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1.これが世に名高い婚約破棄というやつなのですね

 これが世に言う婚約破棄の場面——というやつなのだろうか。

 私、ナスカは、今この私の目の前で起こっている事象が、安っぽい劇団が上演しているお芝居よりもさらに安っぽい三文芝居を見せられている気がして仕方ない。


「私は真実の愛に目覚めた! 私はアメリア・ド・ボールネ公爵令嬢との婚約を破棄し、このナスカ嬢を王太子妃に迎える!」

 

 そう高らかに宣言したのは、この国の王太子ハリーもとい、フリードリヒ様だった。


「はあ!?」

 

 王宮の、煌びやかなガラスの広間と呼ばれる大広間で、豪奢なドレスを纏った姫君方や洗礼された燕尾服を着た殿方たちがひしめていている中で、誰よりも素っ頓狂な声を上げたのは、私、ナスカだった。

 そんな私にお構いなしに、ハリーは私の手をぎゅっと握ると手の甲に口づけをしてみせる。


「私の最愛の人、プロポーズを受けてくれるね?」

 

 はああ!?


 目を白黒させて固まっている私の腰を、ハリーが引き寄せた。


「お待ちください! フリードリヒ様! どういうことなのですか!?」

 何が起きているのか誰もわからずに、しんと静まり返っていた広間に女性の声が響いた。

 すっと、ハリーの前に出たのは、深紅の上品なドレスを着たとっても美しい女性だった。


 いや、こんな綺麗な人初めて見ました、私。


 金糸のような髪の毛をハーフアップに結い上げ、鮮やかなエメラルド色の瞳に怒りを湛え、さらにその色を鮮やかにさせている。真っ白い肌は淡い月の光のように輝いていて、その肌に深紅のドレスが映えている。はっきり言って、同じ人間ですか? と言いたくなるほどきれいな人だった。


「わたくしとの婚約は、父と陛下との間で取り決められた正式な婚約でございます。フリードリヒ様の一存で破棄するなどと、軽々しく決められることではございませんのよ!?」

 ボキり、と音がしそうなくらい強く扇を握りしめて、怒りに全身を震わせながらも、まっすぐにハリーの顔を見て宣言するアメリア公爵令嬢は、とても美しい。


 え? ハリー、この人との婚約を破棄するの? もったいねえ!!

「そうだ! そうだ!」

 ハリーの後ろでこぶしを上げてお嬢様に呼応すると、ハリーにちらりと横目で見られた。


「ナスカ、ちょっと黙ってて」

 にっこりと微笑みながら、圧をかけてくるハリーに私ははい、と神妙な顔をして頷くことしかできなかった。


 うん、でも待って。

 どうしてこうなった?

 私、王太子妃になりたいなんて言いましたっけ?


 え? そもそも私、ハリーと結婚したいなんて言ったことないんだけど?



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