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8.王妃陛下のお茶のお誘い

 私とアメリア嬢の勉強は順調に進んでいった。いや、むしろ私の勉強が進んだだけで、アメリア嬢にとっては基礎の基礎を復習しているような感じだったのだけど。

 


 そして私は、ボールネ公爵邸のサロンでアメリア嬢とお茶を飲んでいる。


 ん?


 何この展開。


 目の前には、花のように美しいアメリア嬢。そして、その向こうには花が咲き誇るボールネ公爵家が自慢する庭園。

 緊張しかありません。

 これは何かの試験でしょうか。


 その証拠に、お茶に誘われたのにアメリア嬢は一向に話もしない。ただ、侍女が給仕してくれたお茶を飲んでいるだけだった。

 私はつい、お茶を入れてくれる侍女の人たちにもお礼を言ってしまうのだけど、侍女に声をかけるなんてだめだとガビオラ夫人にいつも注意されてしまう。今日も思わず言ってしまい、アメリア嬢の片眉がぴくりと上がったのを、見逃さなかった。


「突然お呼び立てしてごめんなさいね」

 アメリア嬢が真顔でそう言った。

「王妃陛下から、お茶のお誘いがございました。わたくしに。是非、あなたもご一緒にとのお言葉です」

 恭しくそう言うと、私をまっすぐと見つめてくる。


「王妃陛下のお茶会――先日のようにはいかないのは、ご承知?」

 はたと思い出す。

 先日は、勢いに任せてご令嬢をぶっ叩いたっけ。


「陛下の御前でそのようなことをなされば、不敬罪になります。まして、今のあなたではお茶の作法もまだまだ――よね」

 ふうっと困ったようにため息を吐く。

 私も思い出したくない。あの時のことは。


「わたくしの名に連なってあなたにもお声がかかっているのです。

 あなたに十分な教育を施していなければ、我が家の名折れとなります。それはお分かりいただけるかしら? 

 ですから、私が責任もって王妃陛下のお茶会までにあなたにお茶の作法を教えます」


 またもや、アメリア嬢からの宣告だった。

 

 いえいえ、ご遠慮します。私には、ガビオラ夫人のスパルタ教育も待ってますんで。

 そう言って辞退しようとした私に、にっこりとアメリア嬢が微笑んでいる。


 いえ、その笑顔が怖いんですけどね。

 だって、こめかみに怒りマークが見えますもん。


 これは、逃げられない――ということですよね!?


 それからアメリア嬢のマナーの教育は、すさまじかった。びしばしと叩きこまれて、容赦なかった。少しでも弱音を吐こうものなら、扇が飛んできた。


 いや、扇が飛んでくるような勢いで――とか言った比喩ではなくてね。

 本当に素早くこう、視界に扇が飛び込んできて――手の甲をぶっ叩かれました。


 泣く。


 え? どこがたおやかなお嬢様なんですか? 彼女??


 その日のお茶の練習が終わってぐったりしていた私に、アメリア嬢が笑った。


「わたくしもね、そうやって覚えたものよ。お茶の作法を。物差しで手を叩かれて腫れあがったこともあったわ。懐かしい」

 クスクスと懐かしそうに笑うアメリア嬢に悲壮さはなかった。

「アメリア嬢も、こんなつらい思いをしたのですか?」


 私の言葉に、アメリア嬢は目を瞠った。

「――辛い、と思ったことはなくてよ? あら、ナスカ殿、あなたは辛いの?」

 意外とでもいうように、アメリア嬢が目を丸くする。

 それから少し、瞬いてから頷くような仕草をした。


「そうね――私のことはアメリアと呼んでいただいて構わないわ。

 わたくし、馴れ馴れしい人は嫌いですけど、自分の立場を忘れない方は嫌いじゃありませんから。その代わりに、あなたのこともナスカ――とお呼びしてよろしいかしら?」

 アメリア嬢――いや、アメリア様に改めさせてもらおう。アメリア様は、今までよりも少しだけ、気安い笑顔を見せていた。


 もしかしたら、アメリア様はほんの少し、私を認めてくれたんだろうか。アメリア様の言葉が嬉しかった。



 王妃陛下のお茶会――久しぶりにボールネ家を訪れたハリーはそんなに気負わないでと笑っていた。グリードもまあナスカらしくしてればいいんじゃないか? と笑っている。


 本当に男性陣は能天気だよね。呆れるしかない。



 そしてこの頃ハリーは忙しくて、ボールネ公爵家に訪れる時間がほとんどとれないと嘆いていた。ごめんね、ナスカと謝られたけど、なんて返事をすればいいのか、やっぱり私にはわからなかった。


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