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1話 私という人間は

http://ylvania.org/jp/elona/

この物語は、Elonaというフリーゲームの二次創作です。

二次創作は自由ということでさせていただきました。

ところどころ自己解釈が含まれたり、用語の解説がなかったりします、ご了承ください。

 昼とは違う活気をみせる炭鉱街ヴェルニース。

 炭鉱で採掘をし終えた炭鉱夫達が酒場で酒を流し込み疲れを癒す。

 まあ、私からすれば泥酔した炭鉱夫達は絶好の獲物、なのだが。

 この世界は私が元居た世界よりも顕著に闇が露呈している。

 盗み、殺人、人肉食……。

 最初は戸惑ったが、元より息をするように嘘をつき、人を信用しない私にとっては適応しやすかった。

 それどころか、盗みで命をつないでいる今のほうが、自分らしく生きれている気がする。


(今日もカモ見つけないとな)


 酒場の裏や路地裏は、私と同様の、いわば盗賊がテリトリーをつくり、カモが張り巡らされたテリトリーへ入ってくるのを待つ。

 盗賊と聞くと、盗むだけのように聞こえるが、盗むだけで終わる輩はこの世界には中々いない。

 ガードは一応街を警備しているが、元居た世界の警察のように通信機やネットワーク、パトカーなどの文明の利器を持たないため、欺くのは容易い。

 そもそも、この世界のガードは盗賊を捕まえる、というよりも街にモンスターが侵入するのを防ぐのが本職のようで、機敏に動ける装備ではなく、重さのある鎧と武器を装備している。

 話を戻そう、盗賊と呼ばれる奴らたちは、盗むこともあるが、主に人目のつかないところでターゲットを殺し、金品を根こそぎ奪っていくことが多い。

 私はこの世界に慣れてきているとはいえ、人を殺すのには抵抗があるため、盗むだけ、もしくは多少の暴行を加えて脅すなどして、命を奪わないことがほとんどだ。

 意図せず命を奪ってしまうことは極稀にあるが、その時は自分を責めてしまい、精神復活のポーションなどで気を紛らわす。

 盗みを当然のようにする人間にも、罪悪感があるのか、って?

 そりゃそうさ、むしろ麻痺していないだけお利口さんだろ。

 ふらふらと路地裏を歩いていると、視線を感じ足を止めた。

 一人じゃない、複数人だ。


「お前が最近俺らの縄張りを荒らしてる、《不殺傷の深緑》か?」


 不殺傷の深緑、それが私につけられた二つ名。

 自分でつけたわけではなく、誰かがそう呼んでそれが広まってしまった、というだけだが。

 不殺傷、はその言葉の通り、殺すことをしない、という意味で……え? 殺したことがあるんじゃないのか、って?

 その通りだ。

 誤って殺してしまったことはあるが、その現場を見られたり、後から私が殺したとばれてしまったことはない。

 つまり、私が人殺しをしていることが誰にも伝わらず、盗みしかしない女、としか思われていないのだ。

 そして深緑。

 これは私がこの世界に転生した際に唯一持ち込めた私物の、深緑の髪留めが由来だろう。

 葉を模った髪留めで、なんとなく心を惹かれて購入し、なんとなくつけていた。

 転生に際して服はそのままだったので、髪留めも服扱いでそのままだったのだろうか。

 そんなことはどうでもいいが。


「ここは俺らのギルドの縄張りだ、知らなかったでは許されない」


 軽外套を羽織った男たちが屋根の上や物陰から、ざっと6人ほど姿を出す。

 路地裏の一本道に立ちふさがり、屋根の上に一人が待機している。

 逃げ道を閉ざされた、ということか。

 正確には、閉ざされた空間に入り込んでしまった、というべきか。


「私はルーア、覚えておくといい」


 不殺傷の深緑なんてダサい名前では呼ばれたくない。

 冥土の土産にでも覚えていってもらおうか。


「正気か? この人数差で勝てるとでも?」


「じゃあ金品を置いていけば逃がしてくれるのか」


「ま、逃がさねぇけどよ……随分肝が据わってるじゃねえか」


「誉め言葉か? そりゃどうも」


 一触即発、張り詰めた空気が辺りを覆う。

 私は腰に引っ提げたミスリルのダガーを右手で握り、前方の男めがけて姿勢を落としつつ走り、懐へ滑り込む。


「はえぇな、おい!」


 べらべらと言葉を並べていた男の首元を、胸元から斬り上げる。

 血しぶきが私の外套に降り付くが、そんなことはどうでもいい。

 後ろへ倒れ行く男を足蹴にし、もう一人に飛びつく様に空を舞うと、心臓を一突きにして息の根を止める。


「不殺傷じゃなかったのかよ……!」

「兄貴! ってめぇ調子乗んなよ!」


 口々に言葉を吐き出し、残りの4人が臨戦態勢に入る。

 視界の端で、屋根から飛び降りるようにして私に斬りかかろうとするのが見えたので、殺した男の腰からダガーを左手で拾い上げ、流れるように垂直方向へ飛ばす。

 顔面の中心を捉えたダガーは、深く刺さりこむ。


「飛び降り自殺が得意技か、おもしろいな」


 ぐしゃっと大きな音を立てながら地面に叩きつけられた盗賊。

 それをみて怯えながらも、半ばやけくそで残った3人がこちらへ向かってくる。

 こうやって冷静さを欠いた人間は、振りが大きくなるのでよけやすい。

 今日は大漁だな。

 二人の男の間に滑り込み、二人の首元を回転しながら斬りつける。

 残った一人はあまりの速さにひとテンポ置いてから状況を理解し、背を向け逃げ出す。

 しかしひとテンポの遅さが、命取りだったな。

 うなじめがけダガーを振り、その場を制圧する。

 残ったのは血だまりとなんの役にもたたないゴミくず。


「一応漁るか」


 手持ちの金と、ポーションをいくつか拾い上げ、その場を去る。


 今日もクリムエールにありつける。

 ダガーを小さな鞘にしまい、いつもの酒場へ足を運ぶ。

 返り血を浴びた外套で怪しまれないか、って?

 私の外套は黒く、街灯もまばらなので、顔についた血だけ拭えばばれることはない。

 というか、血を浴びすぎてもはやそういう柄のようだった。


「しけてるな」


 手に入れた金を数えながら、私は街の大通りを外して歩いた。


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