社会不適合者の月曜日その3
社会不適合者の月曜日、帰宅後
「文系未経験から3か月で年収50万円!」
「誰でも簡単にフリーランスになれる!」
インターネットの世界には、そんな甘い言葉が至る所に散りばめられている。
特に最近多いのはプログラミングスクール関連の広告だ。
Youtubeで動画を閲覧すると頻繁に流れてくる。
清田はそういった広告が流れるたびに「不適切な広告」として報告をしているが、それでも全く減る気配がない。
――プレミアム会員になって広告が流れないようにしたい
これまでに何度も考えては却下してきた考えが頭をよぎる。
月2000円近い費用を払えば、広告なしで動画を閲覧することができる。
良くも悪くも全額支払われる残業代のおかげで、清田の生活費にはそれなりに余裕はあり、決して支払えない金額ではない。
それでも清田はこの広告を己の視界から完全に消去することを良しとしなかった。
――これは教訓として残しておかなければならない
何を隠そう、清田も大学時代にこの手の誘いに騙され、高いお金を支払ってスクールに通い、失望させられた若者の一人であるためである。
3年前、理系大学の3年生であった清田は、自分の専攻科の研究に興味を抱くことができず、同じ研究室の同期の中で唯一、大学院に進まずに就職することを決めた。
その際、自分の専攻に関わらず就ける理系職として、IT業界のエンジニアを目指したのである。
清田は、その決断自体は全く後悔していなかった。
どう頑張っても当時の専攻に興味を持つことはできなかったし、なんとなく大学院に進学してなんとなくそれっぽい研究をする2年間を過ごすよりは、さっさと社会に出ていろいろと経験を積んだほうがよいだろうと考えていた。
実際、社会人2年目に入り、――「経験」が当初の予想とは少し違ったが――それは正しかったと思っている。
清田が後悔しているのは、就職が決まった後の過ごし方であった。
清田は、就職までの事前学習として、某プログラミングスクールに頼ることを選択してしまったのである。
自分が騙される側になるとは思っていなかった清田は、かなりのショックを受けた。
むしろ、何も考えずなんとなく大学院に進むような学生に比べれば正常な判断ができると信じていた。
――銀の弾丸など存在しない。地道にやるしかない。
清田はこの類の広告を見るたびに大学時代の愚かさを思い出し、もう二度と騙されまいと心に誓うのが習慣になっていた。