお前1人だ!シャーロット!」
「私……は……」
そうして、1人残った少女、シャーロットはその光景をただ呆然と見つめていた。
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