第14話 『異世界人』アラキダ・コウスケ
「で、アジトに着いて、どうする?策はあるのか?」
「え?コウスケさんこそ何か考えがあるんじゃないんですか?」
無事盗賊のアジトに着いた康介とファルだったが、お互いの顔を見合わせる。
「お、俺が?だって、お前が、俺とファルならできるみたいなこと言ってたんじゃねえか」
康介は先程ファルが言った、
出来ますよ、ワタシとコウスケさんなら
みたいな趣旨の言葉を思い返す。
「ぇ、い、言いましたっけ?そ、そんな事」
「いや、もうどっちでも良い!!考えてなかったなら今考えよう」
そうして、コウスケは話を仕切り始める。
「えっと、ファルはこの森にいる奴の命?みたいなのがわかるんだよな?」
「はい、わかります。しっかりとこのアジトの中にシャーロットさんがいるのも感じられます。あと、他にも盗賊の皆さんが三十人ほどいますね」
「くっ、そうか……」
攻撃3倍の法則。
この言葉は攻めをする方は守りより3倍の戦力が必要という意味のもの。
それに基づくと、相手は30人ほどのためこちらは90人必要となるが、こちらの戦力は康介とファルで2人。あまりにも無謀な戦いである。
「だけど、手ならある」
一見不利に見える戦い。
しかし、実は攻撃側にしかない特権がある。
「俺たちが、すべきこと、それは……奇襲だ。俺たちは敵を殲滅することが目的じゃねえんだ。なら、一気にシャーロット助けて、一気に逃げる。余計なことはしねえ」
攻撃側が唯一有利な点。
それは、守り側は攻撃側が攻めるタイミングがわからないということ。
「そもそも、あいつらは俺が死んだと思ってやがるはずだ。誰かが攻めてくるなんて、そんな考え頭にも過んねえだろ」
康介はそうドヤ顔で言うが……
「そんなことわかってます。重要なのは、どう攻めるかだってことわかってます?」
「……ごめんなさい……きついよ!ファルさん怖いです。その顔怖い。ごめんごめん、すぐ考えるから……」
そこには冷たい顔で康介を見るファルがいた。
「もー、しょうがないですね。では、まず2人でアジトに入りましょう。見張りが2人ほどいますが、2人なら騒ぎを起こさずに大人しくさせられるでしょう。それからはワタシの能力が頼りです。盗賊さんに見つからないように、一気にシャーロットさんのところに向かいましょう」
「何だ、考えてたなら最初から言ってくれ。俺怒られる必要なかったじゃねえか」
「ちょっと試しました」
「勝手に人を試すな。それと、シャーロットのところに向かうまでが大分端折られてたきがするんだが……そんなうまくいくか?」
「忘れましたか?ワタシの能力で敵さんの位置をサーチします。そして、数を減らせる時はうまく戦闘不能にさせて、どこかに隠す。こんな感じでいいでどうです?」
「なるほど、んじゃ、それでやってみるか」
正直、不安要素は残るがやるしかないだろう。
「わかった。頼んだぞファル」
「いや、コウスケさんも頑張ってくださいね……」
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盗賊のアジトは木でできた屋敷のような見た目だ。しかし、大きさはそれほど大きくない。
そう、外観は。
盗賊のアジトには地下が存在する。
地下には少し複雑な通路が形成されており、そこに各盗賊達の寝床がある。
そして、その奥に階段があり、さらにその階段を下るとボスのいる地下室と言われる部屋があるのだ。
そんなアジトを守る、見張りの役割である盗賊達。
彼らは退屈な日々に不満をはいていた。
「はぁ、疲れたぜ」
「うるせえよ。黙って立ってろ」
「くそ、毎日こうやって扉の前に立って、何が楽しいんだよ」
「仕方ねえだろ。それが俺らの仕事なんだからよ」
「はあ、俺もなにか奪ったりするとかもっと盗賊らしいことがしたかったぜ。あーあ、ザッハ隊じゃなきゃなぁ」
「おい、誰かに聞かれたらどうする。しかも、俺たちがこうして生きてるのだって、ザッハさんのおかげだろ」
「そうだけどよぉ」
そのように2人が話していると、2人の前に一羽の小鳥がやってきた。
「おいおい、小鳥ちゃーん。なんのようだーい」
「こら、集中しろ」
その小鳥に注意を向けた男をもう一人の男が軽く叱る。
すると、その小鳥は1人の肩に乗った。
「はは、見ろよ。可愛いなあ」
男がそんな事を言って小鳥に顔を近づけると、小鳥も男の顔をまじまじと見る。
そして、
「ドルミーレ」
そう小鳥が呟き、男の鼻には粉が吹きかけられ……
「……ふぁ?」
そう言い、男は倒れ込んだ。
「おい、どう……」
そして、もう1人の男も瞬く間に倒れ込んでしまった。それから、その小鳥が後ろを振り向き合図を送ると、
「すげーな。こんな簡単に眠らせちまった」
そう感嘆しながら茂みから康介が出てきた。
「急ぎましょう。騒ぎが起きる前に」
そう小鳥の姿をしたファルは言う。
この作戦は、まずファルが見張りの気を引き、魔法で相手を眠らせる、といういたって単純なものである。
ちなみにファルのような精霊は普通に魔法が使えるらしい。そして、この世界では魔法のことを魔術と呼んでいる。
そんなことを康介はファルからさっき教えてもらった。
「わかった。急ごう!」
そして、2人は建物の中に入っていく。
「一旦、隠れて下さい」
ファルがそう言うと、影に隠れた康介達の横に1人の盗賊が通った。
その盗賊は康介達には気付いてないものの、そのまま入り口の方向に向かって歩いていく。
(まずい、このまま入り口に行かれたら、二人いなくなってることに気づかれる……)
康介がそう思い、その盗賊を後ろから不意打ちしようとすると、
「……ドルミーレ」
そう詠唱したファルが既にその盗賊を眠らせていた。
魔術とは、ここまで万能なのかだろうかと康介は感嘆を通り越して呆れたように苦笑いした。
ちなみに、康介はここに来てから何もしてない。
「……これ俺いる意味ないんじゃ……」
「何言ってるんですか。まだ、始まったばかりですよ?しかも、地下の方にも人がいっぱいいます。その人たちを抜けてシャーロットさんのところに行く。その後からが康介さんの出番です。ということでそれまでは直接的な戦闘は避け、ワタシの魔術で眠らせておくのが得策でしょう?」
確かに、その通りだ。
康介の仕事はシャーロットを助け出すこと。
この絶対に死なない能力を駆使して。
それまではファルが敵を引き寄せて、康介がシャーロットのいるところに向かう。
「地下への階段は3つあるようですね。1番近いところにいきましょう」
「思ったより盗賊少なくないか?さっきからあんま会ってないけど……」
「確かに、多くの人が地下に集まっています。けど、疑いすぎることはないです。誰にも会わないでシャーロットさんを助けれるのが1番の理想なんですから」
そして、2人は階段を降り、地下に到達する。
「ここからはワタシが2つに分裂して、一体が囮となり相手を引き寄せます。その間にコウスケさんとワタシは地下のずっと奥にある階段で下の階に。そこにシャーロットさんがいるはずです」
「ああ、分かった。え?分裂?今なんて?」
「ワタシは自分の身体を分割できるんです。その分それぞれの身体の体力や魔力量が減りますが」
そう言うと、ファルは2つに増え、一方が逆の通路に飛んで行く。
「それも魔術か?」
「はい」
やはり、魔術はなんでもできる。
だが、魔術だってそんな乱発できないはず。
それこそ今ファルが言った魔力量とかいうのに関係しているのだろう。
「そうか。だけど無理だけはするなよ。ファルに何かあったら大変だ……」
康介のシャーロットを助けたいというその気持ちを引き出してくれたファル。
そして、今もアジト侵入に大きく貢献してくれている。
しかし、ファルは今、善意で康介の手伝いをしてるだけ。
そんな彼女に迷惑はかけたくない。
いや、かけられない。
「もう、ファルは俺のために十分してくれてる。どうして、なんでそんなしてくれるのか理由もわからない。だけど、ファルが危なくなったら俺のことは気にせずに逃げてくれよな」
今、そんなこと言うべきではないのかもしれない。
だけど、それでも康介はファルに生きて欲しい。ここで、ファルが死んでしまったりなんかしたら、
今度こそ康介は立ち直れなくなるだろう。
それを聞き、ファルは小鳥の姿から少女の姿に戻って、
「分かってますよ。流石にワタシも死にそうになったらその場から逃げます。だけど、出来る限りコウスケさんの協力がしたいです」
その答えを聞き康介は、ずっと思っていた疑問を投げかけた。
「なんで……なんでお前はそんな俺に優しくしてくれるんだよ?」
一瞬、沈黙がひろがる。
聞こえるのは、康介とファルの走る足音だけ。
「コウスケさん。何か勘違いしてませんか?」
すると、ファルはその沈黙を破るようにそう言ったのだった。
「え?」
「シャーロットさんやコウスケさんが初めて会った人でも構わず命をはって助けてようとしている。それを見て、ワタシもコウスケさんを……困ってる人を助けたいって、そう思っただけです。別にコウスケさんに優しくしようとしてこんなことしてるわけではないですから。それと……」
「……コウスケさんが、今ワタシがこうやってやってることに関して、迷惑なんじゃないかとか思ってるなら、そういうの逆に迷惑です」
「ぁ……」
ああ、そうか、そういうことだったのか。
心の中にずっとあったモヤ。
それの正体はコウスケがまだ心のどこかでファルに迷惑をかけてるんじゃないかと、そう思ってしまっていたもので……
だけど、違った。
ファルは、康介が迷惑だなんてそんなこと思ってない。
ファルはまた康介を肯定した。
そう。ファルはまた康介に間違いを気づかせてくれて……
康介の心の霧が晴れた気がした。
「俺、何勘違いしてたんだろうな」
「そうですよ、ほんと」
「自分を信じる為には、その前に人を信じなくちゃならないんだな。ごめん……俺はファルを信用してるよ」
「なんか、それ恥ずかしいですね……」
ファルは少し笑いながらそう言った。
自分はそう思ってないのに、相手が、自分に迷惑をかけているのではないかと勝手に思われるのは、自分が信用されてないみたいで何か嫌な気持ちはわかる。
康介は、人を信じなくちゃならなかったのだ。人を信じて、お互い頑張ろうって言い合って。
そう。行き詰まったら誰かに頼ってもいい。
「ファル……ありがとな。やっぱ、お前は俺の最高のカウンセラーだよ」
「なんですか、そのあんまり欲しくない称号は……けど、そう言ってもらえて嬉しいです」
そうファルも照れながらそう答えた。
すると、その瞬間、ファルは目を見開き、足を止める。
「っ!?どうやら、もう1人のワタシがヘマをしてしまったようですね。ということで、ここのワタシはあっちのワタシの所に行かなくちゃみたいです。あの目の前に見える階段がそうです。シャーロットさんがいる場所です。一人で行けますか?」
「あ、ああ、わかった。いける。えっと、あの……頑張れよ、ファル」
そう言われてファルは少し驚きながらも笑った。
「頑張ります。だから……また、後で会いましょう」
そう言って、ファルは目を閉じるが、
「あっ!そうだ」
ファルは思い出したかようにポケットから石のようなものを取り出した。
「これを渡そうと思って」
「えっと、なんだこれ?」
「この石の中には森中のエネルギーの一部が溜め込まれています。えっと使い方は、相手にかざしてドーンです」
「………………なるほど、大体わかった」
「いざという時に切り札として使って下さい。それでは、コウスケさん……リベンジ絶対成功させて下さいね。それで、また後で会いましょう」
「ああ」
そう言うと、ファルの身体は遂に消え、ファルの残像がどこかに飛んでいった。
そして、1人残された康介は地下室は続く階段を降っていく。
一歩踏み出すごとに空気が重くなり、緊張感が増していくようだ。
康介の中ではシャーロットに迷惑をかけたあの事がかすかに頭によぎり……
「馬鹿野郎。迷惑になる前提で行動をして何になる?誰かを助けたいという気持ちを大切にしろ」
そう。ファルに託された。
だから、今はそれを実行するだけだ。
「シャーロット。俺は絶対お前を助ける。それは俺がそうしたいからだ。お前がそうしてくれたように……だから、俺は絶対お前を助けてやる」
ただ傲慢にそう言う。
そうして、康介は地下室の扉を開いた。
「寝るのはお前だ、バカヤロー」
目の前には大きくぶっ飛んだ盗賊の大男。
後ろにはボロボロになった金髪の美少女がいる。しかし、ボロボロになってもなおその美貌は崩れない。
「いや、今はそんなこと言ってる場合じゃねえだろ!!」
そして、一人でに自分にツッコミをしている少年が1人。
「あぁ?」
吹っ飛ばされた大男は目の前の少年を睨みつける。すると、男は少年を見るその目を大きく開いて、
「な、なんでお前が……」
そして、金髪の少女はというと、
「……どうして?あなたが……」
二人とも目の前の少年の存在に大きく動揺する。
その様子を見て、少年は満足そうに首を鳴らし、
「俺の名前は、お前でもあなたでもねえ」
そして、少年は手に持った石を上げ、高々にこう言った。
「俺の名前は荒木田康介!!困ってる人を助けるために黄泉の国から舞い降りた完全無敵の異世界人だ!!」
少年、否……荒木田康介は金髪の少女に振り返り、
「ここは俺に任せろ」
そう優しき悪魔の如く、笑いかけたのだった。
次回更新は少し開きまして、10月11日の月曜です。
ここ1ヶ月忙しいので、週1〜3投稿が続くと思います。
そして、ここまで読んでいただきありがとうございました!!
面白いと思った方はブクマ、レビュー、評価、感想をしてくれると励みになります。
特に、ブクマすると更新時通知がいきますので、とても便利だと思います!!(あと、僕の励みになります)
あと、この話も書いてる途中にパソコンが電源落ちて……
あれです。 充電コード挿し忘れていたんです。
完全に自分のせいで、自分が情けなく思えてきて、あの時はシャーロットの足を引っ張ったときの康介ぐらい悔しかったですね。
あ、ここまで読んでくれた方本当にありがとうございます(笑




