第17話 精霊vs魔術師
「え!?」
そうシャーロットは声を漏らす。
シャーロットは、今、目の前で起こっていることを理解できない。
そう、目の前には、ガレットの金棒を片手で受け止めた康介の姿があったのだった。
「な、何?」
そして、それに驚いたのはシャーロットだけではない。
康介に攻撃をした張本人であるガレットも今起こっていることが理解できていない様子だった。
ガレットは訳がわからない、と声を荒げる。
「お、お前!!」
「何焦ってんだ、お前?ただ、攻撃を止められただけで」
驚くガレットに対して康介は、笑いながらそう言う。
そして、ガレットがそれに答える間もなく、ガレットの懐に入り込み、パンチをくらわせた。
「がっ!?」
康介から一撃を受けたガレットは少し後退り、康介を睨んだ。
「お前……力を隠していたのか?」
「……いいや、俺はいつでも全力投球だ」
「っ!なにを!!てめえ、調子に乗ってんじゃねえぞ!!」
ガレットは康介に怒鳴りつける。
訳がわからない。
さっきまでは金棒の一撃で腕がボキボキに折れていただろうに。
何故、あの一撃を止めた?
何故、あの石の力もなしに、ここまでの威力のパンチを出せた?
それは、まるで戦いの中で強くなっているようで……
(いや、あれぐらいの一撃止められたところでなんの支障もない……あのパンチだって、さっきの石ほどの威力なんて全くなかった……)
そう心の中で、考えを巡らすガレットに対し、康介はというと……
(いやいや、なんだこれ?攻撃を、止めれた!?力がみなぎる!?)
とても驚いていた。
そう、正直、実際そのことに1番驚いているのは康介本人である。
康介は威勢よくガレットの攻撃に突っ込んだ訳だが、ダメ元で右手を突き出したのだ。
そして、ガレットの攻撃を受け止めた。
しかし、今ガレットはそんなこと気づいていない。ここは相手に、偶然だと悟られないように、
「お、おい、何黙ってんだ?俺が強くなったことがそんなに不思議か?」
黙って、考え込むガレットに康介はそう語りかけた。
すると、ガレットも康介のほうを向き直す。
「ああ、不思議だなぁ。それも異世界人の力だとか言うのか?あ?」
「知らねえよ。けど、だったらどうする?」
「ああ、そうか……」
ガレットは、頭の中で起きたことを整理できたのか、驚きから解放されたように余裕そうに笑う。
康介もその様子を見て、楽しそうに笑った。
「言ったろ。まだまだ、これからだって。第二ラウンド始めようか!」
「ヴェント!!」
「アクア!!」
魔術師と精霊。2人のはなった風と水のふたつの魔法が地下の廊下でぶつかり合う。
水は風に巻き込まれて、飛沫をあげる。
一方、風は水と衝突したことで勢いを失う。
すなわち、ふたつの力は打ち消しあった。
「やりますね、お嬢さん」
そうザッハは目の前の少女を賞賛するが……
「ヴェントラーマ!!」
ファルはそんなこと気にせずにザッハに強烈な風の刃を浴びせた。その攻撃は先程よりさらに強い力をもって、ザッハ目掛けて吹き込んでいく。
「アクアランチャ」
それに対してザッハは、手のひらを前にかざし、そう呟いた。
すると、ザッハの掌からは水で形作られた槍が吹き出す。
そして、風の刃と水の槍が直接ぶつかり、轟音を立てて爆発を起こした。
「威力は互角ですか……」
ファルはその様子を見て、爆風に吹き飛ばされないように踏ん張りながら、そう呟いた。
一方、ザッハは落ち着いた様子でそう言い放つ。
「ふっ、本当にやりますね、お嬢さん」
「あなたこそ……それでは、これはどうですか?」
「ウォルテヴェント!!」
ファルはザッハにすまし顔のザッハに手のひらを向けて、詠唱を放った。
すると、ファルの掌からは先程のヴェントとは比にならない威力の強風が噴き出て、空気をうねりながらザッハに向かっていく。
しかし、それを見てザッハも返す。
「アクアスクード」
ザッハが指を鳴らすと、再び地面から水が出てきて、その水はザッハの身体を包み込みこんだ。
水の壁はファルの繰り出した強烈な風からザッハの身を守り、その風が止むと自然に水も消えていった。
「ヴェントラーマ!!」
すると、水の壁が消えた瞬間、待ってましたとばかりにファルは空中に飛び上がり、大声で詠唱をする。そして、空から風の刃がノーガードのザッハ目掛けて飛んでいき……
「アクア」
しかし、ザッハは水を出し、その水圧で自身が移動をし、その刃を間一髪で避けた。
「まだまだです!!」
それでもファルは攻撃をやめずに風の刃を出し続ける。しかし、それをザッハは華麗にそれを避け、ファルに振り向き、
「アクアアーゴ」
すると、ザッハから鋭い水の弾丸のようなものが飛んできて、
「っく!?」
空中を飛んでいたため、ファルにはその弾丸を避けることができず、弾丸はファルの腕を貫通した。ファルは苦痛の声を漏らす。
地面に着地すると、ファルはザッハから一旦距離を取り、一息をつく。
(早く決めなくては、少々まずいかもしれないですね)
相手の、ザッハの戦闘スタイルを見たところ、ザッハは相手から攻めてくるのを待って、それをカウンターするというものだろう。
半端な攻撃をしても、あの水の壁に阻まれてしまう。
だからこそ、水の壁がなくなった瞬間を狙って渾身の一撃を浴びせたのだが、それもよけられてしまった。そのため、次からは相手もそれを警戒するだろうから、もう同じ手は使えない。
(それにしてもこうして魔術師と戦うのも久しぶりですから。腕がなまってしまってますね)
ファルはそう心の中でつぶやき、けがをした左腕を見る。
ファルは怪我をしていて、相手への突破口も見つけられてない。
さらに、ファルは急いで康介のところに向かいたいため、長期戦はいただけない。
(しかも、シャーロットさんの命の灯を見ても、かなりひどい怪我をしてることは間違いない。回復魔術ができるだけの余力も残したい……)
ファルは久しぶりの実戦、怪我、短期戦にしなくてはならないが魔力に余力を残さなくてはならない。
これらから見るに、今のところ、相手のほうが圧倒的に有利であることは間違いないだろう。
さらに、相手の魔術師、ザッハはなかなかの魔術師だ。
こちらの魔術を打ち消すほどの魔術を使えるし、機転だってある。
だが、それでも以前のファルならもっとうまく立ち回って、勝利をつかんでいたことだろう。
そして、それができていないのは、ファルが、戦うのが久しぶりだというのもあるのだが……
(そもそも、風属性の魔術は水属性と打ち消し合う関係にありますからね)
ファルの使う風属性の魔術とザッハの使う水属性の魔術はお互いに相殺し合うという関係がある。
そのため、ファルの攻撃は相手に通りにくいし、相手も同時にファルに攻撃を通しにくい。
これは、明らかに、ファルが危惧していた消耗戦になりそうな予感がするが……
「まあ、ちょうどいいハンデってやつですね」
属性上の関係から見ると長期戦になりそうで、ファルには不都合。
しかし、それに対しファルは相手に一瞬で勝つ方法を考えつく。
というより、ここまでダラダラと説明してきたが、ファルは相手が水属性の魔術を使い始めた時から一つの考えが浮かんでいた。
この不利をひっくり返す起死回生の策を。否、相手に有利と思わせ一気に刺す方法を。
「……ハンデ、とはどういう意味ですか」
すると、ファルのこぼした独り言に先ほどまで黙っていたザッハは反応する。
それに対し、ファルは俯いていた顔をあげザッハに向き直した。
「そのままの意味ですよ。状況的にワタシは不利。けど、それがちょうどいいハンデ」
「面白いことをおっしゃる。不利と判断したのなら尻尾を巻いて逃げても構わないのですよ」
「ふふっ、何を……」
確かに、逃げて康介のところに急ぐというのも考えなかったわけではない。しかし、それは明らかに悪手だ。
もしザッハから逃げ切れて地下室に行けたとしても、ザッハが仲間を集めて康介たちのいる地下室にやってきては、ここで戦闘を避けた意味がない。
だから、ここでザッハをやるべきなのだ。
「しかもワタシには策がありますしね」
「ほう?策……ブラフですかな?」
「いいえ?違いますよ」
「面白い。確かにその顔虚勢を張っているだけには見えませんな」
「見たいですか?私的にはもっとお話を楽しみたいという気持ちもあるのですが」
「ええ、是非とも。お話もその策とやらもどちらも──」
そうザッハが言いかけた瞬間だった。ザッハに鋭い風の刃が飛んできたのは。
不意の一撃。
ザッハはそれをよけようとしたがよけきれず、ザッハの腹はかすかに裂かれる。
「くっ!」
ザッハの服の腹の部分はかすかに血が滲み、ザッハはその様子を呆然と見る。
「やぶけ……」
「あら?お話しようと言ったことと攻撃をやめようということは違うことでしょうに」
ファルからそう言われ、ザッハは今起こったことを理解し、ギロッ、と目を見開きファルのことをにらんだ。
「貴様……人が話してるときに……!貴様ぁ!卑怯だぞ!!」
ザッハは先ほどまでの紳士ぶりが信じられないようにそう叫んだ。
ファルは一瞬驚きながらも悪っぽく笑う。
「卑怯?どの口が言うんです?盗賊さんに言われたくない言葉ランキング第1位ですね」
「なんだと、この小娘が!」
そう人の変わったようにザッハは再び叫ぶが、ファルはお構いなしに、またもや風の刃が繰り出す。
「ほい」
「まだ……!話してる途中だと言ってるだろ……!」
すると、そう言ったザッハの血走った目の前には水の壁が現れる。その水の壁は風の攻撃を、まるで飲み込むかのように消滅させた。
ファルには策の一つ、『詠唱なしの魔術を不意に打つという作戦』があったのだが、これは失敗に終わる。
「やりますね、もう同じ手は食らいませんか」
「策があるといって、やることがこれか!!情けない!!相当、勝ちに貪欲だなぁ!!」
「……そうですよ?ワタシは勝ちに強欲です。それが何か?それとも、そんなワタシに負けるあなたは情けないどころか、赤ちゃんからやり直すべきって言いたいんですか?」
「お前は俺を本気にさせた。子供だと思って手を抜いていたが、後で泣きわめいたって無駄だぞ」
「ええ、あなたこそ、負け惜しみも言えないくらい惨敗しないようにどうぞ頑張ってくださいね」
そうして、両者は同時に魔法を放ちあった。
お互い、詠唱をすることなく魔術を繰り出している。
(やはりこの人、思ったよりやれますね。詠唱なしまでできるとは)
詠唱なしでの魔術。精霊であるファルにはそれが当たり前のようにできるのだが、普通それは余程の魔術師でないとできない業だ。
その為、ザッハもなかなか魔術を極めた達人だと思われる。
そんな風に相手の実力をひそかに称賛するファルだが、
「まあ、だからと言って負ける気はありませんけどね」
そう言い、先ほどよりさらに鋭い刃を放った。
その刃はザッハめがけて飛んでいくが、それはザッハの放った水の槍とぶつかり消失する。
爆発が起こり、煙が舞い上がった。
「ははははは!!こんなものか、策っていうのはもう終わりか?ああ?」
そう煙の向こうのファルに、ザッハは呼びかける。
しかし、煙が薄くなってくると、そこにはファルの姿はなく……
「何!?」
かすかに霧のかかった廊下で、ザッハは慌てて周りを見渡すが、どこにもファルの姿はない。
「くそ!!どこに隠れた!逃げやがったか」
ザッハは獲物を逃した怒りで頭の中が真っ赤になる。
(あの小娘が尻尾巻いて逃げやがって。あそこまで言っていて、逃げるとは……)
「この腰抜けめ!」
ザッハは叫ぶ。その声はむなしく廊下中に響き、ストンと奥までとどいていくかのように思えた。
が、その時だった。
「その考えは早計ではありませんか?」
その声が聞こえたとたん、霧が一瞬にして晴れた。そして、ザッハが頭上を見るとそこには空中を飛んだファルの姿がある。
「逃げてませんよ」
「は……馬鹿正直に出てくるとはな。だが、空中じゃよけれまい!」
そういうとザッハは手のひらをファルにかざし、十数本もの水の槍を放った。
その槍たちは、ファルめがけて飛んでいく。
「どうする、風魔術じゃ防げないぞ!」
ザッハの言う通り、強風を出すにも風の刃を出すにも、槍の数が多すぎて対応しきれないだろう。
このままではファルはその槍に体をつき抜かれてしまう。
だが……
「甘いですよ……いつ私が風魔術しか使えないと言いましたか?」
ファルはそうつぶやくと、両手を前に突き出した。そして、何をするのかと思えば、両手からファルの身体を覆うほどの草のつるが発生し、盾のように水の槍を防いだのだった。
それを見て、ザッハは驚いたように顔を崩し、
「っ!?な、なぜ?お前、草属性……?!」
「とっておきは最後までとっておくものですよ。相手の意表がつける。それと……」
そして、ファルは草の盾でその槍を全て防ぎきり、両手から草の盾を消し、また続けた。
「上ばかり見てないで下、見てみてはいかがです?」
そう言われて、ザッハが自分の足元を見るとそこには、ザッハの太ももぐらいの太さのある木のつるがザッハの脚全体に絡みついている。
「な、何だ?!これ!!」
「それも草の魔術ですよ」
「なっ、いつの間にこんなものを……」
「薄い霧の中であなたが周りを見渡してる間、種を撒いたんですよ。あなた、足元なんて見てませんでしたから」
「っ!?」
ファルの言う通り、ファルは爆発の後に自身で霧を発生させ、小鳥の姿になってザッハの所まで超低空飛行をし、ザッハが周りを見渡してる間に足元に種を撒いた。
ザッハからしたら、ファルが小鳥になれることは知らないので、疑問は尽きないだろうが、今となってはどうでもいい話だ。
「さぁ、次で終わりにしますよ」
そう言い、ファルは右手を上げ、力を蓄える。ファルの右手には風が集まっていき、風でできたボールが完成した。
「ま、まずい」
それを見て、ザッハは自らの周りに水の壁を作り出そうとするが、足元で水を生成する際、足元に生えた木のつるによってそれは邪魔されてしまう。
「あなたのその水の壁が1番厄介だったので。それも封じさせてもらいました」
そう言い残しファルは、右手の気弾をはなとうとする。
「させるかぁーー!!」
しかし、それに対してザッハは力の全てを使い、巨大な水の弾丸を作り出した。
「私は……俺は、こんなところで終わるわけにはいかないんだぁーー!!」
そして、ザッハはそう叫ぶ。
「誓ったんだ!ガレット様と。このアジトは、私が守る。俺が……侵入者は俺が排除しなくちゃならないんだ!それがこんな小娘に、こんな小娘に負けてたまるかぁー!!」
そして、両者は同時にその気弾と水の弾丸を放ちあった。
二つの弾は空中でぶつかり合い、廊下の空気を震わせる。
見ると、水の弾丸のほうがファルの放った気弾より4倍ほど大きい。
しかし、気弾は水の弾丸を押していく。
「な、何故だ?何故、俺のほうが負ける……」
「この気弾には風属性だけでなく草属性も混ぜたんです。だから、水にだってなんなく打ち勝てる……」
「覚えておくことです、若造……有利属性を使う。赤子でも知ってる魔術の基礎ですよ……」
そして、遂に気弾は水の弾丸を破壊してザッハ目掛けて飛んでいった。
「あぁ、あぁーーー!!!お、俺は負けるわけには………」
ザッハはその叫びを最後に光に呑まれていく。
そうして、気弾はザッハに命中しザッハはその場から思いっきり吹き飛び壁に激突し……
ザッハは白目を剥き、完全にダウンしたのだった。
そんなザッハにファルは近づいていき……
「……負けられないのはワタシも同じです」
最後何かを叫んだザッハ。しかし、ファルにだって、勝たなくてはいけない理由がある。
「誰だって、何か理由があって、思いがあって、戦ってるんです。けど、その思いの強さで勝負は決まらない……」
ファルは目を瞑り少し笑うと、
「……ただ、その思いを力に変えたその時、人はまた強くなれるのかもしれませんね……」
そう言いファルはザッハに手をかざし、少しの体力を分け与えた。
「死んでしまわれても後味最悪なだけなので。それと最後、ワタシは小娘なんかじゃありません。100年は生きてますよ……」
こうして、精霊と魔術師の短き戦いは終結した。しかし、ファルはその勝利の余韻に浸ることもなく、すぐに振り返る。
ここで立ち止まっている暇はない。
そして、ファルは自分の腕の傷を止血しながら、走り出す。
「急がなくては……」
そう、ただ康介の元に急いだのだった。
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