第13話 そして、始まる
康介、ファルの魂の叫び。
ちょうどその頃、盗賊団のアジトでは。
「ガレット様、シャーロットを牢に入れました。もう目は覚めていますが、抵抗はしないという様子です」
ギミンはそう現場報告をする。
シャーロットを捕らえて、無事アジトへ戻ったギミンはシャーロットを牢に入れ、無事一仕事終えたことに安堵した。
「そうか、ご苦労」
それを聞きガレットは、地下室のソファに座りながら、シャーロットの愛剣であるその剣を観察しつつそう答え、
「牢に入れたとこ悪いが、シャーロットをここに連れてこい」
「え?ここにですか?」
ギミンは思わず聞き返す。
せっかく牢に入れたのに……
なんてことは思わない。
ガレットはシャーロットをここに呼び出して何をする気なのか。
嫌な考えが浮かぶが、ギミンは答える。
「……分かりました。しかし、決して抵抗できないようにしておきます」
「ははっ、んなことしなくても剣がなきゃ抵抗できねえだろうが。素の力で俺が負けるわけねえだろ」
ガレットは笑いながらそう言う。
確かにそうだが、ギミンは油断は禁物だと思い、シャーロットを縄で堅く結ぶことを決心する。
そして、少しお辞儀をすると、地下室を出ていった。
ギミンが部屋を出ていくと、ガレットはまたその剣を触り、鞘を抜こうとする。
「力じゃ抜けねえんだよなぁ、これが。面白え」
ガレットとてなんの理由もなくシャーロットを呼び出したわけではない。では、その理由とは何か。
そう、それはこの剣を抜く方法を聞き出すためだった。
「まあ、別に抜けるか抜けないかなんてどっちでもいいがよ」
抜けない剣、聞いたことがある。
世界には、その資格があるものにしか抜けない剣がいくつか存在すると。
重要なのは、この剣がそれらの剣のうちの一つなのかということ。
「──これがそんな代物なら、また儲けもんだからなぁ」
ガレットはそうして軽くにやけたのだった。
そこは森の中。
「もー、コウスケさんってば、ボロボロ泣いちゃって」
「バカヤロウ、お、俺は途中から泣き止んだわ。お前こそなんで泣いてたんだよ」
「ワタシも途中で泣き止みましたよ。ってかいや!な、泣いてませんよ!?あ、あの時は、ちょ、ちょっと目が潤んでただけ……」
「可愛いなお前。ま、どっちでもいいよ」
そんな風に言い合っている男女(女は小鳥)が一組。彼らは、今ある場所へ向かっている。
「で、あとどれくらいで盗賊のアジトに着くんだ?」
「そうですね、ワタシがいままで見てきたところ、このルートが一番早いルートだと思うんですけど……」
今二人は、ファルが小鳥の姿となり道を先導していた。
そして、康介がそれについていく形。
ついさっきまで、お悩み相談会をしていた康介とファル。
あの後、康介はファルの手を取り、シャーロットを助けに行くことを決めた。
会ったばかりの少女(精霊)に悩みを相談して、心を持ち直すなんて、なんて格好悪い話だ。
しかし、ファルの言葉にはそうさせるほどの力があった。
康介もうまく説明できないが、ファルの言葉はストンと心の中に落ちていくようで……
「……スケさん……」
「ん?」
「コウスケさん!!聞いてました?」
「あ、悪い。聞いてなかった。ちょっと浸ってて」
「もー、何やってるんですか。聞いてもらわないと困ります。次はありませんよ。今回は特別にもう一度言いますとですね。ワタシは道を迷ったしまったようです」
「え、今なんて」
「だからーー!!ワタシは道を迷ってしまったんです!!」
「いや、そんな自信満々に言うな!よくそんな強気に出れたな!!もっと塩らしくするところだろーが、普通!」
そして、その精霊さんはというとさっきからこんな感じである。
ファルは毎日盗賊がアジトに向かうのを見ていたのでアジトへの道は覚えている。
はず、だったのだが、
「って、それどうするんだ?どうやってアジト行くんだよ」
「いえ、最も近道のルートを忘れてしまっただけで、遠回りのルートは覚えています。ちょうど今日見ましたので」
「なんだよ。なら最初から言ってくれ。で、今日見たって……いつ?」
「あ、今日っていうのは嘘です。最近の間違いでした」
ファルは慌てたようにそう言い直した。
だが、これは嘘だ。
ファルは最初、康介とシャーロットが盗賊と交戦した時、捕らえ損ねた盗賊。腹から血が出てた盗賊を追いかけていたのだ。
ちなみにファルは自身の身体を2つまでなら分身できる。その能力で一つは康介、もう一つは盗賊を追いかけていたのである。
だから、その盗賊の通ったルートなら今覚えている。
では、なぜ嘘をついたかというと、
(そんなこと言ったら、コウスケさんがその盗賊さんを逃したせいで盗賊のボスの人にシャーロットさんのことがバレてしまったって、また自分を責めちゃいますから……)
そして、ファルがそんな気遣いをしていると、
「けどさ、ファルがシャーロットが連れ去られるのを見てたなら、そのままシャーロットを追いかければよかったくねぇーか?」
「?!なんですか、その言い方!ワタシだってボコボコのボコボコのボコにされたコウスケさんが心配でそんな暇なかったんです!回復魔術までしようとしたんですよ!?」
「そ、そうだったのか。悪かったよ。悪かったけども、そんなボコボコ言うか?」
「言いますよ!ボコボコにされてましたからね。言葉通り。ボコボコですよ?言いますよね?」
「いや、知らねーよ」
康介は呆れたようにそう答える。しかし、ファルは相当プンプンとしている様子で、わざとらしくため息をついた。
「コウスケさんって最低な人間ですね。あーあ、嘘ついてまで気を遣って損しました」
「?嘘?気を遣う……?どゆことだ?」
「ん?言ってないですよ、そんなこと」
「いや、言ってわ!バリバリ言ってたわ!」
「幻聴……?」
「ちげえわ!」
「コウスケさん、能力で傷は治っても流石に生まれ持った難聴までは治らなかったんですね……」
「難聴じゃねえ!つーか、幻聴が聞こえる事を難聴とは言わねえ、残念でした!」
「とにかく、そんなこと言ってないですって」
「白々しいにも程があるぞ!」
「コウスケさん……虚言癖なのか難聴なのか。はっきりさせて下さい。これ以上言われたらもうコウスケさんのこと信じられなくなります……」
「いや、こっちのセリフだわ!……いや待て、本当に言ってないのか?」
「いや、言いました」
「なんなんだよ!?」
そう怒鳴られたファルは舌を出して笑った。
「はは、楽しいですね。こうやっておしゃべりをするのは」
「全然楽しくねえーよ」
「本当ですか?コウスケさんワタシと話してる時、いつも目を見開いてにやけてますよ?」
「なんだそれ。不審者じゃねえか。……え、本当にやってた?」
「なんで不安になってるんですか……」
こうして、康介とファルはコースを変更して、少し遠回りすることになったのだった。
「おい、ボスがお呼びだ」
そう言われ、シャーロットは牢から出る。
彼女の両腕の手首には縄、両腕にも腹を通して縄。足にも縄。
シャーロットは全く身動きが取れないまま、ギミンにボスの居場所へ連行される。
(今からどこに行くのかしら……)
ボスのところと言われてもシャーロットはガレットの居場所を知らない。
まあ、剣も持ってない今、シャーロットにできることは何もないのだから、どこに行っても従うだけなのだが……
シャーロットとギミンは少し歩き、階段を降り、1番奥の地下室に到達した。
「ここだ、入るぞ」
そう言うと、ギミンはシャーロットを地下室に放り込む。
と、そこにはソファに座ったガレットがいた。
「よう、シャーロット。怪我の様子はどうだ?」
「普通よ、さっきは気を失ってただけだから」
「はは、強がるなよ。本当は腕も折れてやがる。剣も振れねえ状況だろぉが」
「で、要件は何?ここに来させたのも何か理由があるんでしょ?」
シャーロットはガレットを睨みながら言う。
ガレットはニヤニヤしながらシャーロットを見る。
しかし、それは決していやらしい目ではなく、どこかシャーロットを面白がっているかのような目だった。
「はは、悪いなぁ。ここまで呼び出して怒ってんのか?俺から牢に行ってもよかったんだが……あそこはジメジメしてやがるからな。奴隷時代を思い出す」
ガレットはヘラヘラ笑いながらそう答え、
「そうそう、お前に聞きたいことがあってなぁ。この剣についてだが、お前なんか知ってるかぁ?」
そう言いガレットはシャーロットの愛剣を手に取った。しかし、シャーロットはその剣を軽く見た後、すぐにガレットのことを睨み直す。
「なにか、とは何かしら」
「はは、とぼけるなよ。俺がこの剣を抜こうとしても、全然抜けやしねえ。おかしいだろぉ?お前は何かタネを知ってるんじゃねえか?」
ガレットはまだ笑いながらそう言った。
「さぁ、知らないわ。あなた達が手入れをしないから錆びてしまったんじゃないの?もしそうなら弁償してもらうわよ」
「ははっ、面白えこと言うなぁ。冗談はよせよ」
シャーロットは、ガレットに迫られてもそう答え、ガレットもその答えを面白がり……
すると、ドンッ、と大きな音が響いた。
シャーロットが驚いて前を見ると、そこにはガレットがテーブルを強く叩きつけた姿があった。
「おい。バカ言ってんじゃねえぞ。からかってんのか?あ?」
ガレットの目からはイラつきがこもっていた。ヘラヘラしていたガレットが初めて見せる姿。
シャーロットはそれに少し驚きながら……
「か、からかってなんて、ないわ。ただ、私は何も知らない」
「そうか……話さねぇなら、仕方ねぇ。あんまり傷つけたくはなかったんだが……まあ、その綺麗な顔は避けてやる」
そう言うと、ガレットは立ち上がり、シャーロットを蹴り上げた。
「っ!?」
身体を縄で縛られているシャーロットはそれに抵抗できるはずもなく、受け身もとれずに地面に身を打ちつける。
「おい、話さねぇと痛い思いするぞ?いいのかぁ?」
そうガレットはシャーロットを脅す。
しかし、シャーロットは、
「どうせ私は終わった身よ……もうどうなったって構わない。しかも、あなた達も私をうっかり殺してしまったら……困るんじゃないかしら?生捕にしなきゃ金は入ってこないわよ……」
そうシャーロットが言うと、またもやシャーロットの腹に衝撃が起きる。
「ははっ、お前って奴は!!こんな時にも言い返す余裕があるのかよ。流石、『王の娘』!キモが座ってやがる!」
そして、ガレットは口角を上げながらシャーロットに迫っていき、
「……で、最後に聞く。お前は何を知ってる?」
ガレットはそう薄く笑いながら、金棒を手に取った。
(こいつ……やめる気はない、わね……)
この剣については最後まで何かを言うつもりはない。
がしかし、
「最後に……教えて……私と一緒にいた、あの人は、どうなったの?」
「ははっ、どうだ?聞きてえか?あいつがどんな死に様を送ったか」
「……そう」
シャーロットは少し笑った。
勿論、嬉しくて笑った訳ではない。
自分に呆れて笑ったのだ。
結局、自分はこの世界に何もなし得なかった。
最後に関係のない一般人まで巻き込んでしまった。
本当、自分はどうしようもない人間だ。
「……話さねえなら、少しばかり寝てろや!!」
そう言われ、シャーロットの上からガレットの金棒が振り下ろされ……
「………え」
しかし、いつまで待ってもシャーロットには金棒の衝撃が訪れなかった。
そして、気がつくとシャーロットの目の前にはガレットではなく、誰かが立っていて……
「寝るのはお前だ。バカヤロー」
そう言ってその男は──否、荒木田康介は右手を前に突き出し、ガレットを吹っ飛ばしていたのだった。
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次回更新は10月8日(木)です。




